第22話 リウ視点 2

「なんで嬢ちゃんはそんなことを知りたかったんだ?」


 デルゲルはボクの問いの意味するところを察していないようで、逆に尋ねられてしまった。


「だってデルゲルさんを納得させるか、倒すことができれば自ずとボクも『シルバー』程度の実力を持っていることになるでしょ? だったらボクも男の子の一人、守れることが証明されるじゃないか」


「……何が言いたいんだ?」


「ボクが言いたいのはただ一つ」


 ボクは人差し指を一本立てる。

 小さな炎が指の先に灯ると、一瞬でその炎は蒼くなった。


 それをギルド職員が準備した木の的に向けて放り投げると、直撃してそのまま爆発を起こした。

 巨大な音と共に巻き上がった土埃が晴れた時にはすでに的は消滅して、そのまま闘技場の壁の一部も崩壊してしまっていた。


「ボクがデルゲルさんを倒したら、さっきのキールと一緒にボクたち二人を冒険者として合格させてよ」


「なっ!? ……そ、そんなこと——」


 ボクは立て続けに氷槍を三本ほど発現させて、別の的に向けて射た。


 三本は全て容易く的を砕きながら壁に深く突き刺さる。刺さった部分を中心にヒビ割れが広がっていき、またも一部崩壊してしまった。


「まだ足りないかな。まあ、いいよ。ボクも用紙には全属性の魔法が使えるって書いてしまったし、その全てを見せないと嘘になるもんね」


「……えっ?」


 デルゲルは青い顔をしてボクと壊れた壁を交互に見る。

 ボクはデルゲルに言っているんだ。このままボクが闘技場を壊してしまってもいいのだと。


「それじゃ、次は——」


「分かった、分かった! 嬢ちゃんの魔法の腕は分かった。たしかにその実力は別格だ。俺だって同じ階級でこの威力は見たことがねえ……」


 ボクが別の魔法を発現させようとしたところでデルゲルが止めに入ってきた。


「嬢ちゃん一人なら、今すぐに特別に『シルバー』は言い過ぎだが『カッパー』からのスタートで合格させてやってもいい!」


「ボクが求めているのはそういうことじゃないぜ」


 キールと一緒に合格できなければ意味がない。


「だが嬢ちゃんは魔法士志望で、後衛だ。魔獣に接近を許してしまったとき、その対処が出来ないのも事実。だから嬢ちゃんの要望はな……」


 ふーん、なるほど。魔法だけじゃだめだってことなのね。


「デルゲルさんの言っていることも分かったよ。だけどね、ボクは最初から言っていたよね? デルゲルさんを倒すって。もちろん魔法の実力だけで納得してもらうのが早かったんだけど、そういう理由ならゴネても仕方ないよね」


 ボクは手首を回してデルゲルに言う。


「ほら、次は魔法を使わないよ。近接戦闘といこうじゃないか」


「馬鹿にしているのか嬢ちゃん。俺は得物を持っている。嬢ちゃんは武器を持っちゃいねえ。それでどうやって近接戦しようって言うんだ」


 ボクとしては、分からせるためにもさっさとかかってきてほしいところなんだけどな。


「嬢ちゃんの魔法は、……凄かった。が、近接戦闘は俺と同じ土台の話だ。それをこうも馬鹿にされるとはな」


「御託並べて逃げるってのはないよ、デルゲルさん。魔法士と剣士じゃ同じ土台じゃないから戦えませんなんて、ボクの魔法を見た後でヒヨっているだけじゃないのかい?」


 帰られては困る。だから分かりやすく挑発する。


「負けた後の心配ならいらないよ。ボクは口が堅いからさ、誰かに言いふらすなんて醜いことはしない。ボクが誓って約束するよ」


「……おもしれえ」


 青筋をビキビキ浮かばせたデルゲルがボクを睨む。

 ようやくやる気になったかな?


「やる気満々になってくれて嬉しいけど、得物は予備のものに替えたほうがいいかもね」


「……なぜだ?」


「魔法は使わないけど、魔力は使う。試験程度で自分の分身である武器を壊されるのも嫌でしょ?」


 デルゲルは少し沈黙を作ってから、予備の武器と入れ替えた。


「嬢ちゃんの言葉に乗ったわけじゃねえ。手加減という意味合いで予備のものに取り換えただけだ」


「そうかい」


 予備の武器に替えたデルゲルもボクも互いに構え終わっている。

 あとはどちらが先に動くか。


「どうぞ」


「嬢ちゃんはそう言うと思ったぜ」


 待つのもじれったいと思ったボクは先手をデルゲルに譲った。

 デルゲルもボクがそう言ってくると予想していたのだろう、すぐに飛び込んできた。


「ほら嬢ちゃん、避けられるか?」


 間合いまで近づいたデルゲルは両手剣を振り上げて、ボクの胴に向けて振り下ろす。


「避ける必要はないね」


 ボクは右手に魔力を纏わせる。

 デルゲルの振り下ろした両手剣を右手で掴んで止める。


「なっ!? 馬鹿な!?」


 ボクの右手を払おうとデルゲルが剣を揺さぶるもびくともしない。


「なんで手なんかで! くっ、動かねえ!」


 ボクはそのまま右腕を振って、剣を握ったままのデルゲルを剣もろとも放り投げた。


「ぐっ!」


 壁際まで飛ばされたデルゲルはなんとか着地ができたようだ。


「次はボクの番だね」


 ボクは魔力で身体強化する。

 もともと竜種のボクだ。基本の運動能力が違う。そこに身体強化をすればどんな動きができるか。


「っ!? いつの間に!?」


 一瞬でデルゲルの懐まで接近した。

 そのまま拳をデルゲルに真っすぐ打つ。


 両手剣を盾代わりに構えるが、ボクの拳を受けた両手剣は見事に粉々に砕けてしまった。

 再度ボクは拳を振り上げて、


「これでいいかい?」


 と尋ねると、


「……完敗だ」


 とデルゲルは降参した。


 ボクは拳を下ろしてキールが待つ窓口に身体の向きを変えた。


「それじゃ、さっきのボクの要望は?」


「最底辺からのスタートになるが、俺が二人を合格にしておいてやるよ」


「助かるよ、デルゲルさん」


「坊主はどうか分からねえが、嬢ちゃんなら一瞬で俺の階級も飛び越えていくだろうな」


 デルゲルが笑いながらボクの背中に語りかけてきたので、ボクは振り返って一言だけデルゲルに伝えた。


「ボクの朋友、キールはいずれ英雄になる男だぜ? ボクなんかよりもずっと強くなるはずさ」


 デルゲルはただ笑っていた。

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