第5話

小室「どうだ?死骸事件の進展は」

私「死骸事件て…変な名前付けないで下さい。

正直進展はないですね。呪い説で上がったものを調べたりしたんですけど

今回の件とは関係なさそうです」

小室「呪い説?」

私「はい。井上さん本人も微熱が出たり、吐き気があったりして体調を崩していたから

疑ってたみたいなんですけど、呪いの儀式の為に死骸を置いてるんじゃないかって説です」

小室「呪い…ねぇ」

私「なんか蠱毒って呪いらしいんですけど」



私はそう言って例の書き込みを見せた



小室「何個か呪いの候補が上がってるんだな」

私「何個かですか?蠱毒だけじゃないんですか?」



小室「『つがいの呪い』『食物連鎖みたいなやつ』『犬と猫を使ったもの』は似ているけど蠱毒とは別のものだよ。


呪いは結構作法が似通っているものが多いんだ。

つがいの呪いは、虫や動物のつがいを用意して、メスが妊娠するとオスを殺す事でメスの個体が呪力を帯びる呪いだったはずだ。

確か殺したオスを呪術者が食べるとか、呪いの途中で呪術者が妊娠すると呪い返しに遭うとかで難易度が高い呪いだ」


私「へぇ…確かに生き物の種類によっては厳しい呪いですね」



小室「食物連鎖の方は、簡易版の蠱毒として広まった数珠繋ぎの呪いを指しているんだろう。

小さな生き物をそれより大きな生き物に食べさせるんだ。

プランクトンをメダカが食べ、メダカをカエルが食べ、カエルを蛇が食べ、ヘビを犬が食べるみたいに徐々に大きくしていく。

最後は自分がその生き物を食べる事で願いが叶う呪いというよりおまじないに近いものだな」



私は小室さんの説明に

音の違和感があった



私「メダカ……」

小室「どうかしたか?」

私「あ、いえ。井上さんの家に置かれた干からびた小魚がメダカなら

しりとりになるなって思ったんです」

小室「しり…とり…」

私「カラス、スズメ、メダカ、カエル…って」


私の小さな発見に小室さんは意外にも考え込み

「さっきの書き込みを見せてくれ」

とぶっきらぼうに言うと画面を見て黙り込んだ


小室「コメントに、しりとりを指摘してる人が居るな」

私「あ、これそういう事だったんですか。私はてっきりしりとりをしようと誘ってるのかと…」

小室「実際他の人達もそう勘違いしてしりとりをし始めたから仕方ない」

私「でも、しりとりになってると何か問題があるんですか?」

小室「しりとりを使った呪いもあるんだよ」

私「え…」



小室「使われるのは子供の言葉遊びと同じルールのしりとりだが

『毟り取る』を語源とした結構強力な呪いだ。

呪いたい人物が入ったしりとりになる様に生き物を用意して

しりとりの順番になる様に相手の家の敷地内で殺し、死骸を敷地内に埋める

その人の名前を囲んでしりとりがループするように殺すと

呪いの環の中に閉じ込める事が出来て、より強力な呪いになるというものだよ」


私「…だとしたら、一番疑わしいのはその呪いですね」

小室「でもそうだとしても、もうこれで死骸を置かれる事はないな」



私「え?どうしてですか?」

小室「簡単だ。『る』から始まる動物は居ない」



私は頭の中でるるる…と探してみたけれど

確かに思い付かなかった。



小室「正確には学名が『ルリイロ〜』と付く鳥や虫は居るが

今の季節の日本で簡単には手に入らない。

強いて言えば『類人猿』も『る』から始まる動物だが

ゴリラやオラウータンの死骸が家の前にあればその時点で大ニュースだろ」

私「確かに…」



私たちは安堵していたが

この事件の終着点はそんな穏やかなものではなかった。

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