第7話 顕現!アリーシア
大気中の全てのエネルギーが1箇所に集中したかのように目の前が輝く。
パチパチと静電気を纏いながら、アリーシアはボクの目の前に現れた。
「王様!」
アリーシアはボクに気付くと抱きついてきた。ボクは後悔した。何か強い武器が出てくるのかと思っていたんだ。
こんなか弱い女の子を、わざわざ死地に呼んでしまった。
「ついに出ましたね……! 災禍の王が無垢なる破滅の剣。しかし、代償無しで名前を呼ぶだけで英霊召喚するとは」
アマラスはこちらを興奮して見ている。なんで色々と知っているんだ。それはボクとアリーシアが夢で話したことなのに。
「【常闇を照らせ 暗雲より生まれ咲く 千万の雷花 星を砕いて その威を示せ ググンニール】」
アマラスは右腕に小型のナイフを刺して出血させて、五段階詠唱を行った。
これがアマラスの言っていた代償だろうか?
巨大な鎧をきた英霊の上半身が現れ、咆哮すると、その体が何千本もの輝く雷槍に変わり、こちらに全てが矛先を向けた。
「あはははははは!! これで私は英雄となるのです!!」
「逃げて、アリーシア!」
アリーシアはボクの顔を覗くと、なんで?という顔をした。
アマラスがこちらに手を振り降ろすと、全ての槍が超特急で突っ込んでくる。
「アリーシア!」
ボクはアリーシアの前に立ち手を伸ばした。槍がボクごとアリーシアを貫く……ことはなく、一本の浮遊する剣が虚空を切り裂くと、全ての槍をたった一振りで破壊した。
「なん……だと」
アマラスは全身全霊の技を打ち砕かれ、理解が追いついていないようだ。ショートしたPCのようにフリーズしている。
「アリーシアがやったの?」
「うん。あいつ、敵?」
アリーシアがアマラスを指さした。
「そう! みんなあいつにやられちゃったんだ、だから」
すると、アマラスの周りを囲うように3本の剣が現れる。アマラスは咄嗟に武具を出し、全身を鎧で囲った。
しかし、アリーシアが伸ばした指先を下げると、3本の剣は鎧ごとアマラスを突き刺した。
「ぐああああ!!」
剣は霧散し、アマラスは倒れた。瀕死のアマラスを控えていた学園長が抱き抱え、一目散に走り出した。
「トドメ刺す?」
アリーシアはボクに問う。加減していたのか。今やらないと、また命を狙われるかもしれない。皆あいつのせいで死んでしまうのかもしれない。
けど、ボクはまだ自分の意思で人を殺す選択はとれなかった。ウジウジと答えられずにいるうちに、2人は小さく遠くなっていく。
「この人達、敵?」
アリーシアが虫の息の3人を見つめた。
そうだ、あいつに構っている場合ではない。
「違う、仲間だよ! アリーシア、この人達治せないかな? ボクのために戦ってくれたんだ」
「アリーシアには無理。アリーシア破滅担当」
アリーシアがなぜか自慢げに胸を張った。ぷるるんと胸が揺れる。って見惚れている場合ではない。
「そうか……どうしよう、みんな死んじゃうよ」
3人は既に意識がない。息はしているようだが、出血が止まる様子もなかった。
「王様の力で、治る」
「え? ボク? どうやるの?!」
「アリーシア呼んだみたいに、強く願って。負の感情と向き合う。その事象を拒否する。それが形になる。王様の力は、全部王様の中にある」
アリーシアが現れてくれた時のことを思い出す。母と妹とミルルが死んでしまうんじゃないかと怯えた。父と兄の死を無駄にするんじゃないかと恐れた。それを拒絶した。
「みて、仲間死んじゃうよ」
アリーシアはミルルの顔をボクに向けた。もう死んでいるんじゃないかというほど生気がなかった。半開きの瞳でコヒュコヒュと短く呼吸している。
「うっ」
「そらしちゃダメ。向き合う。拒否する」
アリーシアに従い、ボクは逃げてきた自分の心と向き合う。
怖い。このまま何も出来ずに死んでしまうことが怖い。死にゆく姿を見るのが辛い。全部ボクのせいで、みんなが死んでしまう。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「嫌だ!!!!!!!!」
