【??-??】フランケンシュタイン

【誰かの声がする】


「フランケンシュタインは知ってる? いや、あなたのイメージする怪物のほうには名前がなかったの。ヴィクター・フランケンシュタインは怪物を造った博士の名前。科学を学ぶ青年は好奇心の赴くままに、掘り起こした死体をつなぎ合わせて電気を流したら、なんとソレは活動を始めた。荒唐無稽な物語のようで、健気なまま成長する怪物が人の心を得て博士に復讐する展開は後世の名作たちに大きな影響を与えたわ。創造物は創造主に反逆するのか否かというテーマ。物語の最後で博士も怪物も死んだことになっている。でも、わたしが気になるのは怪物の伴侶になる予定だった死体の存在。怪物の要求により博士は異性の身体からつがいとなる女の怪物を造ろうとするんだけど、途中で思い直し破棄してしまった。もし、この花嫁に成り得た存在が生き延びていたとしたら。そしてここからが本当に荒唐無稽な話なんだけど、その花嫁はわたしではないかと思うわけ。もちろん、この原作小説がバイロン卿のディオダティ荘でメアリー・シェリーが思いついたものだということは知っているし、博士も怪物も存在しない。それでも、水中を漂っているところを救い出されてから始まっているわたしの人生、記憶のない出生情報についてはそうなんじゃないかって。それにもう数百年近く生き永らえ、怪我をしても再生する身体はどう考えても現実的じゃない。わたしはきっと誰かの妄想の産物。今でこそ死骸工学の権威だの医学促進の功労者なんて言われるけど、昔は夜道に隠れながら人を襲って吸血行為ばかりしていた。本能的に察知したのだけれど、何故かわたしの栄養源は人間の血液だった。気が付けば吸血鬼の噂で街中は溢れかえった。ディオダティ荘から生まれたもう一つの話ね。さて、科学的見解を述べるなら血液を求める不死の細胞、これこそ土葬でも朽ちずに残った死体たちの正体かもしれない。わたしはもうずっとコイツの研究ばかりしてるわ。それで死体を漁りまくって仲間を探したけど中々見つからないものね。特に最近は衛生観点から火葬が推奨されたり遺体の権利だのなんだので実験材料が全然手に入らなくなった。人間の倫理観って面倒くさいわね。そうそう、前の国ではヴィクター・フランケンシュタインを名乗っていたけど、この国に来ることになって漢字を当てられたわ。珍しいもなにも存在しない苗字だもの。ああ、でも似たような名前に八百比丘尼やおびくにの話を聞いたわ。少女時代に人魚の肉を食べて以来、八百年生きたっていう伝説の尼さんね。東洋では人魚に不老不死のモチーフがあるって、アクア説とも何か関係があるのかしら。やはり、わたし以外にもそういうものが存在するかもって聞くと、昔の友人の噂を聞いたみたいに少し嬉しくなったわ。――ねえ、あなたは永遠に生きてみたいと思う?」


 声の主はわたしの身体だった。

 視線の先には困ったように微笑む少女。

 あなたは誰?

 知ってる。

 だって、わたしの好きな人だから――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る