第15話 時の実る
半ば予想していたことであるが、打球が飛んでこなかった。
とはいえ大介の打球は鋭かったし、ブリアンの打球も高く上がり、それなりの期待は観客にも持たせることになった。
いや、観客としては、全くボールが飛んでいかないことを、見たかったのかもしれないが。
センターからベンチに戻ってきた織田は、悩ましげな顔をする。
確かにWBCでも直史のバックを守ったことはあるが、一試合を通じてとなると、あまりにも退屈な時間が過ぎるのではないか。
これはバットで貢献しなければ、完全に立場がないぞ、と考えたりもする。
同じ立場のはずの鬼塚は、どこか諦め顔である。
そしてMLBでも同じ地区のアレクはニコニコと笑っていた。
「さてと」
バッティング用のプロテクターを装着し直した、四番の樋口がバッターボックスに向かう。
四番を打つなどいつ以来であろうかと考えると、高校以来ということになるだろうか。
大学では三番や五番に六番、プロでも三番や二番といった打順が多かった樋口である。
ただ今日のメンバーを見れば、確かに一番四番らしいバッティングをするのは、樋口ではないかと思われる。
三番の悟も打点王のタイトルは取っているので、選ばれてもおかしくはないと思ったが。
そしてバッターボックスに入ってマウンドを仰ぎ見れば、そこには巨漢の上杉がいる。
西郷ほどではないが、上杉も身長と体重を兼ね備えた、強大なパワーを誇る選手である。
実際に、出場した回数が多いからというのもあるが、甲子園での打ったホームラン数は、西郷よりも多い。
ピッチャーのくせにここまで、50本以上のホームランを打っているのだ。
二刀流がいけるのではないか、などとはプロ初年度から言われていた。
しかし古いタイプのエースであった上杉は、ピッチャーであることにこだわった。
セのピッチャーであったので、自然と初年度から打席に立ったが、打率はこの一年目が一番良かった。
高校時代は最後の夏までは、四番も打っていたのが上杉なのだ。
その上杉から、最後の夏で四番を奪ったのが、この樋口である。
運命の働きの強さというのは、なんとも皮肉なものであろう。
そこから樋口はもう、日米通算で200本以上のホームランを打っている。
NPB時代はトリプルスリーも達成しているのだが、キャッチャーでこれを達成するというのは、はなはだ不可解である。
キャッチャーとして通用しなければ、他のポジションを守らせてもいいだろう、などとプロ入りの時には言われたたし、キャンプでは内野も守ったりしていたのだ。
だが結局は正捕手の怪我からキャッチャーを守ることになり、一年目からスタメンで残りの試合を過ごした。
そこからはずっと、故障した年を除けば、三割二桁ホームランを、ほとんどの年で達成している。
盗塁も二桁をずっと続けているあたり、その運動能力の高さを示しているのだろう。
さて、と。
上杉もまた、この樋口を一番警戒していた。
春日山が甲子園の頂点に立つために、必要だと思った最後のピース。
事実樋口は、上杉が卒業した後に、その弟の正也と組んで、甲子園を初制覇している。
新潟県勢としても初めての優勝であった。
その特徴としてとにかく言えるのは、追い込まれれば追い込まれるほど、チャンスであればチャンスであるほど、決定的な仕事をしてくれるということだ。
樋口を翻弄したと言っていいようなピッチングをしたのは、おそらく直史ぐらいではなかろうか。
プロ入り後には何度も対戦しているが、樋口には数少ないホームランを打たれている。
ここでもまた一本のホームランが、決定打となってもおかしくはない。
この試合では、せいぜい三回までしか投げられないのが、残念といえば残念だ。
上杉と樋口の対決。
これもまた因縁と恩義との複雑な絡み合い。
もっとも因縁に関しては、弟の正也の方が大きいのだろうが。
(どこまで成長したものか)
上杉はほんのわずかに、自分の力が下降曲線を描き出したのを理解している。
そして樋口に関しては、MLBのピッチャーとの対決によって、その打撃力は上昇しているはずなのだ。
初球のストレートから、樋口はしっかりと反応してきた。
内角に放り込まれたストレートを、バットのやや根元に近い部分で打ち返す。
そのつもりだったのだが、バットが砕け散った。
ボールは転々と、ファールグラウンドを転がる。
捉えたと思ったはずの樋口は、痺れが残る両手を見ながら、持ち手だけが残ったバットを見る。
(昔より球質が重くなってないか?)