体の中心からまた何かが沸騰するように込み上げてくる。
光が集まり、ヒョウタンになった。
「これは……?」
「開けて傷にかける。飲ませる。王様急ぐ!」
「わ、わかった!」
ボクは3人の貫通した傷口にヒョウタンの中の水をかける。傷口から湯気のようなものが上がっていく。3人の口を無理やり開け、同じくひょうたんの水を飲ませた。
すると、みるみるウチに傷が塞がり、顔色が良くなっていた。
「あとは休ませる。水が血になる。けど馴染むのに時間かかる」
アリーシアがシャチ先生の頭を撫でた。
「凄い……アリーシアありがとう」
「アリーシア何もしてない。凄いの王様!」
アリーシアは両手を上げて笑った。
ボクはなんだか安心して、へたり込んでしまった。
「このヒョウタンは何?」
「アリーシアと同じ。王様の権能の一欠片。この前アリーシアに名付けたばっかだから、会えなかった。でもいつか会える」
「アリーシアみたいな子の力なんだね。早く名前をつけてあげたいな」
「うんうん、ひょうたん喜ぶ」
「今はひょうたんっていうの?」
「いや、名前ないから、ひょうたん。うぷぷ。ひょうたん文句言ってる。うぷぷ」
アリーシアにはボクの中に眠る力と会話をすることが出来るようだ。
うぷぷと手で口をおさえて笑うアリーシアは子供のようでとても愛おしかった。
「そっかそっか。アリーシアは消えちゃうの?」
「アリーシア、消えることない。王様の中に還ることは出来る。いつでも呼べる。ずっと出てると、王様ちょっと疲れる」
ボクは胸を撫で下ろした。短時間しか召喚出来ないとか、回数に制限はなさそうだ。
あれ、それってボクめちゃくちゃ強くないか?
「っう……」
シャチ先生が唸り声をあげて目を覚ました。傷口だった場所を押さえて、完治していることに驚いている。
「シャチ先生! よかった、動いたらダメです、じっとしててください」
体に触れると、ひどく発熱していた。ひょうたんの副作用だろうか。
「そうか、勝ったのか……ん、その子は?」
「アリーシア。ボクの英霊です」
先生は起き上がった。
「はあ?! 完全英霊召喚を代償無しで常時開放? うぇっごほっごほっ」
「あああ、動いちゃダメですって。代償はあるみたいです」
「王様、ちょっと疲れる」
アリーシアが人差し指と親指を狭めた。
「ははは、そうかそうか……問答無用で仕掛けてくるわけだ。我々の傷もキラが治してくれたのか?」
「はい、それはこっちのヒョウタンで。さっき出来るようになりました。熱が出るみたいなので、休んでて下さい」
栓を閉めていたヒョウタンを持ち上げると、中の水がまた満タンになっていた。
先生は「熱ね」と笑うと、また倒れて天を仰いだ。
ミルルとミラも目を覚ました。ミルルは倒れたまま両手を伸ばしてきた。ボクは抱き抱える形で抱きしめた。
ミラはそんなボクを怖かったと寝ながらポカスカ殴った。ごめんなさい。
それからシャチ先生の指示で、ミルルの妹、ボクの母さんと妹、ミラの弟と母親を集めて山奥にあるシャチ先生の隠れ家に入った。アリーシアは召喚し続けると疲れると言われていたので、ボクの中に還っている。せっかく出て来れたのに還るのは嫌かなと思って聞いてみたが、そんなことはないらしい。
「よし、これで一旦は安心かな」
それぞれの家族は何が何だかわからないと言った様子だ。特にミラの家族はミルルとボクの家族とは面識もないため、心細そうだ。
「先生、なんでボクは命を狙われてるの?」
「そうだな、まずはそこからだよな」
はははと、先生は笑った。
笑い事じゃないが。
でも先生の明るさに、ボクが助けられていることは言うまでもなかった。
「キラが召喚しているのは先祖の英霊ではない。英霊達を裏切り、アバベルを世界に撒き散らしたと言われてる災禍の王が権能の一部だ」
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