ハンター
ライフル銃を手に彷徨う男がいた。
森の中、カゴを置き去りにして巨木を壁に隠れる熊。
果物や山菜が散らばる場所を睨んだ男は、辺りを見回す。
『……』
息を潜めながら、男が去るのを待つ。
頭上の枝から金切り声が聞こえた。
見上げると、小人が三匹、枝にぶら下がったり、跨ったりした状態で男を狙っている。
スキンヘッドにたくわえた白髭、白目と尖った鼻、鋭い八重歯、熊の足ほどしかない小さなモンスター。
『くそっ』
渋く光る声を漏らした。
小人は一斉に飛び出し、男に襲い掛かる。
「うっ! 来るな、来るなっ!!」
爆裂音が森に響く。
銃弾は近くの細い木を抉り倒す。
『まるで素人だな』
呆れ交じりに溜め息を吐き、熊は巨木から身を出した。
唸り声を上げながら突進し、男に噛みついている小人を長く鋭い爪で薙ぎ払う。
爪で胴体を刺し、木に押し付けて引き裂くように緑の液体を散らす。
腰抜けみたいに後ろへ転がり慌てふためく小人を踏み潰した。
残りの一匹は金切り声を上げながら逃げていく。
血まみれになりながらも、奥歯をガタガタ震わしながらライフル銃を抱きしめる男は呆然と熊を見つめている。
凶暴を絵に描いたような獣。
熊は静かに男を見下ろしたあと、ライフル銃を鋭い爪に引っかけて奪う。
地面に捨て、もう二度と使えないよう踏み壊した。
『…………』
果物と山菜をカゴに入れ直し、背負って立ち去る。
町の小さな本屋にて。
姉のワイスは本を読み、エーリヒの解説に耳を傾けていた。
隣で本を枕にして心地よさそうに居眠りしている妹のロット。
扉を開けたのは体長一七〇センチの熊だった。
「また何か面倒事に巻き込まれたのか?」
『あぁ、森に怪我人がいる。小人に襲われていたところを追い払ったが、あちこち噛まれている。町医者を頼んでくれるか?』
「はいよ。どうせハンターだろ」
『いや、そういうわけじゃ、ない』
「毎度大変な体だな。頼んでくるから店番しといてくれ」
やれやれ、と熊は床に座り込んだ。
「パパ」
ワイスの呼びかけに、熊は優しく口を開ける。
『素人が深追いして小人に襲われただけだ、気にするな。大丈夫、勉強を続けなさい。俺が分かる範囲で答えよう』
「……うん」
不安げに頷いたワイスはカウンターから離れ、熊のお腹に凭れて座った。
「パパがこれまでに食べた一番美味しい動物はなんですか?」
『ヒグマ』
迷わず答えた。
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