それはありうるかもしれない。
上杉のボールは故障前に比べると、ボールの回転数はやや落ちている。
つまりボールの持つ運動エネルギーは、前にかかっているものが一番大きく、反発する回転力は減っているのだ。
グラウンド内のバットの残骸も、さっと掃除されていく。
樋口は自分の予備のバットを持つが、単に打っただけであれば、力で持っていくのは無理だなと判断した。
(ミートポイントをこんなに気にしなくちゃいけないとはな)
だがそれが、上杉勝也と対戦するということなのだ。
先頭バッターである自分が塁に出れば、後続が採れる手段は増えてくる。
本日は特に誰が監督とかを決めているわけではないが、作戦は直史が考えるのだろうか。
草野球であるので、そこまでも考えていなかった樋口である。
(だが結局のところ、上杉さんが投げている間は、一点も取れないのは確かじゃないのか?)
打者一巡か、三回を投げたところで、交代するのがBチームの予定である。
上杉が無理を言ったら通ると思うが、そういった無理は言わないのが上杉だ。
二球目の外角の球を、樋口は見送ったがこれはストライク。
(内に目をつけてると、外が届かない)
どちらかは必ず、狙いを絞らないといけないわけだ。
そしてその読みが当たったとしても、上杉の投げるボールである。
160km/hを簡単にオーバーしてくる速球が、手元でぎゅんと曲がるのだ。
空振りするほど曲がることは少ないが、ジャストミートすることは当然難しい。
速球系が二球続いたので、今度はチェンジアップを投げてくるか。
一応カーブも球種に入れた上杉だが、樋口からすれば他のボールとは完全に区別がつくものなのだ。
140km/hを簡単に超えてくる速度の、チェンジアップの定義に喧嘩を売るようなチェンジアップ。
だがそれもバウンドするほどに落ちなければ、樋口なら打っていける。
結局上杉が投げたのは、高目への170km/hストレート。
空振りをした樋口であるが、それでもフルスイングはしていった。
無様に尻餅をついてしまったが、ボール球でなければ打てていたはずだ。
あれを打ちにいったのか、と上杉は楽しくなってきた。
樋口はやはり成長し、狙い球を絞っていっていた。
しかしボール球を投げさせたのは、キャッチャーの福沢である。
同じスターズのキャッチャーだけに、上杉を操縦することが出来るのだ。
樋口は五番の小此木に対して、あまりアドバイスをすることも出来ない。
いつの間にやらNPBを代表するセカンドにまで育った小此木は、打率と選球眼に優れ、走る野球が得意な男だ。
長打もシーズン二桁ほどはホームランを打っているので、間違いなく一流と言っていい。
ただ上杉を打ててはいない。
さすがに一本もヒットを打てていないというほどひどくはないが。
上杉はこれに対して、ストレートで押していく。
小此木も高い打率と出塁率を誇るので、むやみやたらと振ることはない。
だがゾーンで勝負されても、上杉のボールはまともに当たるものではない。
それでも打ったら、またもバットが折れてしまった。
今度はボールはフェアグラウンドを転がり、ショートゴロを大介が処理してアウト。
普通にレギュラーシーズンでも対戦しているのだが、去年の上杉のボールは、こんなに重かっただろうか。
またもバットが粉砕されたものを、掃除するのに時間がかけられる。
上杉のピッチングは、とにかく派手だ。
試合が終わってから見ると、直史の数字の方がおかしいのだが、上杉は一球で観客を魅了することが出来る。
球速は武史と変わらないのだが、折っているバットの数は、確実に上杉の方が多い。
この違いはやはり、ボールのスピン量に関係しているとは思う樋口である。
六番はDHとして入っている孝司であるが、直史はグラブを傍に寄せ、樋口に語りかける。
「点は取れそうか?」
樋口はプロテクターを装着しながら、甘い考えなどは述べなかった。
「一応三回までしか投げないそうだから、それからが勝負だろうな」
「だがパーフェクトで抑えられると、それは相手に勢いが行くぞ」
「そうは言われてもな」
