第6話 イベントに向かう為に(五筒)
寝たいのに眠れない。目が冴えている。それもそうか、2時間前には会社で準備に追われていたのだから。
とうとう明日、五筒の初参加のイベントなのだが、準備をしても、イメージしても上手く立ち回れる自信がない。五筒は相手の負の感情を、表情、仕草以外に煙のようなものが頭から出ているように見える。だから動きが悪くてイベントの人から嫌な湯気みたいな煙を浴びるのかと思うと憂鬱だった。要領よく動くのが苦手な五筒はいつも周りの動きに集中している。次彼らはどう動くのだろう。その次はどう動くのだろう。それが新しい所は想像しづらい。及川さんのように素早い予測と動きが出来ない。どうすれば上手く立ち回れるのだろうか。
だめだ。仕事の段取りが頭の中でずっと答えの出ないループに入っている。こういう時は寝ようと思っても無理なのだ。諦めて起きたまま仕事に行くことも覚悟しよう。でも起きていて眠くなれば仮眠程度でも、寝ないよりましだから、その時は寝よう。
スッと上体を起こすと、部屋のカーテンの隙間から街灯の灯りが漏れて入り、部屋が少し幻想的に見えた。薄暗い中だが、目も暗さに慣れている事もあり動くことは容易だ。五筒は電気をつけることなく、そのまま目的のものを取るため、布団から出た。目的のものは、電気をつけなくても簡単に取り出せる。電気機器で、充電されているので、暗くても目立つからだ。
ゲーム機を片手で持つと、テーブルの上に置いたから後ろを振り返り、壁のスイッチで部屋の電気をつけた。
五筒は幼い頃から、ゲーム大好きな子どもだった。好きだからといって特別上手いわけではない。育成系、パズル系、RPG系どれも平均的だ。最近やりだしたのがゲームが陣取り系のゲームでオンラインでチームになった人達と協力して陣地を広げる協力対戦ゲームだ。シリーズのもらしいが、五筒は今作が初だった。武器の特性もいまいち掴めていないので、初心者向けの使いやすいものでやっていた。五筒は武器を選べるものだと、中距離型の物か、遠距離型が好きでよく選んでいる。しかし初めてなので、慣れるまでは初心者向けの近距離から中距離の軽くて動きのいい武器を使っていた。このゲームに決めた理由は、慣れる為に少し触ろうと思ったのと、視点と動きで酔いやすいからだ。酔えば必然的に考えずに寝れる。起きていようと思ってはいるものの、明日の為に出来れば少しでも休めるようにしたい。
ゲーム機をつけてオンラインに繋げる。マッチングまで1.2分あるので飲み物を用意する。一応寝ることも諦めてはいないので、カフェインの入ってないものを探す。冷蔵庫に豆乳があったので、豆乳にすることにした。マグカップを出し、注ごうとすると、マッチング完了の音がした。あ、まずい、始まる。マグカップと豆乳を両手で持ったまま、早足でテーブルへ置き、ゲームに持ち替えた。
試合が始まる。いつもは酔って長時間出来ないのが嫌で、酔い止めを飲んでする事もしばしばあった。それでもあまり長時間出来ないせいか、なかなかコツを掴めず上達しない。
チームに迷惑かけちゃってないかなぁ。
とは思うが、音声、チャットでのやりとりはシステム上出来ないので、安心して遊べる。
チームの動きは、攻め込み相手チームを攻撃するタイプ、広げた陣地内に侵入して来ないように守るタイプ、陣地を広げる事のみに動くタイプがあり、武器にもよるが、パワーバランス取れるようにそれぞれ役割バランスを見ながら動く事が多い。もっぱら初心者から抜け出せない五筒は塗り専と呼ばれる陣地を広げる事に徹している。
そういえば、及川さんもこのゲームをやっているようだった。このゲームについて話した事はないが、スマホに付けているキーホルダーがこのゲームの武器だった。お互い休みや趣味の話を聞いた事がなかった。仕事とプライベートは別だから話したくない人もいるので、話をしたことがなかった。そういう話題になれば答えるが及川さんも自分からそういう話はしてこなかった。
まぁ、さすがにもう寝ているか。職場でゲームの話題は触れてないし、そのまま遊ぼう。ガチ勢で自分と手を組んだ際に負け続けて嫌がられても辛いし。職場の人には知られたくないかもだし。何せ遅い時間になのだ。
そう思い、特に連絡はせずにスタートする。
1試合目は、少しの差だが勝つ事ができた。やはり勝つと嬉しい。嬉しいがあくびが出た。眠いからではなかった。生あくびと呼ばれるもので、酔い始めに出る症状だ。このまま続けると、あくびの間隔が短くなり、頭痛と本格的な吐き気が来る。疲れもあるからだろうか、1試合10分程なのだが、こんなに早く酔い始めるとは思わなかった。酔いが酷くなると逆に眠れないので早々ではあるが止めることにした。豆乳注いでおらず、1リットルの紙パックに入ったままだ。喉が渇いているわけではないし、生あくびが出ているのでそのまま冷蔵庫にしまい、使わなかったカップを食器棚に戻した。
短い時間ではあるが、気分転換にはなったようだ。無限ループは止まっている。あまり時間がかからず寝れそうだ。
明日のイベントは会社から離れている為、及川さんが迎えに来てくれる。待ち合わせに遅れても困るので、大人しくこのまま寝よう。不安がまた押し寄せてまた目が冴えてしまう前に。
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