第6話 神槍のアマラス
白いコートを着た男はこちらに手を向けた。すると、巨大な槍が突如現れて、ミルルの盾を突いた。
「きゃぁあああ!!」
何かが来ると構えてはいたが、あまりに一瞬の出来事なため、ミルルは声をあげた。
「ほう。第一段階で私の槍を防ぎますか。将来有望でしたね、残念です」
男はそう言い、またコツコツと距離を詰めてくる。
「……俺が時間を稼ぐ。頼んだぞ、キラ」
ボクは冷や汗をかくシャチ先生に小さく頷いたが、まったく思い出せる気がしない。完全に記憶からスッポリと抜け落ちてしまっているようだ。
シャチ先生は両手にエネルギーを集めて、男の元へ駆け出した。男が手を振り下ろすと、また巨大な槍が現れ、空から落ちてくる。先生はそれにエネルギーを放ち、防いだ。すぐ次の攻撃に備えて力を貯めている。
「キラ、何か思い出せない? きっかけになるようなことを探してみて」
ミルルがボクの腕を掴み言った。白いコートの男は攻撃の一瞬しか武具を出していないにも関わらず、3段階まで解放しているシャチ先生を圧倒している。無詠唱で武具を出し入れできると、こんな戦い方も出来るのか。
このままだとシャチ先生が負けてしまうのも時間の問題だ。
「えーと、全身真っ白な女の子がいて、王様に会えて嬉しいって抱きつかれて」
「ねえ、英霊が人の姿をしていて、会話をしたの?」
「うん、話せたよ。それで神銘を刻んでとか、また呼んでねって言われてたんだけど__」
「ぐあああ!!」
「シャチ先生!」
白い服の男が右手を伸ばすと、シャチ先生は手甲のついた巨大な手に掴まれ空中に浮かび上がり、握り締められた。
左手をこちらに突き出すと、また槍が現れてミルルの盾を突く。限界を迎えたのか、盾が還りの詠唱なしで消えてしまった。
「そんな……」
ミルルが絶望していると、男が左手をあげた。ミルルとミラも巨大な手に捕まれ、空中で締め上げられてしまう。
「なんでボクじゃないんだ! 3人は関係ないから離してよ!」
男はボクに何も言わずに、ただ不敵に笑いながらギリギリと締める強さを上げていく。
「いやっ」
「ん、あああ!」
ミルルとミラが痛みで声を上げた。
「辞めろおおお!」
ボクは走った。2人は解放され地面に落ちる。白い服の男は振りかぶり、虚空を殴った。
それと同時に巨大な拳がボクに向かってミサイルのように飛んできた。
ボクも同じように右手の鉤爪を、巨大な拳に向かって打ちつけた。
すると、また焼き菓子でも砕くように簡単に、拳は真ん中から裂けていった。ボクはそのまま白い服の男の元に走る。
「ぐあっ! なるべく温存したかったんですが……【常闇を照らせ ググンニール】」
白い服の男は祝詞をあげた。すると、今度は白く輝く槍が現れ、それを左手で握った。横にそれを軽く振ると、ボクを含めた全員がその圧力のようなもので吹き飛ばされてしまう。
シャチ先生がミルルとミラを抱き抱えて転がって受け身をとっている。ボクは先生の元に近寄った。
「あいつはなんなんですか!」
「おそらく四天王の1人、神槍のアマラス。英霊の名前は思い出せそうか?」
四天王? 四天王ってなんだ、ボクはただ学校に頑張って通おうと思って来ただけなのに。なんで学園長より強い人に命を狙われなきゃいけないんだ。
「わかりません! なんでボクが__」
「がはっ」
シャチ先生が、ボクが認識する頃には白い槍で貫かれ、倒れていた。
ボクを守るために戦ってくれていたのに。
ボクが先生に八つ当たりをしている一瞬で。
地面に血が溢れる。ミラの叫び声が聞こえる。ミルルが震える体で立ち上がり、ボクの前で身をていした。
「【聖なる守護を アトパライズ】」
巨大な盾が現れる。ミルルは血を吐いた。無理して召喚したからだ。
アマラスは指先をこちらにヒョイと向けた。空中に浮いていたシャチ先生を貫通した白い槍がブーメランのように翻り、盾を砕き、ミルルの体を貫通した。そのまま泣き叫ぶミラを背中から突き刺すと、静かになった。白く輝く槍はまたアマラスの周りをフワフワと浮いている。
ボクの周りに3人の瀕死体が転がり、痛みから声も上げられず蹲っている。
「ごめんなさい……守りたかったのに」
ミルルがうずくまったまま掠れた声で言った。痛みと悔しさからか、涙を流している。失血から顔は青ざめ、今にも死んでしまいそうだ。
シャチ先生がフラフラと立ち上がった。もうすでに武具の武装は解除されている。
ボクは怯えて何も出来ずにいる。
アマラスはまた空中を握ると、先生は巨大な手に持ち上げられ、血がバタバタと滴った。
「ぐああっ……っく、キラ、思い出せ……なま…えを」
バキッ、という音と共にシャチ先生が痛みに叫んだ。
「シャチ先生!!」
ボクはさっきからずっとあの日見た夢のことを思い返している。だけど、やっぱり名前だけが思い出せない。夢の中で見ていた夢のようで、自分が何を言っていたのか。
ボクじゃないボクが刻んだ名前。神銘……銘。まさか。
ボクは鉤爪の真ん中の刀掴み引き抜いた。そこには、しっかりと名前が刻まれていた。
なぜ気づかなかったんだボクは!
見た瞬間に全てを思い出す。あの子の名前は……!
「助けて!! 【アリーシア】」
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