呪いの解き方

 とにかく崩れた岩を運ぶ。

 熊は休まず、ずっと運び続ける。


「パパ、もうこれ以上は危ないです」

「これだけ崩れてたら生きてる人なんかいないじゃん」


 ワイスとロットはずっと動いている熊を心配して声をかけた。

 熊は渋く光る声で漏らす。


『いや、亡骸はちゃんと拾ってやらないと、ハンターっていうのは自らの命に代えても家族や町の為に戦い、自然への感謝も忘れない。まぁ今回の件は間抜けだったが、それでも家族のもとへ帰らせてやるんだ』


 エメラルドグリーンの瞳を見つめ合う。


「パパはハンターだったんですか?」

『熊がハンターか』


 鼻で優しく笑う。


『今更なことばかり、やっていたんだ』





 翌朝、町長は愕然とした。

 両膝をつき、細長い体躯がわなわなと震えながら熊と姉妹を見る。

 エーリヒは思わず微笑んでしまう。


「すまない町長、ハンターは一人残らず全滅していた」


 大あくびをするロット。

 眠たげに瞼の開閉を繰り返し、首をこくりと傾かせるワイス。


「たいしたものじゃないか、これで無事に家に送ることができる。町長、よろしいかな?」

「うぐぅう……」

『町長、報酬のことは気にしなくていい。俺達はこれからも住み慣れたあの小屋で暮らすよ。エーリヒ、あとは頼む』

「ああ、構わない。それと、君に渡しておきたい物がある」


 エーリヒから表紙が分からないほど擦れた古い本を受け取る。


『これは……』

「君にとって重要なことが書かれている。覚悟ができたら一人で読みなさい」



 町のはずれ、森近くにある小屋。

 帰ってこれたと分かれば迷わずシーツの上に寝転がる姉妹は、そのまま眠ってしまう。

 熊は小さく鼻で優しく笑ったあと、本をテーブルに置き、鋭い爪でページを捲った。



『その昔、森を統べる熊がいた。熊は王子様だったという噂がある。

 邪悪な小人に変えられ、財宝も奪われてしまったという。

 呪いはついに解けなかったが、心までは失わなかった。

 彼は森を穢す者を許さない。自然に感謝しない者に容赦しない。

 殺生を道楽だと思う者に呪いを与える。

 呪いを解くには、己を見ること。

 他者を愛すること、他者に愛されること。

 そして、再び森を統べる熊に会うこと』



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