世界記 吸血種統括ジェイミー備忘録 新たなる夜明け 吸血種シリーズ3

ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン

怪物まみれのこの世界で、今もボクは生きている


チリチリと照り付ける心地のいい陽光が

閉じた瞼に降り注いで光を差し込ませる

しかし、それは時折暗い影によって上書きされ

すぐにまた眩しいまでの光を取り戻す。


何のことは無い、朝早くの海岸

ボクはこの時間帯の日光浴が大好きだった。


黒い水着を着て、砂浜にシートを敷いて寝っ転がる

聞こえてくるのは海のザザーンという音と

感じるのは柔らかく吹き付ける風の感触。


ああ、あとはそうだね


「ギィヤァァァァァァォァァッ!!!!」


ボクの足に噛み付いて

必死にかみちぎろうとする海洋生物の鳴き声と

空を覆い尽くす程に巨大な龍が、何体も何体も

ボクの上を忙しなく飛び回ってる光景もある。


「結構美味しい、いけるねコレ」


そんな喧しい状況などお構い無しに

ボクは、その辺の木に実っていた果実を

ポーンと口の中に放り込んでいく。


無色透明の不思議な果実だが

味はそんなに悪くは無い。


「ギィヤァァァァァァォァァーーーッ!!!

ギャアオアオアオアオアオアーーーーッ!!」


びっちびち、バッタバタと暴れながら

砂を巻き上げてのたうち回り、ボクの右足を

なんとか腹の中に収めようとする海の怪物。


ボクの頭ぐらいの大きさの牙を

必死に、何度も何度も突き立てるソイツは

足のみならず全身をも飲み込もうと

砂浜の上で身を捩っているけれど


ボクの、噛まれて居ない方の左足が

ヤツの鼻っ柱を踏み付け、それを阻止している

それ以上登って来られると水着に傷が付くからね。


また、頭上をバッサバサと旋回している

だいたい20匹の龍は、群れを成して飛び回り

地上を、つまりボクの事を睨み付けている。


奴らは、この足元の化け物と違って

考えられる頭を持っている様なので

1度こっぴどくやられた相手に対して

そう簡単に攻撃は仕掛けられないのだろう。


こっぴどくやられた、と言うか

何をしても通用しなかったので諦めたと言うか。


それはそれとして、自分たちのテリトリーに

入ってくるのを見過ごす訳にはいかない……

龍の生態に詳しくはないが、多分そういう事だ。


「グァグァグァグァグァ!!!」


「それにしてもこの魚、水からあがって

もう2分になるのに随分と元気だねぇ」


同じ種類の魚を知ってはいるが、前見た時は

海の中から水圧のカッターを飛ばしてくるだけで

地上にあがっては来なかったのだが……。


まさかこの短期間で、ボクを食う為だけに

地上に上がれる様に進化したとでも言うのか

……それって生き物としてどうなんだろう?


