第5話 協力イベント③

あれから数日後、イベントの打ち合わせが入った。及川さんからイベントの概要を少し聞いていた部分があったお陰で、全貌をなんとなく理解できた。

及川さんと私は、前日までイベントの人たちの必要なものをかき集め、当日には使えるようにするのと、当日は来店したお客様の初期対応と、イベントの人への引き継ぎ。それから商談スペースの使用後の片付けなど全てが上手く行くよう、至る所に目を配る必要のあるポジションだった。改めて必要なものをまとめて出して貰い、もちろん日にちがないと準備出来ないものがあるので、何か必要になれば早めに連絡を貰えるように伝えて終わった。


「これ、全体の動きが分からないと全く動けない立ち位置ですね。」

五筒はイベントが初めてな為、色々メモしたが、思っていた以上にやる事が多くて聞いているだけで疲れてしまった。及川とミーティング後デスクに戻る最中、ため息が出てしまう。

「そうそう。初め、なんとなくいけるっしょって今回のイベントのリーダーが全体ミーティングのメンバーに私達入れてなかったんだよ。」

及川も聞いていた事よりも変更点と増えた内容が多く、こなせるのか細断を踏みながら話す。2人共、メモや資料を見ながら話していたので、表情は見えないが、おおよそお互い考えていることの予想はついている。もっと早く情報が欲しかったよ、と心で嘆いている事は。更に言うと、五筒は初めてのイベント参加もあり、もしミーティング出てなかった事を考えると酷く恐怖を感じた。

雑務こそ、相手の動きがわからなければ相手の時間を削ってしまう。特にイベントのように時間の限られた中で制約や利益を残すには時間管理をする為の人の動きが必要になるのに。雑務、というにはかなりの種類とボリュームを感じるがこれを及川さんはいつも1人で行っていたのか。ある意味化け物だ。及川さんの邪魔にならないよう、しっかりついていかなければ。

「ミーティング参加出来て良かったです。当日言われて、こちらが上手く動けなくてイライラされても辛いですし。準備していても、上手くまわらないこともきっとあるのになぁ。」

五筒がため息交じり言うとほんとそれ、と及川は頷き言った。

「で、どう?五筒。」

「どう、とは。」

「イベントの印象。聞いてみて。」

「あー。うん。大変だなぁって思いました。でもまぁ、やるしかないので。」

ちょっと疲れそうですねぇ。とほわほわした口調のゆっくりな五筒を見て、及川は疑問に思っていた事を聞いた。

「嫌、とかないの?仕事に。嫌までいかなくても、苦手で取り組みたくないとか。あんまり顔に出さないよね?」

資料をファイルに挟み、五筒を見る。五筒はその質問が来ると思っていなかったから気の抜けた返事をし、考えながら、言葉を紡いでいく。

「そーですねぇ。苦手はありますけど…それも含めた仕事ですし。お金は貰いたい、苦手な事や面倒な事はしたくない、が通じるのはお小遣い貰う小学生までかと。会社で働いてるとは言えませんよぅ。まあ、私よりも得意な人に他の仕事をもらって代わりに苦手をして貰う方が、効率良く他の仕事や会社が上手くまわるならいいのです。でも大体みんなラクな仕事がどうせならいいじゃないですか。そうなると、比較的面倒な仕事をお互い押し付け合って、お互い仲悪くなってイライラして、結果仕事が進まないのが目に見えますし。表情に出る事もありますけど、表情に出しても出さなくてもやらなくてはいけないし。なら、どうやれば上手く出来るだけ早く終われるかなぁって考えて動く方が有効的ですよー。」

うんうん、と頷く五筒を見て及川は少し意表を突かれ、数秒五筒をじっと見た。

「へぇ。そう。真面目に深く考えていたんだ。」

五筒は、ふんわりした雰囲氣と、かわいいものが大好きで、使っている私物の文具もキャラクターものが多い。話し方も柔らかい話し方の典型的な女の子っぽさがあり、マイペースなので勝手に感情や雰囲氣を優先するタイプなのだと思っていた。周りがイライラしているのが嫌でなんとなく空気読んで仕方なく仕事をしているように見えたが、イライラしている事で作業に支障がでるところまで考えていたとは。仕事は真面目に取り組んでいると思っていたが、深く考え、取り組んでいたとまでは思っていなかった。

「そうですかあねぇ。及川さん嫌な仕事なさそうですねえ。」

自分に言われた事がないフレーズがきたので五筒は驚いた。大体、マイペースに動いてラクをしていると言われる事が多い。及川さんが五筒をからかっている様子はない。本当にそう思って言った言葉のようなので、ありがたくそのまま受け止めた。照れもあり、話を自分から及川に逸らそうと話を振る。

「ん、いやあるよ?今頼まれてないだけで。」

これには驚いたらしく、今度は五筒が数秒固まった。

その表情から、五筒が思っている内容がなんとなく分かり及川は、五筒が話す前に言葉が出た。

「いや、私を何だと思っておるのよ。」

少し笑いながら言う及川に、五筒はえー。といいながら、少し考える。

「たぶん人間だけど、ロボ。みたいになんでも出来る万能さん。」

言葉を作りながら話している。絶対人と思っていなかっただろうに、ロボの後ろにつけたカタコトで言った言葉が面白く、素直な反応についつい及川が笑ってしまう。

「そんなわけ。私嫌いな食べ物も嫌いな仕事もちゃんとあるし、出来ない事もあるよ。」

「え、出来ない、があるんですか?」

「うん、泳げない。」

「いやロボやん。」

この時ばかりは、いつも敬語の五筒がツッコミを入れざるを得なかった不意に出た心の声だった。

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