熊の場合

 早朝の事。

 二足歩行の熊は森を散策していた。

 カゴを背負い、木を揺らしたり、手を伸ばして長い爪を引っかけたりと果物を採る。


『……』


 熊は孤独に動く。

 ふと、突き出た鼻が血を嗅いだ。

 ニオイを辿りながら獣道を進んでいく。

 茂みを踏み分け、奥地に向かうと他の木々より太く、高い巨木があった。

 根元には人間が座って眠るように項垂れている。

 白シャツを真っ赤に染め、腹を喰い裂かれた状態が辺りに散らばり、熊は直視できず、目を逸らした。


『小人か……くそ』


 渋く光る声を漏らす。

 人間の手にはリボルバー銃が絡まっている。


『装弾数六発、しかも強力な弾、狩猟用か』


 ブツブツ呟きながらリボルバー銃をカゴに入れる。

 周囲を見ると、空薬莢が落ちていた。

 さらに緑の液体が木々に点々と付着している。

 熊は緑の液体を辿った。

 奥地から森の中間部分まで戻ってきたところで、頭部の上にある丸い耳がぴくり、と金切り声を拾う。

 小人特有の鳴き声が近くから、熊は速度を上げた。

 生い茂る葉の隙間から差し込んだ朝の光が視界に入る。

 緑の液体を散らした小人が大きな鳥につつかれて、抵抗していた。


『やれやれ……』


 熊は呆れながら、大きな鳥を鋭い爪で薙ぎ払う。

 大きな鳥はふらふらと逃げ去っていき、小人は熊を見るなり弱々しい鳴き声で恐れるように跪く。


『命乞いか? 生憎俺はただの熊なんでな』


 大きな後ろ脚に全体重を乗せ、小人を踏み潰した……――。




 町のはずれ、森近くの小屋へと戻った。

 扉をゆっくり押し開けると、熊は鼻で優しく笑う。

 シーツの上で、手を絡めて寄り添うように仲良く眠る姉妹。

 明るいブロンドヘアの姉ワイスと赤茶の髪の妹ロットは、すやすやと寝息を立て安心した表情を浮かべている。

 熊はテーブルに様々な果物を置く。

 リボルバー銃もテーブルに置く。

 壁に凭れて座り込んだ熊は、姉妹を見守るように瞼を閉ざした。


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