第24話 薬草採取 1

「だけどさ、ドラゴンを倒すほどの人間だよ? そんな人間、気になるじゃないか。だからボクはその人間を見てやろうと思って会いに行ったんだよ」


 もちろん喧嘩を売りに行ったわけだけど、とリウは話す。


「それで」


「そう、見事に返り討ちさ。バケモンじみた強さだったね、逃げ切れたのが不思議なくらいさ」


 裂傷を負った腹部の辺りをリウが手で擦る。


「そこで僕と会ったのか」


「そうそう、本当に助かったよ。まあ、あれだね。喧嘩を売る相手は間違っちゃいけないってことだね、身に沁みて分かったよ」


 そう考えたら僕とリウの出会いは本当に奇跡のような出会いだった。


「まあでも今は新しく楽しいことも見つけたし、無駄に身体を張るようなこともしないと決めたよ。ボクが怪我をするとキミが悲しむだろう?」


「リウ……」


 リウは僕の背中を叩いて前を歩く。


「だからさ強くなってくれよな、キール。ボクはキミを守るし、キミがボクを守ってくれたらとっても嬉しいぜ?」


 夕日の逆光に、リウの表情ははっきりと見えなかったけれど、その声色から朗らかな表情を浮かべていることが分かった。


 僕は「そうだね」と返してリウの背中を追った。

 夕日の眩しさに目を細めながら僕たちは小走りで家に帰った。


 家に帰ると普段通りに料理をしている母さんと、それをダイニングに着きながら待つ父さん、リズ。僕とリウもすぐに席に着いて、母さんが作ってくれた美味しい料理を待っていた。


 少しして両手で料理が乗った大きな皿を持った母さんが席に着きながら、今日の冒険者試験の結果について尋ねてきた。


 というものの、母さんは当然のように不合格すると思っていたらしく、これは父さんもそうだったんだが、僕とリウが二人とも合格したと聞いて二人はスープを噴き出していた。


 僕にどうしても冒険者になってほしくない母さんだが、家族全員の前で、僕が冒険者になることを認める条件の提示をした手前さすがに約束を反故にするようなことはなかった。


 嘘をつく、というのは母さんが嫌いな行いの一つだ。それを母さん自身がするはずがない。

 母さんはモヤモヤとした様子で、それでも「……気をつけるのよ」と認めてくれた。


 父さんは優しく微笑みながら僕と母さんを交互に見ながら何度も幸せそうに頷いていた。

 冒険者といえば魔獣の討伐、と思っている父さんが僕に武器はどうするのか聞いてきたが、すぐには必要にならないことを伝えた。


 冒険者には階級とそれに合った依頼があり、『見習い』の僕たちは魔獣を相手にしない依頼しか受けられないことを教える。それと護衛武器としてリウに作ってもらった木剣があることを伝えると母さんは分かりやすく胸を撫でおろした。


 男らしい僕になるため、冒険者というのはそのスタート地点に着いたに過ぎない。

 明日に向けて活力をつけようと、いつも以上に料理を食べた僕だったが食べ過ぎで腹痛に悩まされたのだった。


 それをリウは横で笑うのだった。





 翌日。


 冒険者試験のため早めに家を出た昨日と違い、少し遅めに家を出た僕とリウ。

 木剣を腰に、母さんが持たせてくれた軽食をポーチに詰めて準備完了。リウは武器も持たず、魔法を使う際にも何も道具が必要にならないため、今こうして僕の横を歩くのも手ぶらで腕を振って歩いていた。


「僕たちも先輩冒険者さんたちのように、魔獣討伐の依頼を受けてみたいもんだよね」


 僕はすれ違う多くの冒険者を目で追いながらリウに話しかけた。

 彼らはギルドの掲示板に掲載された依頼書を取り合い競争して、依頼を受注した冒険者だ。


「まあ、そのうちだろうね。キールが魔獣と戦うにはまず剣の振り方を覚えないとね」


「そうだよね。その特訓も続けないとね」


 リウの言う通り、僕はまだまだ剣もまともに振れない素人だ。

 寝る前と早朝に剣を振っている。それも闇雲に振るのではなく、リウに見てもらいながら正しいフォームで振ることに徹底していた。


 といっても、リウは欠伸しながら見るだけであまり僕の素振りに対して指摘してくることは少なかった。


 そんなことを考えているとあっという間にギルドに到着していた。

 ドアを開けると、窓口には昨日と変わらず綺麗な姿勢で冒険者やお客さんを待ち構えるベリーニさんの姿が目に飛び込んできた。


 ベリーニさんは僕たちの姿に気づいたようで笑顔で手を振ってくれた。


「おはようございます、ベリーニさん」


 やはり依頼を受けるには少し遅い時間のようで、僕たちの他に冒険者がいないギルドの中はスムーズにカウンターまで歩むことができた。


「キールくん、リウちゃんおはよう」


「昨日の今日でまた来ちゃったんですけど、僕たちが受けられる依頼って何か残っているんですか? 見たところ、残っている依頼書が少ないみたいなんですけど……」


 ちらりと見る巨大な掲示板には数枚の依頼書が寂しげに掲げられているのみ。


「もちろんよ。キールくんたちにやってほしいのは薬草採取なの。これは単発的な依頼というよりもポーションや解毒剤、様々な薬品を作るのに常時必要になってくるものなの」


 もちろん採取量は偏って大量に供給された場合には、薬草採取の常時依頼が一時的に停止されることもあるようだが今はそのようなことにはなっていないようだった。


「採った薬草を持ってきてくれればギルドで買い取りさせてもらうわよ」


「早速ですけどベリーニさん、その依頼受けようと思います!」


 僕は意気込んで返事をしたけれど、横でリウが待ったをかけた。


「受けるのはいいにしても、キミ薬草が採れる場所を知っているのかい? 闇雲に採ってきたところでそこらの無価値な雑草でしたって結果だけは避けないと」


「安心してリウちゃん。これまでに依頼を受けた冒険者の方々から聞いた採取ポイントを大まかにまとめた地図があるから、これを見て行けば大丈夫だと思うわよ?」


 ベリーニさんがカウンターの下から手描きの地図を取り出してくれる。

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