下手に打ってしまうと、衝撃で手の骨が折れかねない。上杉のボールというのはそういうものだ。
勝負は四回以降になるだろうな、と樋口は思っていた。
Aチームの得点力は、織田とアレクが一番二番ということもあり、それなりに高いことは間違いないのだ。
出塁率の高い俊足の二人の後に、トリプルスリーが二人並んでいる。
そこまではいいのだが、後は守備力を重視して、攻撃力まではそれほど高くはない。
鬼塚、緒方、蓮池の中では、素質だけなら蓮池が一番、飛ばす才能は優れているだろう。
だが蓮池がバッティングをしなくなってから、果たして何年が経つのか。
ここでホームランが出るのを期待するのは、さすがに夢を見すぎである。
「ただ上杉さんが三回までパーフェクトやっちゃったら、そこで交代するかなあ?」
「あの人はする人だと思うけど、そうじゃないのか?」
「……いや、する人だな」
直史の方がむしろ、ピッチャーとしての心理では上杉を理解できているらしい。
このまま試合が、0-0のペースで進んでいけば、果たしてどうなるのやら。
あちらのチームは上杉が投げた後でも、本多や阿部に毒島などといった、怪物ピッチャー陣がそろっている。
それに対してAチームは、あくまでも比較だが打線はおとなしいし、ピッチャーは基本的に直史だけで終わらせる予定だ。
途中でパンクしたら、正也なり蓮池なりが、投げてくれるのかもしれないが。
孝司が三振して、スリーアウトチェンジ。
「行くか」
「おう」
やれやれと言いたげな二人が、二回の裏に歩を進めた。
二回の裏、Bチームの攻撃である。
初回が三人で終わったために、当然ながらここは四番の西郷からの攻撃。
因縁と考えるならば、西郷も直史とは深い因縁がある。
そして大介ともであるが。
甲子園においては伝説の一戦という試合がいくつかある。
その中の一つが、直史たちが二年の夏に対戦した、桜島との一回戦だ。
結果の数字だけを見れば、白富東が圧勝とも言える試合。
だがあの試合はホームランの咲き乱れる、とんでもない試合になったのだ。
大介の甲子園における、一試合での最多ホームラン記録は、プロに入ってからのものではなく、この桜島戦で記録したものだ。
敵も味方もパカパカと、本当に良く打ったものである。
武史が覚醒して、一年生ながら150km/hオーバーのストレートを投げたり、それでも打たれてしまったり。
途中交代した直史は、一点も取られなかった。
そしてこの直史が、プロになど行かないと言ったために、西郷はプロ入りではなく、大学進学を決めたのだ。
進学校であるならどうせ東大に行くのだろうと思って、安易に早稲谷に行ってみれば、翌年にはチームメイトになったというのは皮肉である。
そんな西郷と一緒に、直史は大学選抜の試合で、WBC日本代表との壮行試合に容赦のない勝利をしたりもした。
また卒業した西郷は、大介とチームメイトとなり、ライガースの日本一に貢献した。
そして大介と共に直史と対戦し、日本シリーズ進出を逃した。
MLBまで追いかけていこうかと思ったが、あちらはリーグの違い、チームの多さなどで、どうせ当たるのは数試合ぐらい。
それなら大介の抜けたライガースで、日本一を目指そうと思ったのだ。
MLBに挑戦して、そのキャリアの最後にNPBに戻ってくるという選手は少なくない。
だが直史は肘を故障して、その故障のまま投げるということを発表した。
大介の企画した、馬鹿馬鹿しいほどに壮大な草野球。
電話をかけるまでもなく、向こうからこの企画に参加しないかと言ってきたのだ。
大介がMLBに移籍してから、常にホームラン王争いの有力候補となったのが西郷である。
他にも何人か、一年だけ調子がいいというバッターなどはいて、毎年のようにホームラン王を取れたわけではない。
だが打率も打点も出塁率も、全てにおいてリーグ内で10位以内というのが、ほとんどの年で残した成績だ。
何度も言われるが、高卒でプロ入りしていれば、日本記録は狙えたかもしれない。
だが今の西郷があるのは、大学で直史の変化球に、散々空振りをしてきたからである。
西郷は直史を全く恨んでいない。
