ワイスの場合

 歩く度さらさら流れる明るいブロンドヘア。

 エメラルドグリーンの瞳、やや釣り目。

 同年の子達よりも胸の膨らみが目立つ。

 白のロングワンピースは腰より少し上にリボンを結んで、前掛けエプロンがついている。

 

 町の入り口にある警告看板の前を通り過ぎていく。


『小人に注意!』


 そっと、軋む音を立てながら扉を押し開けた。

 入り口にカウンターがあり、猫背気味の店主が丸メガネを指先で摘まんで迎える。

 奥まで本棚が並び、ギッシリと本が敷き詰められている。


「おぉワイス、おはよう。久しぶりに天気がいいねぇ、今日は何をお探しで?」

「おはようございますエーリヒさん。新作があればと思いまして」

「辺鄙な町に新作なんて来ないさ、まぁ奥なら珍しいものがあるし、見ておいで」


 店主のエーリヒは店の奥を指す。

 ワイスは奥に進み、分厚い本が並ぶ棚に手を伸ばした。

 指先で横になぞり、背表紙を目で追いかける。


「そういやまた小人がうろついてるみたいでね、ここ最近日中も天気悪くて暗かったから活動的なんだと」


 その中の一冊を掴んだ。

 両手で取る、ワイスはページを捲った。

 エメラルドグリーンの瞳は一点を見つめ、ゆっくり閉ざす。

 胸に抱えてカウンターへ。

 エーリヒは長方形の紙に万年筆を走らせた。


「お代は?」

「パパがあとで払います」

「はい、まいどあり」


 ワイスは金額が書かれた紙を受け取り、外へ。

 町から離れた森の近くにある小屋へ戻る最中、強風で倒れてしまった倒木から声が聞こえてきた。

 金切り声に、ワイスは近づいていく。

 そこには、立派な白髭を倒木に挟まれて身動きがとれない小人がいた。

 尖った耳、尖った歯に白目と太い鼻、スキンヘッド。

 小人という名の通り、膝辺りの高さしかない。


『!?』


 威嚇するように睨み、ワイスに対してさらに声を荒げている。


「小人じゃないですか、こんなところで何をしてるんです?」


 ワイスは目を細め、助ける素振りを全く見せない。

 先ほど購入したばかりの分厚い本のページを開ける。

 ページの中央に窪みがあり、手のひらサイズの拳銃が収納されていた。

 細い指先で掴む。

 銃身を上げて中身を確認すると、銃弾が上下に二発装填されている。

 元に戻しレバーで固定、親指を撃鉄に引っかけてゆっくり下げた。


「髭を切ってあげましょう」


 小人に狙いを定める。

 髭を抜こうと倒木に足を乗せて体を反らせているが、びくともしない。

 激しく叩くような破裂音が森の近くで響き渡った。

 緑の液体がペンキのように散らばる。

 髭ごと貫通して胸元に穴があいた小人をブーツで踏みつけた。

 息があるのかビクン、ビクンと全身を震わす。

 踏んでさらに、ねじ込むようにブーツを左右に動かした。

 もう一度撃鉄を下げる。

 今度は頭を狙う。

 再び、破裂音が響き渡った……――。




「ワイスー!」


 駆け足で森の道を進み、帰ってきたワイスに飛びついたのは、赤茶の髪に同じエメラルドグリーンの瞳を持つ少女。垂れ目気味。

 落ち着いた赤いシャツにショートパンツを穿いている。

 胸は同年代よりも控えめ。


「ロット!」


 ワイスは笑顔でロットを受け止める。


「すっごい音したじゃん。また、小人撃った?」

「さぁーどうでしょうー」


 手を繋いで仲良く、姉妹は小屋に帰っていった。

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