第2話 入院できぬゥ!-2日目-

 2023年1月10日。

 日付けが改まった。この日は定休日。

 LINEで「熱出たワロチ」的なメッセージを実家に送信。


妹「アウトやろこれ」

母「あらー(;´Д`)」


 妙に冷めた妹の返信と、こういう時は自分以上に慌てる母の返信を見ているうちに就寝。というか失神。



 ここから地獄が始まる。




 午前3時。起床。

 猛烈な悪寒、全身の痛み、眩暈を通り越した目が回るような不快感で目が覚める。体温を見る。


 40.8℃。


 ファッ!?ウーン(死亡)。


 INGENが人生で叩き出した最高体温が26歳の春にかかった季節外れのインフルエンザで、この時が40.2℃でした。過去最高記録更新!!

おめでとう二階級特進!!


 あかん。本当に戦死後二階級特進してしまう。

 寝よう、寝なければ。



 午前5時。一時間半ほどで起床。


 全身の痛み悪化。

 市販薬の入った薬箱(私物)をひっくり返し始める。

 背中がぴくぴくするレベルの痛みをこらえながらB級ゾンビ映画のゾンビ顔負けの呻き声をあげつつ、解熱鎮痛剤を三錠、栄養ゼリー飲料で流し込む。蛇口まで這っていく体力もこの時には残っていませんでした。ロフト上にある寝室にぜぇひぃ言いながら五分かけて登攀して、そのまま力尽き今度こそ就寝。


 考えたらこの時、熱性けいれん起こしていたんじゃなかろうか。

 発症して24時間経たずに死にかかっていた気がする。


 ですが、事態はもっとひどい方向へ進んでいくのです。



 午前8時半。電話。


「INGEN様のお電話でお間違いないでしょうか。こちら検査でお世話になった○×病院ですが」

「い゛づ゛も゛お゛世゛話゛に゛な゛っ゛で゛ま゛ず゛」

「あっ(察し)」


 気まずい沈黙の後、簡素過ぎるほどの一言。


「検査の結果、陽性でしたので連絡しました」


 体調はどうかと訊かれたので、検査を終えて深夜から発症、発熱、頭痛や全身の痛み等々の症状を申告。この時点でも熱は40℃超えのまま。


「症状が結構重めですね。当院での診断を希望されますか?」


 一も二もなくお願いをしたところ、提携している陽性者用送迎タクシーをつけてくれることになりました。


「では1時間後にお伺いしますのでー」


 電話を切り、それからふと我に返って。


 部屋の外まで出歩いて行けるのだろうか……。





 午後。

 身バレを防ぐために結果から言うと送迎タクシーで病院の発熱外来で受診することができました。全身フルガードの防護服を着たお医者さんや看護師さんに、まんまバイ○・ハ○ード的な扱いを受けて、CTを取ったり色々した結果。


医者「肺が少し白くなってます。INGENさん肺までいって(肺炎)るよ。中等症ですね」


 マジですか。(素でこんな感じの反応でした。)

 この時始めてパルスオキシメーター(血中飽和酸素濃度測定器)を渡されました。数値は92。


 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、新型コロナウイルスによる肺炎は国の規定によれば「中等症」。この時点でINGENは軽症者から重症者予備軍になってました。そして肺炎になると血中飽和酸素濃度が低下します。健康体の人は99%から96%はキープしています。90%を切ると危険域となり体外取付式人工呼吸器(エクモ)やら酸素吸入のお世話になります。そう、ICU行きです。


 先生方、ここで慌ただしくなりました。僕は隔離スペースへいったん戻されます。そこからさらに1時間。病院の裏手にある発熱者用隔離スペースに戻されて、空調もない薄暗い部屋でしばらくがたがた震えながら待たされて、やっと呼び出しです。


 お医者様は言いました。


「INGENさんの症状的には入院をおすすめしたいのですが」


 いやあそうでしょうね。お願いします。と最早喋る気力もなくなって(主に暗く冷たい隔離スペースで冷凍マグロのように寝かされて消耗したため)、医師の段取りを期待したのですが――。


「――病床に空きがありません。ICUもいっぱいいっぱいです。ですので、INGENさんには自宅療養で経過観察ということになります。すみません」


 そこから先は覚えていないのですが、気付いたらアパートの駐車場に立ち尽くしてました。去りゆく送迎車を見送りつつ、僕は思いました。



 これはもうだめかもわからんね。


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