最後の甲子園が一回戦で終わったことや、迂闊にも大学で対戦出来なかったことなども、本当に恨んではいない。
西郷もまた器の大きな男であり、ただここで直史と対戦したい。
そのためにわざわざこの時期、東京までやってきているのだ。
メジャーリーガーの参戦までありながら、四番を打っている。
もちろん一番を打っている大介が、一番偉いとは思うのだが。
なんとか二打席の中で、ヒットを打ちたい。
直史には期待出来ないことだが、フォアボールやデッドボールでも、三度目のチャンスは回ってくるのだ。
だがこの打席が最後だと思って、バッターボックスに入る。
一期一会。
目の前の打席に、全てを賭ける。
凡退すれば凡退で、負けたことは忘れる。
西郷は潔い男ではあるのだ。
直史にとって分かりやすいパワーヒッターというのは、西郷である。
大介はもう、何がなんだか分からない、アレな存在と言える。
大介に比べればまだマシ、などとは思わない。
そういう慎重さがあるからこそ、直史はここまで勝ち星を積んでこれた。
今日はもう初回から、一番大介でかなり疲れた。
ラムネをガリゴリと砕きながら、ベンチでは脳に糖分を供給したものだ。
西郷に対して、どういうピッチングをするか。
この数年のデータを、ざっと見た感じであると、器用さを増しているように感じる。
ジャストミートされれば、間違いなくスタンドまでは飛んでいくだろう。
MLBでの流行の極端なアッパースイングではなく、ダウンスイングで入ってアッパースイングで抜ける軌道で振っている。
空振りを狙うのは難しく、落ちるボールも上手く掬い上げる。
かなり穴のないバッターになっているのだが、長打力はほんの少し落ちたかもしれない。
少し運がよければ、三冠王も狙えたであろう。
だが大介の抜けた後は、かなり歩かされる数が増えている。
出塁率は上がっているのだが、三振率も上がっている。
選球眼もいいはずなのに、打てそうであれば打ってしまうのだ。
果たしてこの対決でも、その傾向は正しいのか。
直史が投げた第一球は、インハイへのボール。
わずかにツーシーム回転がかかっていたが、西郷はバットの根元で振り切る。
大きく左に外れていったが、飛距離は充分に出ていた。
ただ見逃せば、今のはボール球である。
この回の先頭打者である西郷だが、彼には一つだけ弱点がある。
それは走力に乏しいというものだ。
なので無理にでも、長打を狙っているのだろう。
次のバッターは好打者の正志なので、それに任せるというのも手なのだろうが。
そこは西郷も、やはりスラッガーであり、四番であるのだ。
決闘という感覚が、西郷からも抜けていない。
対する直史はそれを見抜きながらも、やはり対戦を避けることなどは考えていないのであった。
純粋な筋力だけで言うなら、もちろん西郷は大介よりも上である。
ただスポーツに必要なのはたいがい、瞬発的な筋力である。
その点では間違いなく大介の方が上で、そして動体視力に加え、天性の当て勘。
そういったものがあるため、西郷はパワーを磨く。
もっとも西郷のミート能力なども、相当に高いのだが。
それは直史も樋口も、同じ大学でプレイしたので分かっていることだ。
二球目と三球目、ゾーン内で勝負してファールを打たせた。
西郷のかろうじて欠点と言えるところは、選球眼がありながらも打てそうなら手を出してしまうところだ。
もっともそれは大介と同じく、打てるところしか打たないなら、数字が伸びていかないからである。
ほんのわずかにではあるが、NPBのホームラン記録を更新する可能性はある。
大学時代の四年間を、無駄であったと言う人間は多い。
だが大卒一年目から、プロのボールに平気でついていったのは、大学時代の蓄積があるからだろう。
直史と樋口のコンビニ加え、それを見るためバッターとして立った西郷は、変化球への経験値が多かったのだ。
四球目の直史の投げたボールはスルーであった。
村田も他の医師も、肘にかかる負担については言っていた。
フォークやスプリットもそうだが、スルーもまた肘を捻る動作になる。
これを西郷は打ったが、マウンドに当たって大きなバウンドとなる。
