第3話 後宮3


 後宮になど、やはりくるのではなかった。

 溜息をつく理由が理由である。



「また?」


「今月に入って何度目?」


「もう五度目よ。幾ら何でも多すぎるわよね」



 女官達もヒソヒソと噂していた。

 遠目からでも分かる。棺の中は昨日亡くなった女官だろう。


 これは後宮に来てから分かったこと。

 

 女官の連続死。


 死因は全て


 そんなバカな、と思った。

 これほど死人が出ている以上、何らかの関与があったと見た方が自然だった。けれど公式発表は「病死」。棺に入っていると言う事は家族か親類縁者がいる者だろう。天涯孤独の身の上ならば後宮の更に奥、女官や宦官専用の共同墓地に埋められる。


 このせいで後宮は騒がしかった。

 誰かの呪いだとも言われていた。

 場所が場所だけに笑えない。



 私としてはさっさと原因が分かって解決してほしいけど、犯人の目星がまるでついていないようだった。そもそもこんな不可解な状況では犯人を見つける以前に、手の施しようがない。結局は神頼み。お手上げ状態。何とも言えない気持ちを抱えて今日もいつも通り過ごすしかない。


 実家で暮らしていた時のような気ままさはないものの、書物を熟読できる環境は中々良いものだった。

 屋敷には母上がいる。

 母は女子が勉学に励むのを嫌う。

 

『殿方の目に晒して恥をかいてしまうわ』


『女子には必要ないものよ』


『母として恥ずかしいわ』


『貴女は女の子なのよ。男子のように勉強する必要はないの』



 他にもあれこれと言われたものだ。

 父上はそうでもない。逆に女でも学問をするのは良い事だという考え方。夫婦が全く逆の価値観を持っている。母上は学問よりも刺繍や詩、舞や琴に力を注いで欲しいのだろう。だからか、母上は私が学問を修めることに対して良い顔をしない。「頭が良すぎると噂になると我が家の評判に差し支える」とか「私が娘を男子のように扱っていると噂されるわ」とか「嫁の貰い手がつかなくなったらどうするの」、などなど……。

 耳にタコができるくらい言われ続けた。

 けれど、こればっかりは譲れない。譲ってしまえば、きっと私はダメになってしまう。幸い、後宮にある書庫には珍しい書物が沢山あった。管理する者もいないのか何時も開けっ放し。物騒極まりない。でも、気兼ねなく過ごせる唯一の場所でもあった。


 そして今日もまた一日が始まる。



 

 

 


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