呪い

 崖の先で立ち止まった。

 鼓動を速め、暗闇を見下ろす。

 土を抉るほどの雨粒が無限と思えるほど降り注ぐなか、ライフル銃を握り締めて振り返る。

 遥かに高い凶暴を絵に描いた獣が迫ってくる。

 ライフル銃を構えた。

 鋭く長い爪が振り下ろされる。

 爆裂音が響き渡った。

 叫び声も、唸り声も、何もかも暗闇に吸い込まれていった……――。





「パパ!」

『…………』


 暗闇から一気に呼び起こされ、覚醒する。

 見下ろすと、不安に駆られたかのように眉を下げる姉妹が覗いていた。

 胸は静かに大きく上下を繰り返す。


「起きてるー?」

『起きてる……』


 渋く光る、やや抜けたような声で返事をした。

 明るいブロンドへアのワイスは分厚い本を胸に強く寄せる。

 赤茶の髪色をしたロットは毛を毟る勢いで掴んでいる。


「もうお昼なのに全然起きないから心配したじゃん!」

『昼? もう昼なのか』


 壁に凭れていた体を起こし、自らの手を見つめた。

 鋭く長い爪と肉球、毛深い体毛。


『熊だ……』

「何言ってるんですか、パパ」


 ワイスは釣り目を細める。


「パパはパパですよ」


 ロットは満面の笑みを浮かべ垂れ目がさらに垂れた。


「パーパ!」


 姉妹にパパと呼ばれた熊は、まだ放心から抜けきれないまま頷く。


『……あぁ』


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