第7話

 馬車の周りをぐるりと囲んで並走していた騎馬武者は五騎だったが、今はその全員が下馬して馬車の前に布陣していた。

 やはり問題事であったか、何せまだ人里の影も見えず相変わらずの草原の真っただ中。加えて武者たちの向こうにはまるでトラックのような大きなイノシシ、という状況だ。

 

 ふむ……難儀だな。吾輩は勇猛果敢にして一騎当千の強タヌキツワモノではあるが、さすがに自動車には勝てないことがつい最近になって証明されたばかりでもある。

 あのイノシシが実際どれほどのものかはわからぬが……、エリスだけでも何とか逃がす方法を考えなければならぬかもしれん。

 

 「精霊術を準備する。すまんが何とか持ちこたえてくれ!」

 

 出会いの時にエリスを制止しようとした見る目のある武者が叫び、他の四人は前に進み出てイノシシと対峙する。

 よくわからないが……、薄く緑色に発光し始めたあの武者が何か切り札を持っているということか? そうであるならば……、吾輩もこの目にもとまらぬ俊敏さでかく乱として参加すれば良いだろうか。

 

 『ミ、ミティア様の気配!?』

 

 何だ? 声……ではないのに“聞こえた”これは!?

 

 『あ、あ、あの! 茶色くてまんまるなあなた様は、ど、ど、どちら様でありましょうか!?』

 

 調子っぱずれな誰何の声。不思議な伝わり方をするそれは、吾輩の英知を示すように屹立する耳のすぐ横からだった。

 

 『……!』

 

 固唾をのんで吾輩の返答を待つそれは、背に二対四枚の羽が生えた、小型の人間だ。吾輩の顔より小さいものを人間と呼んでよいのかはわからぬが……。

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