上に飛んでる龍たちも、少し前までは

ボクの姿を見ればお構い無しに火を吹いて

噛みつき、鉤爪をお見舞いしてきていたのに

今ではすっかりお利口になっている。


学習能力、及び進化速度の速さ

それが今のこの世界の生き物の、特色なのだろう。


もっとも、そんな彼らでさえも

このボクの肌には未だに、傷ひとつ

かすり傷さえ負わせられないのだが。


採った果実をひとつ、ふたつ、みっつと

続けて口の中に放り込んでいき、咀嚼する

味は悪くないが食感がイマイチ好かないな。


種をボリボリと噛み砕きながら

ボクは指をぺろぺろと舐めって汁を取り

未だに噛み付いたままの海洋生物を蹴り飛ばした。


「キェェェェェェェーーー…………」


物凄い勢いで吹き飛んで行った化け物は

はるか遠くの海面に、派手に着水し

天高く登るほどの水飛沫を上げた。


ボクはその場に立ち上がり


「うーーん……!」


などと、気持ちよさそうな声を出しながら

思い切り伸びをして日課の日光浴を終わらせた。


真っ黒い水着が太陽光を集め

少々ばかり熱を帯びている


纏っている物とは対象的な白い肌は

どれだけ長時間陽の光に晒されても決して荒れず

黒くなる事もないので、時折羨ましがられる。


砂浜に足跡を残しながら、裸足で歩いていき

そのままボクは森へと足を踏み入れた。


そこは先程の青と肌色の世界と打って変わって

淡い赤色を基調とした森の中だった。


ボクはその中を


ブンブンと衝撃波を撒き散らしながら

音速で飛行する羽虫の大群やら

不用意に近寄ると毒針を撒き散らす極彩色の花や

鋭い刃のような出っ張りが沢山ある大蛇だとか

幻覚を見せる作用のある酸性の紫色の霧だったりに


四方八方からちょっかいを掛けられつつ

特に気に止める事もなく、前に進み続けた。


空は、生い茂った木に覆われて見えないが

翼が風を切る音は今も尚聞こえてくるので

大量の龍たちは、まだ着いてきているらしい。


「日を追う事に数が増えている気がする」


少し前までは、居ても数匹だったはずだ

それがいつの間にか10匹になり、ついには

ヤケになったかと思うほどの数に膨らんだ。


20匹だぞ、そんなにボクの所に集まって

自分たちのテリトリーは守れるのだろうか


たしか、彼らのもっぱらの敵は

火を食う怪鳥だったはずだが勢力圏の争いは

決着が着いたのだろうか?もしそうだとしたら

惜しい事をした、是非見届けたかったのに。


火を食う怪鳥は熱を感知するので

龍の体内にある炎の炉が仇となる


そして数百匹単位で群れをなすので

群れの規模が小さい龍種とは相性が悪く

圧倒的物量で押し切られてしまうのだ。


もちろん勝てる個体もいるのだが

全体数が圧倒的に少ないので、種族としては

火を食う怪鳥に勝つ事が出来ないのが現状。


しかし一方で

何かしらの進化をしている可能性もある

出来れば見逃したくは無いのだが、仕方ないか。


このように、今の世界にはパッと見

訳の分からない進化を遂げた生物が多数存在する

彼らはまだ淘汰される前の大自然の生き物なので

きっと、生命として試行錯誤の途中なのだろう。


環境に適応出来なかったり、自分の力を持て余し

勝手に自滅してしまう生き物も多く存在する。


例えばさっきの音速で飛ぶ羽虫

彼らは非常に獰猛で、動くもの全てに対し

衝撃波を撒き散らしながら攻撃を仕掛けるのだが

この森においてそれは、最悪の自殺行為である。


ブン!ブン!と強烈な破裂音を鳴らし

ボクに向かって突撃を繰り返す虫たち

彼らが動く度に、大気が揺れて破壊が巻き起こる。


地面がえぐれて、草が根こそぎ千切れ飛び

そこら中に生えている淡い赤色の木が傷つく

幹が折れる、枝が砕ける、葉っぱが散る。


すると突然


——パァン!


ボクの目の前で

跡形もなく木っ端微塵に吹き飛んでいる

それは1度だけではなく、何十、何百と続き

そこら中に緑色の血液を撒き散らしていく。


……何が起きたか、それは木を壊したからだ

この独特な色をした木は、己を傷付ける者に

その者が与えた傷を、そのまま返してくるのだ。


故に、毒針を噴射する花や

飛ぶ度に衝撃波を起こす羽虫などは

環境に適応出来ずに自滅していく。


ただ、何事にも例外は存在するものだ

羽虫の群れの中には稀に、音速で飛べない

生まれながら欠陥を抱えた個体が生まれる。


彼らは本来失敗作であり劣等種であるはずが

こと、この環境においては非常に役に立つ。


どうだろう?これを見てボクは、まるで

生き物と環境が戦っているかのようだと思った

大自然の意志とでも言うべきだろうか?

