猫人小伝妙『関ヶ原前夜』
今村広樹
本編
関ヶ原にいたる家康の野望は、秀吉の生前から兆していたようで、日本巡察師ヴァリニャーノは
『家康殿はかニャり以前ーまだ太閤さまが存命時ーから、新世界までの交易を修道士に訊いて、可能だと思ってニャす』
と、イエズス会総長に報告しており、また捕縛されたフランシスコ会宣教師は
『スペイン船が自分のの領地に寄港することを新しい国王(家康)はご希望ですニャ』
と、同僚への書簡に記している。
また、秀吉の死の1月前、家康は系譜の作成にとりかかっていて、いわゆる源姓への改正を企図していたようだ。
関ヶ原で対決することになる石田三成も座視していたわけではなく、増田長盛、長束正家、前田玄以ら同僚とともに毛利輝元とかれ以外の五大老が三成らと敵対した場合、輝元は味方するという盟約を結ぶ。毛利家中では
「内府と奉行衆は仲悪くなってるニャ」
と、ウワサになっていたらしい。
こうして、対立は表面化しだす。
慶長4年5月。
「なんのようにゃ?」
と、聞いた家康に、糾明使として参上した増田長盛はこう問いただした。
「内府どの、太閤さまは大老同士の縁組みをせよとおっしゃってましたにゃ」
「それがどうしたにゃ?」
「内府どのの子息と伊達どのの息女の縁組みがなされたと聞きましたにゃ」
家康の6男忠輝と伊達政宗の長女五郎八姫の縁談が問題になっていると、長盛は言った。
「それが、とうしたにゃ」
と、威圧感をだす家康に長盛は
「他の大老や奉行衆の糾明状でございますにゃ」
と、書状を差し出して帰投した。その書状を読んだ家康は
「さて、どうしたものかにゃ……」
と、思案している。
しばらくして、大老の1匹、前田利長の家康暗殺計画が発覚したとして、騒然となった。利長は
「こ、これはにゃにかの間違いにゃ」
と、驚愕して母や正室を家康の猫質にする条件で和睦を提案、家康も了承した。
その間、毛利との提携、細川忠興ら前田に近い者たちを自分に従うように促した。
制止する役回りの三成は、その前に失脚している。
これによって、前田利長がまず屈服したのである。
家康の次のターゲットは上杉景勝だった。
「景勝めが謀叛を企んでるにゃ」
と、家康が出陣するウワサは北は出羽の最上、南は島津兄弟にいたるまで広まった。
上杉景勝は一度は上方に行こうとしたが、結局抗戦することになった。部下への書状で景勝は
『万事を投げ打って上洛する覚悟を決め、その際に讒言したものを問いただすよう申し入れたが受け入れられず、相変わらず「上洛するにゃ」と、言うばかりで、期限を区切って催促したにゃ」
と、記している。
出陣の前日、家康は幼い頃からの家臣である鳥居元忠と盃を交わしていた。しばらく昔話に花を咲かせつつ、やがて家康はこう切り出した。
「お前には伏見城の留守居を頼むにゃ」
これはつまり、のちに西軍と呼ばれる軍勢が挙兵したときの捨て石となれと言うことだった。元忠は
「承りましたにゃ」
と、うなずく。家康は涙を流しながら、元忠の前脚を取った。
さて、上杉討伐軍の中に大谷吉継という猫がいた。
そのかれに、友人である石田三成が訪ねて、家康討伐軍へと誘う。
「それは無理だにゃ」
と、止める吉継に三成は
「いや、だれかがやらにゃいといけないにゃ」
と、言って聞かなかった。吉継もついに折れて
「わかったにゃ」
と、うなずいた。
自領に戻った三成は、ついに決起。
三成決起の報を小山というところで聞いた家康は
「さて、どうするかにゃ?」
と、しばらく考えたのち、伝令をよんだ。
「いかがしましたにゃ?」
「諸将を呼ぶにゃ」
集まった諸将に家康は
「ついに三成めが挙兵したにゃ」
と、状況を説明し
「あとは、皆さんの判断に任せるにゃ」
と、話し終えた。すると、福島正則が
「われらは、内府どのにおみかたするにゃ!!!」
と、叫び、山内一豊は
「わが城をお貸しするにゃ」
と、続いた。
諸将が歓呼の叫び声をあげるのを、家康は穏やかな笑みを浮かべ見守る。
こうして、のちに東軍と呼ばれる軍勢が動き出した。
さて、関ヶ原で起きた合戦は、いわゆる西軍の敗北であった。
始まった途端、小早川秀秋が裏切り、主力が壊滅。
さらに脇坂、小川らと合流して、家康本陣を目指した大谷勢を背後から突いた。
たちまち壊滅した軍勢を目の前にして、大谷吉継は家臣にこう命じる。
「もう付き合わんでいいにゃ。わしはここで果てるから、お前たちは逃げるにゃ」
家臣たちは涙して、戦場にいなかった幾匹かを残して、大谷勢は皆討ち死にしたという。
こうして、家康は本隊である秀忠隊が来なかったり、本来なら各個撃破する石田三成や毛利、宇喜多といった面々と決戦しなければならないトラブルに見舞われたが、結果として潜在敵を一網打尽することが出来た。
この勝利によって、家康の天下猫への道のりは短縮することになったのである。
猫人小伝妙『関ヶ原前夜』 今村広樹 @yono
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