それを空中でキャッチした悟が、体を捻ってファーストに送球。
足の遅い西郷は、それでアウトになった。
やはり投げ込みが足りていない。
普段の直史であるなら、もっとミリ単位でのコマンドが可能であったのではないか。
スルーはかなりの確率で、ゴロを打たせることが出来るボールだ。
なのにあんな打球を打たれていては、この後も全く油断は出来ない。いや、そもそも油断する気などなかったのだが。
五番の正志は、直史にとって白富東の遠い後輩である。
一応はNPBでも一年一緒の期間にプレイはしたのだが、ほとんど記憶には残っていない。
今でこそリーグ屈指の好打者として、三冠王の候補にも挙げられる。
だが実際のところは、それよりもメジャーを目指すのが先か。
ただし正志は、基本的に日本を出たくないと思っている。
メジャーからの注目はあるのだが、ポスティング申請もしない。
そういう選手だっているのだ。
正志にとって直史は、チームメイトであった優也や潮とも話したが、訳の分からない存在であった。
子供の頃に見た甲子園では、強打者相手でも決して打たれないという存在であった。
そんな憧れがあったからこそ、白富東に入ったとは言える。
全盛期は過ぎたと言われていた白富東が、またも全国の頂点に立ったのは、優也と正志の二人の力が大きい。
正志のデータを、直史と樋口はしっかりと研究している。
そして出した結論は、とんでもないとがった長所よりは、穴のない選手ということだ。
プロにおいては三拍子そろったとか、ユーティリティプレイヤーとかよりも、何かが一つでも秀でていた方がいいと言われる。
ただ正志はその全てが高いレベルでまとまっており、樋口と似たような成績を残している。
もっとも走力では樋口の方が上で、長打力では正志の方が上か。
しかし樋口の長打力は、打って欲しいときに打つ、というものなのだ。
アウトローのボールを、わずかに変化させた。
内に入ってきた打ち易いボールだったが、正志はこれを見逃している。
一球目を見逃す可能性が、とても高いのが正志のバッティングである。
現在のMLBでは、初球から振っていくのが、スタンダードとなっているが。
トレンドに流されず、自分のスタイルを貫くのは、一流の証拠である。
ただそれは自分のスタイルを貫くだけの、実力を持っていないといけない。
結局のところスタイルが変わらないのは、それを変えなくてもいいだけの力があるからだ。
正志にはそれがある。
二球目、ストレート。
高めのボールを、正志はスイングした。
直史としては少し不満の残るものであったが、それは外野浅くに飛んでいく。
センターの織田は充分に間に合って、これをキャッチ。
ツーアウトとなってランナーはなし。
ここまで五人、一人もランナーに出していない。
なかなかいい感じでピッチング出来ている。
初回は球数が多くなって、樋口も多少は心配したものである。
(問題はこいつだよ)
六番の柿谷は、現在はMLBに所属している。
だが対戦経験はないので、果たしてどう考えればいいもののなのか。
Bチームの打線の中では比較的打率と出塁率は低い。
それなのにOPSが高いのは、それだけ長打が多いからだ。
ホームランもNPB時代は30本は軽く打っていて、そして盗塁が上手かった。
打率が足りればトリプルスリーというシーズンが何度もあったのだ。
(データがあまり参考にならないんだよな)
感覚型の選手なので、打てる時と打てない時がしっかりしている。
ただそういう選手であるので、サイクルヒットを達成していたりもする。
強打者と好打者、そして意外性。
直史がこれまでに投げてきた相手の中では、間違いなく一番厄介な打線だ。
(真っ当にやったら打ってきそうなんだよな)
樋口は柿谷のことを勝手に、ドカベン岩鬼タイプなどと分類している。
別にストライクのコースが打てないということもないのだが。
緊張感が続き、集中力を削る試合が続いていく。
×××
今回のサブタイネタはなかなか分からないと思う。
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