ロットの場合
赤茶の髪色をしたロットは、赤いシャツにショートパンツ、エメラルドグリーンの瞳は垂れ目。
町のはずれ、森に近い小屋から飛び出す。
「ロット」
お淑やかな声に、足を止めた。
ロットは口角をへの字に振り返る。
「ワイス」
ワイスは明るく流れるようなブロンドヘアで、エメラルドグリーンの瞳はやや釣り目。
分厚い本を一冊、両手で持つ。
「エーリヒさんのところで勉強、するはずでしょう?」
小さな棘で薄い皮膚を刺す様に迫ってきた。
ロットは目を逸らす。
「え、えーそうだっけ……うーあ、食料、釣りをしなきゃダメじゃん? パパがさ、今日は川の流れが良い感じって言ってたんだよねぇ」
頭の中を回転させて、言葉を躓かせながら理由を述べる。
対してワイスは、頭から足先まで隈なく観察してから、ふーん、と呟く。
「釣竿とバケツは? エサもないですし、まさか、手ぶらで?」
「う、うーワイスお願い! 今度、今度ちゃんと勉強会に参加するからっ、今日だけは見逃して」
両手を合わせ、拝むように頭を下げた。
そんな妹の姿に肩をすくめる。
「もう何度目でしょうか。はぁ、勉強できる環境があるというのは貴重なんですよロット。今日の晩御飯、とても楽しみにしています」
ワイスは甘めに言い残し、町へ向かった。
数秒後に頭を上げたロットは、ふぅ、と安堵の息を吐き、裏の物置から手作りの釣竿と錆びたバケツを取り出す。
森の側を流れる大きい川に到着。
針に餌となるパンをつけて、川に投げ入れた。
しばらくじっと、足をバタバタさせながら待つ。
竿を片手に寝転びながら待つ……。
鼻歌を奏でながら、待つ……。
糸は微動だにせず、ロットは痺れを切らして上体を起こした。
「全然釣れないじゃーん! こんなんだったら森で食料探したほうがたくさん採れるしー……」
文句を言っていると、どこからか金切り声が聞こえてきた。
「この鳴き声は……」
釣竿を地面に置く。
岩が重なった場所を覗いてみると、釣り糸に絡まった小人がそこにいた。
尖った耳に白目、スキンヘッドと鋭い八重歯をもつモンスター。
小人と呼ばれている通り、ロットの膝ほどの大きさしかない。
睨みを利かせ、威嚇するように金切り声をあげる小人。
「あはは! なっさけなぁ」
腹を抱え笑うロット。
釣り糸に悪戦苦闘しながら身を捩らせ抜けようとしている小人をしばらく見たあと、満足したロットはハサミで釣り糸を切る。
「しゃーない、解放した瞬間襲ってきたら川に放り投げてやるからなー」
小人に言語が理解できるか分からないまま喋りかけた。
自由になった小人は威嚇した鳴き声を上げて、ロットの手を払いのけて走り去っていく。
「いったぁ……ホント嫌な奴ら、ワイスじゃないだけマシと思えよー」
ロットは元の釣り場に戻った。
すると、そこには大型の熊が……。
体長一七〇センチの毛並みは茶、鋭く長い爪をもち、真っ直ぐに立って釣竿を両手で挟むように持っていた。
「あぁーっ!!」
ロットはやや口角を上げて大きな声を出す。
『……?』
駆け寄ってまず、錆びたバケツを確認、中に小魚が一〇匹入っている。
「ぱ、パパ! どうやって、どうやって釣ったの!? 一〇匹って凄すぎじゃん!」
目を輝かせて興奮気味に訊ねるロットに、熊は突き出た鼻先を正面に戻して、数秒ほど黙り込んだ。
『…………コツがあるんだ。これだけあれば夕食は豪華だろう』
渋く光る声が熊の喉から静かに漏れた。
ロットは熊をパパと呼ぶ。
「パパスゴっ!」
『ところでロット、勉強はどうした?』
「うっ!」
ロットは目を逸らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。