彼らは皆、淘汰されまいと必死で生きている。


虫も、蛇も、龍も木も

驚くべき速度で成長し、そして進化している

人間が滅んでからおよそ2億年が経過した今

世界はまさに新たな時代へと突入していた。


そんな中で、このボク吸血種ジェイミーは

古代の遺物であり、いわば化石みたいな物だが

割と好き放題やれていると言うのが現状である。


「キミたち、噛み付くの好きだねぇ」


ボクは呆れ半分に、踵の辺りに噛み付いた

異形の怪物に対して、そう呟くのだった。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


森を抜け、マグマのように赤い

灼熱の岩肌を歩いているボクは

自らの拠点に戻っている歳中であった。


頭部を鷲掴みにして握り潰そうとする怪物

背中に何度も槍を突きつけてくる人型の獣

頭上にはさらに数を増やした37匹の龍

地面の中を泳ぐ土竜の様な姿の小動物などなど


まるで妖怪百鬼夜行の様に

魑魅魍魎を引き連れて歩いていた。


「アンギャアアアアアアア!!!」

「ピギャアアアーーーーーッ!!」

「ガルルルルルルーーーー……!」

「キュイ!キュイ!キュイーッ!」


時間が経つにつれて

ドンドン絡んでくる生き物が増える

ギャーギャードタバタと非常に賑やかだ。


ボクがあまりにも悠々としているので

傍から見ればじゃれている様にも見えるが

彼らは明確に殺意を持って攻撃してきている。


ただ、各々が持つ攻撃手段が

まるで通用していないというだけのこと。


いっそ、完全に殲滅しても良いのだが

どうせ数十分もすればまた元通りになるので

手を出すだけ時間の無駄、というやつだ

いたずらに生態系を乱すのも忍びない。


だから


他の生き物と他の生き物同士が争い始めて

肉を引き裂いたり、捕まえて叩き付けたり

血の雨が降ったり、肉片が飛び散ったりして


飲んでいる果物ジュースの味と血の臭いとが

口の中で合わさって少々ならず不快であっても

こればかりは仕方ない、と割り切って諦めていた。


嗅覚を遮断することは出来るが

それをすると今度は飲み物の味が損なわれる

堂々巡り、負の螺旋階段、実に不毛極まりない。


まあいいさ、もう慣れた

何故かボクはこの世界じゃ、何処を歩いても

こうやって生き物に襲い掛かられるんだ。


生きた時代が違うから異物扱いされているのか

生物としての、野生の本能がそうさせるのか

その辺の調査もやっていく必要があるだろう。


と、


だんだん道が険しくなってきた

比較的平らであった岩肌は徐々に角度を付け

今ではすっかり断崖絶壁の様相を呈していた。


灼熱の大地は、その熱により

物質と物質の結合を緩めて脆くする


それにより、図体の大きいバケモノ共は

己の巨大質量を支えきれず、足場が崩れて

甲高い悲鳴を上げながら落下していく。


ただでさえ足場が狭く、その上弱いので

彼らのような生き物はここを登れないのだ

ボクのように体重が軽く、素早くなければきつい。


溶岩のように熱い、グ二グ二の足場は

ボクの足を容赦なく焼き払いに掛かるが

この程度の温度、どうってことは無い。


「なんだか前よりも頑丈になったかな」


なんて、お気楽な事を言いながら

ボクはひょいひょいと崖を登っていく

最初は登り方を間違えて落ちたりしたものだが


流石に、自分の拠点に帰る為の道なので

こうして何度も通るうちに、何処を行けば

安全に登れるかを見分けられるようになった。


「……それでも、キミたちは着いて来るんだな」


崖を登りながら


頭上を跋扈ばっこする龍種達を見上げて、呟く

彼らは徐々に散り散りになって数を減らしているが

それでもまだ、18匹程が着いてきていた。


「そんなにボクが気になるのかーーい?」


話しかけてみたところで

彼らからの返事が、返ってくるはずもなく

翼が風を切る音が聞こえてくるだけだった。


やがて、崖の途中にある洞穴に辿り着いた

その洞穴の周辺だけは、他と様子が違っている

明らかに、人の手が加えられた形跡があるのだ。


断崖絶壁、雲の上の洞穴

