第2話
さて日も傾いて夕方だ。逢魔が時ともいうこの時間帯は“色々”と危ない故に、吾輩が見回りをしてやらんとな。
我が同胞たちであればまだ眠い目を前脚でこすっているような時間帯ではあるが、吾輩ともなると活動時間に制限などないのだ。
「タヌさんだ~、こんにちは!」
「うむ、御機嫌好う」
吾輩が立つコンクリート壁から見て下方を、幼い人間が元気よく駆けていく。人間は愚かだが、何故か子供のうちであれば比較的礼儀をわきまえていることが多い。吾輩にもきちんとした態度で話しかけてくる、このように。
大人となると、大抵の場合は恐れ、驚き、取り乱す。ひどい時には恐怖のあまりにか吾輩を捕らえようなどという常軌を逸した行動をとることすらあった。
吾輩とて一匹のタヌキだ、感情というものもある。だからこそ、こうした見回りにおいても自然と幼いものへと視線がいこうというものだ。
とことこと、ぽこぽこと、歩き回って見て回る。
うむ、今日も今日とて人間は愚かで、そして我が住処は平穏だな。
……む?
あの幼い人間は……、あのように脇目もふらずに走っては危ないぞ。あの先の横断歩道は信号がないわりに車通りが多いのだ。
キイイイイィィ
「っ!」
やはり人間とは度し難く愚かだ。
あれ程大きくて速い鉄の塊は奴らの力では御しきれないにもかかわらず、大量につくり、野放しにしている。そして危険にさらされた子供はただ目を瞑り、周囲の大人は助けるでもなく固まっている。
ドグッッシャッ
衝撃、それに続いて全身が粉々になったかのような激痛。
「あ、あぁ……。た、タヌさん……」
暗くて見えないが、あの幼い人間は無事だったようだ。何よりだな。
「おい! 子供は無事だぞ!」
「ほ、本当か!? 一体なにが……?」
「タヌキが飛び出してきて代わりに……」
「は? 何言ってる?」
騒がしい。吾輩はとても疲れているのだ。それを察して静かにすることもできぬとは、やはり人間とはなんと愚かなのだ。
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