第8話 真実?

「な、なんてこと……私たち家族を巻き込まないで下さい!」


 ミラの母がシャチ先生に叫んだ。ボクのことを睨んでいる。


「違うのママ。私のせいでバレちゃったの」


「ミラは黙ってなさい! 災禍の王であることをバラしたバラしてないの話ではありません」


「まあまあ、ミラのお母さん落ち着いて」


 シャチ先生がこれまたヘラヘラと声をかける。


「落ち着いてられますか! 災禍の王と同じ空間にいるだけで寿命が縮む思いです! 私たちは出て行きます!」


「殺されますよ、学園サイドに」


「ここの拠点を伝えます、それで」


「その後殺されるでしょうね。スパイ疑惑の方が濃厚です。生かす理由がありません」


「……もうどうしたらいいの」


 ミラのお母さんは泣き出してしまった。


「俺は、この物語が嘘なんじゃないかと思っています」


「嘘って、つまり?」


「災禍の王が英霊達を殺し、アバベルを生み出したという伝記です」


「何を根拠に?」


「学園側の不自然な動きと、権利構造、そしてなにより……直感です」


「その直感でみんな死んじゃったらどうするのよ!! 今すぐその子を殺しなさい!」


 ミラのお母さんは俺のことを仇でも見るかのように悩んでいる。知らない人に殺意を向けられて傷ついていると、ミルルが抱き寄せてくれた。 


「ママ、落ち着いて。キラが居なかったら私も殺されてたんだよ」


「そもそもミラが命を狙われることもなかったの! そいつが原因なのよ」


 この空間において、ミラ親子は孤独だ。ミルル姉妹とボクの家族とシャチ先生はボク側についているし面識もある。無理もないことなのかもしれない。


「まあまあ。直接聞いてみようじゃないですか。キラ、アリーシアを呼べるか?」


「はい。【アリーシア】、いる?」


 ボクが名前を呼ぶと、発光したアリーシアが現れ、ボクに抱きついた。ミルルが可愛いーといって頭を撫でている。

 アリーシアは不服になるかと思ったが、案外嬉しそうだった。

 ボクの一部だから、ボクがされて嬉しいことは嬉しいのかもしれない。


「ひぃいい!! あ、あんた何考えてるのよ!!」


 ミラのお母さんはもう限界だった。弟とミラを捕まえて、部屋の端で震えている。


「本当に名前を呼ぶだけなんだな」


「あ、はい。そうですね」


「アリーシア、初めまして。俺はシャチ。君の王の先生だ」


「シャチ。いつもありがと。ほめてつかわす」


「はは! これはこれは光栄です、姫」


 シャチ先生がわざとらしく片膝をつき頭を垂れた。


「して姫、災禍の王というのは本当かい?」


「ん。そう呼ばれてる」


「アバベルを産み出し、ほかの英霊達を虐殺したのも?」


「?? そんなわけない。王様は王様」


「ほらね!」


 シャチ先生は勝ち誇ったようにミラのお母さんに向けて言ったが、ミラのお母さんは怯えたままだった。


「ほらね、じゃないわよ! 早くしまって!」


「どうしたの? 怖いの?」


 アリーシアがミラのお母さんのそばにより話しかけた。ついに頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。その頭をアリーシアは撫でた。


「アリーシア、怖くないよ」


 極度に体を緊張させていたミラのお母さんは、呆気に取られた。


「ほらね、ママ。大丈夫だってば」


 ミラのお母さんが恐る恐る見上げると、微笑む少女がいるだけだった。

 ミラの後押しもあり、ため息を一つ吐き、少し冷静さを取り戻したようだった。


「あなた達は災禍の王の恐ろしさを知らないからよ。大人にならないと説明されないの。200年周期で子供の中にいるから」


「その恐ろしさの部分が虚偽であると、本人が言ってます」


「うん、王様は英雄の味方」


「ほら」


「……わかった、わかったわよ! もうそれしか選択肢もないし、従います」


 ヤケクソだったが、了承がとれたようだ。ボクの母さんが話しかけにいった。寄り添うには絶好のタイミングだ。

 すんなりと息子さんを化け物扱いして申し訳ないと謝罪していた。器に罪はないとかなんとか言っていた。


「姫、ではなぜ災禍の王は濡れ衣を着せられているんですか?」


「さあ?」


「黒幕が別に居て、そいつが災禍の王のせいにしたということですね」


「ん。多分。アリーシア、王様の一部だから、全部はわからない」


「よし、決まりだな。学園を経営している団体の長がおそらくその裏切り者だ」


「これからどうするんですか?」


「キラの災禍の王の力を開花させる。それ以外に勝ち目はないだろう。アリーシア、一応聞いておくが、器は王の侵食を受けたりしますか?」


「器って何?」


「キラのことです」


「王様は王様だよ」


「……そもそもキラは存在しない、ということですか?」


 みんながざわめいた。


「いや、存在する。キラが王様で、王様がキラ」


「記憶や人格の侵食がおきて入れ替わることは?」


「思い出すことをそう言うなら、そう」


 母さんとミルルが心配そうにボクを見つめた。


「大丈夫だよ。災禍の王の記憶が戻ったとしても、ボクはボクだから」


「そういうこと」


 アリーシアもボクに向けて微笑んだ。


「ボクが器だから良くしてるわけじゃないでしょ?」


「ボクがキラだからって何? 王様は王様」


「ほらね、王様だった時の記憶が戻る、もしくは追体験したボクなんだよきっと」


 自分にも言い聞かせるようにボクは話した。母さんは黙って抱きしめてくれた。


「み、みんなの前で恥ずかしいよ」


「ごめんなさい。そうね、あなたも立派な男の子ね」


 母さんは強がって微笑んで見せた。ボクはその強がりに答えたいと思った。


 すると、誰にも教えていないはずの隠れ家の扉がノックされた。


 シャチ先生がすぐに扉の前で構えて、非能力者達を離した。


「誰だ!」

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前世も今世も引きこもりのボクに、世界の王は荷が重い 君のためなら生きられる。 @konntesutoouboyou

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