血の力によって固められ、外部とは隔離され

山肌をぶち抜いて作られた、広大な人口洞窟。


こんな大自然の世界において洞窟と言えば

無機質で、質素な物を思い浮かべるだろう

真っ暗闇で、物悲しく、寂れた灰色の洞窟。


しかし、そうで無かった

`断崖絶壁の洞窟`という言葉を聞いて

誰しもが思い浮かべるような光景はそこに無く。


フカフカで高貴、赤と金の刺繍が施され

架空の生き物が描かれた、美しい模様の絨毯


壁には、よく分からないセンスの絵画が掛けられ

洗練されたデザインのソファにベッド、ランプ。


それらは、かつて滅んだ文明の名残り

大戦争で崩壊してしまった家屋の中から

`そのまま朽ちさせるのは勿体ない`と


磨いたり、直したり、補強したりしながら

少しづつ時間を掛けて再生していった家具たち

ここにある物が全てでは無いが、手持ちの中でも

特に気に入っている物を、持ち込んで使っていた。


部屋の中央


木を加工して作ったテーブルの上には

ボクが旅先で`美しい`と感じた花が飾られている

枯れないように毎日、世話をしてやってるのだ。


もっとも、特に手を加えなくても

この世界の植物はとても生命力が強いので

適度に陽の光を当ててやれば、それで事足りる。


「やあ、ただいま」


誰もいない空間に挨拶をするのは

最近いつのまにか習慣になっていた事だ

腰に手を当てて、ふっと息を吐き

我が家に帰ってきた事を実感する。


「元気にしてたかい、セントラ」


テーブルの上の花に声を掛ける

花びらの色艶が良い、健康そうで何よりだ

昨日の夜与えた栄養剤が良かったのかな?


ちなみにセントラというのは

生まれ故郷の言葉で`可憐な淑女`を意味する

花につける名前として、これ以上はあるまい。


普通は枯れてしまうと思うのだが

ここに連れてきてから既に300日経過している

この分だとその心配は無さそうだ。


ボクは水着を脱いで棚に仕舞い込み

衣装棚を開いて、どれを着ようか頭を悩ませる

久しぶりにスーツを選ぶのも良いかもしれない。


いいや、いっそフリフリのヤツを着ようか

それともストレートに男装でいこうかな?


しばらくの間、そうして時間が過ぎていき

やがてボクは最初の案を採用する事にした。


「……キマッてるかな?」


姿鏡で自分の姿を確認して調子を確かめる

もっとも、自分じゃよく分からないのだが

衣服のセンスは理屈でしか理解していないので

パッと見の感覚では、判断が出来ないのだ。


いっそ誰かが見てくれたら

指標とも成りうるのだが……。


と、その時


「——さん!ジェイミーさん!」


洞穴の入口付近から声が聞こえた

その声の主は、顔を見なくても分かる。


「おや、なんて都合が良いんだろう

ちょっと見てくれないかい?コレどうかな

似合ってる?それとも何処か変だろうか?」


その人物の方へ、くるっと振り向きながら

自分の姿を見せ付けるようにしてみせる。


すると、その人物は


「あぁっ!それ懐かしいっすね、うわぁ

確かアレっすよね、任命式やった時の!


似合ってるっす似合ってるっす

その姿のジェイミーさん好きなんすよね」


彼女はボクの方へと歩み寄ってきて


へぇー!だとか、おぉー!だとか言いながら

屈んだり、立ったり、後ろに回ったりして

無遠慮に観察して見て回った挙句。


「隙アリっす!」


などと言いながら

ボクに抱き着いてきて


「お久しぶりです、ジェイミーさんっ!

2年ぶりっすねえ!ちょっと痩せたっすか?

いや変わんないかー!あっはっはっはー!」


耳元でわいのわいのと騒ぎ立て

ワシャワシャと乱暴に頭を撫で回し

前後左右に揺らしてきた。


そしてボクも、特に抵抗はしない

だって、なぜなら彼女は——


「久しぶりだね、リリィ」


「情報屋リリィ……ただいま帰還致しました!

吸血種統括、我らがボス!ジェイミーさん!」


ボクらの頼れる情報屋

吸血種リリィなのだから。


──────────────────


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