第2話 後宮2
婚約者の楊圭は、高官を数多輩出するエリート揃いの名門一族。
それも本家の若様だ。見てくれだって悪くない。
長身のスラッとした体型、清潔感が漂う爽やかな好青年。性格も悪くない。何が言いたいかといえば、結婚する相手として優良物件だということ。
ただ、人の感情に対して鈍感だった。
優しいといえば聞こえはいいけど要は優柔不断だ。人当たりが良いわりに自分勝手な処が目立つマイペース野郎だ。
そして次姉である陀姫。
彼女は側室の娘で、私とは異母姉にあたるけれど実にイイ性格をしている。
狡賢く、図太く、計算高い。女の涙を武器にして被害者面をする抜け目のなさ。何度、罠に嵌められそうになった事か。十二歳で実母が亡くなり私の母に養育された陀姫姉上は要領よく母上に媚びを売って取り入っていた。私との態度の違いに呆気にとられたのは良い思い出だ。「正室の子供じゃないから使用人に差別された」、「私に虐められた」、「家庭教師が厳し過ぎる」などなど。あげればキリがない。それを信じ込む母には心底呆れたものだった。もっとも、後から真実が証明されて謝られたけど「勘違いをさせる方にも問題があるわ」と言われた時は同じ人なのだろうか?と疑問視してしまった。
まぁ、陀姫姉上は母上のお気に入り。
母上も可愛げのない実子よりも甘え上手の継子の方が可愛かったのだろう。
今回の一件は間違いなく陀姫姉上が計画的に行ったものだ。
証拠はなくとも今までの行動で察しがつく。屋敷の使用人達だって馬鹿じゃない。とうの昔に陀姫姉上の性根の悪さには気が付いている。恐らく、陀姫姉上の乳兄弟の侍女が裏で手をまわした可能性が高い。というよりも十中八九そうだろう。屋敷で陀姫姉上の味方は乳兄弟の侍女位だから。
陀姫姉上は十八歳。
結婚適齢期で見合い話もチラホラあるにはあるけれど、正室の娘でない分、少しばかり家格が下がった相手しか釣書がこなかった。自分より一つ上の美娘姉上は入内、三歳下の私にも名門子息との婚約が決まっている。焦ったのだ。もしくは三姉妹の中で自分だけ家格が下の者に嫁ぐ状況に我慢できなかったのか……きっと後者だろう。
それと、圭が国家試験に合格したのが決め手だったのかもしれない。
国家試験に合格すれば官僚夫人として過ごせる。楊家のバックアップを考えれば将来の出世も見込めると踏んだのだろう。陀姫姉上らしい。
私なんかソレに引っ掛かりを覚えたというのに。
頭脳に関しては平凡そのものの圭が国家試験に合格できた。
それも五位に。
ありえない、と思った。
『偶然、勉強していた処が出たんだ。運が良かった』
本人は笑っていたけど、どうも怪しい。
圭は気付いていないけど、彼は嘘をつくとき無意識に目を若干左にそらす癖がある。
正当なやり方で合格した訳ではない。
圭が合格できた背後には何かがある。
そう考えるのが自然だった。
だから、本当は感謝しているの。
陀姫姉上が圭を寝取ってくれた事を。
国家試験の不正は重罪。
このまま上手く出世できたとしても何時露見するか分からない。露見したら最後、全てが無に帰す。そんなのは御免だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます