第30話

 ……ふむ。話は聞いた。しかしどうしてやりようもないな。

 そも、吾輩は人間どもより賢く有能には違いないが、全知全能には程遠い。現に今、作物の悩みを聞かされても、何もわからんのだから。

 

 『植物の……話ですから……、地精霊の奴に聞けば何かわかると……思うのですが……』

 

 火精霊が“忸怩たる”というのを体現する様な雰囲気で進言してきた。こやつが吾輩に頼るのを申し訳なさそうにしていたのは、今日相談に来た時からずっとであるが……、解決策まで見えていたのか?

 

 「では、聞けばよいではないか」

 

 少しの不機嫌さが声に混じってしまったのは仕方がないというものだ。

 

 「今度は急にどうした、タヌキ? 何もないところに向かってぷりぷりと拗ねたりしおって。か、可愛い素振りで励まそうとしても、俺は……俺は……」

 

 わなわなとしだしたバルドゥルは申し訳ないが、一旦放っておこう。吾輩ほどの勇士が、ほんの少しとはいえ負の感情を滲ませてしまったのだ、人間程度なら怯えて震えてしまっても責められはしない。

 そんなことより、今は火精霊だ。

 

 『その……、俺は……地精霊とは折り合いが悪いもので……』

 「つまり、日頃から仲が悪いから、頼み事など聞いてもらえない、と?」

 『……はい』

 

 なんてことだ。火精霊の頼みというのは、バルドゥルの悩みの解決ではなく、別の精霊との仲介役になって欲しいなどということだったのか。それは気まずそうにもするであろうな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る