第21話 リウ視点 1

「初めてはかなり辛いものになるかもしれないけど、何度も受けられるから、今の全力を出してがんばってね」


「……はい、ありがとうございます」


 キールが試験会場へと向かっていった。

 その声の様子から、緊張なのか不安なのか、とりあえずキールの弱気な部分が出てきてしまっていることだけはボクには分かった。


「それじゃあリウちゃんも、この用紙に記入してね」


 窓口のお姉さんから渡された紙。

 キールも記入していたが、彼の場合は剣士の欄にチェックをしていた。


 だったらボクは魔法士とかにしておこうかな。

 使える魔法についても記載欄があったけれど、人間が扱う魔法に竜種のボクが扱えないものなどない。

 細かく全て書くのも面倒だったので記載欄には「全属性」とだけ書いた。


「書き終わったよ」


「早いねリウちゃん。どれどれ……、えっ? リウちゃん、この記載で間違いはないの? 文字とか分からないならお姉さんが代わりに書くこともできるけど……」


 お姉さんはなんとも困った表情を浮かべて尋ねてきた。


「ううん、これで合っているよ。お姉さんが戸惑っているのは使える魔法についての記載欄だよね? これで問題ないね」


「ってことは……、ええっ!? 本当に、本当なの、リウちゃん? これ、嘘を書いたらダメなんだよ?」


 お姉さんが思わずといった様子で驚きの声を上げた。これ、きっとキールに聞こえてしまっているかもな。


「まあ、疑われても仕方ないかもね。でもどうせ試験されるんでしょ? それじゃあそこで証明した方が早いだろうし」


「リウちゃんがそう言うなら、私はいいんだけど……」


 用紙を受け取ったお姉さんとボク。

 あとはキールが戻ってくるのを待つだけとなってしまった。


「キールは合格すると思う?」


 ただ待つのも暇だったので、特に話したいとも思っていなかったけど時間つぶしがてらお姉さんに話しかけた。


「うーん、正直なところ難しいと思うわよ? キールくん、剣を振り始めてどれくらいになるの?」


「十日もないくらいかな」


「それじゃ絶対に合格できないわね……。今回の試験官は階級『シルバー』のデルゲルさんだから、間違いなくそんなごっこ遊びの剣を評価しないと思うの」


「なるほどね」


 このままだとキールの合格は望み薄というところか。まあ、正直なところ、今のキールの実力で仮に合格してしまっていたのならボクは冒険者ギルドを心配してしまう。


 そんな実力で魔獣に挑むというのは「どうぞ僕を食べてください」と言っているようなもんだ。

 ある意味、しっかりと実力を見定めてくれているようで安心した。だけどコレットさんに試験回数を今回の一回に限定されているキールの場合、これは不味い状況となってしまっている。


「……ボクがなんとかするしかないかな」


「リウちゃん、なにか言った?」


「ちょっと自分に気合いを入れていたところだよ」


 お姉さんが言っていた冒険者の階級『シルバー』がどれだけの実力を兼ね備えた人物なのか不明だけど、力量だけで考えるならばその心配は特にない。


 問題があるとすれば、どれだけ手加減するべきか。


「……気を抜いちゃうとすぐに潰しちゃうからなー」


 それだけは避けないとね。キールに怒られるだろうし。

 そう考えていたところ、キールが試験会場から戻ってきた。

 キールの表情を見ると、見るからに落ち込んでいるようだった。


「キール、おつかれ。どうだったんだい?」


「いや、まあ、うん。できることはやったよ……」


 自分の実力が決定的に不足していることにキール自身が気づけているようだ。ボクとすれば、こうやって自分自身に向き合っただけでも褒めてあげたいところだけど、目的はそこではない。


 ボクとキールの二人が試験に合格して冒険者になること。

 冒険者になることが朋友の望みなら、それはボクが叶えてあげるべきこと。もちろん、自分に足りないところはしっかりと自覚させてあげないと次につながらない。


 今回の試験でキールが悔しさを覚えたのなら、それが彼への報酬だ。


「そうかい。それじゃボクも行ってくるよ。そこで待っていてくれよ、合格かどうかは結果が出て初めて決まるもんだから、ボクを残して先に帰っちゃいけないぜ」


 やるべきことは決まったね。

 ボクはキールに入れ替わり闘技場に入った。


 そこにはキールと剣を交えたであろう、いやきっと一撃も届かなかっただろうけど、その剣筋を評定した冒険者デルゲルが一人立っていた。


「今度は嬢ちゃんか。さっきの坊主といい、今日は小さな志望者がよく来る日だな」


「彼はボクの朋友でね。一緒に受けに来たんだ」


「そうかい。あいつは剣士志望だったが、嬢ちゃんは武器も持っていないところを見ると魔法士志望なのか? それとも嬢ちゃんも武器の貸し出しが必要か?」


「ボクは魔法士志望なんだけど、その前に一つ聞いておきたいんだけどいいかな?」


 魔法士志望という言葉を聞いて、試験の準備をギルド職員に指示するデルゲル。

 数人の職員が的のようなものを引っ張りながら運んできた。


「ん? なんだ?」


「さっきの、キールに下した結果はなんだったの?」


「……ああ、さっきの坊主か。あいつは、残念だが不合格だ。まだ真剣もまともに持ち上げられねえ。加えて剣術もまともに知らないようだ。あれはまだまだ時間が必要だ」


 デルゲルがため息をつく。


「デルゲルさんの階級が『シルバー』だって聞いたんだけど、それってどれくらいの実力なの? 依頼中に男の子一人守れない程度のものだったりする?」


 ボクの問いかけに一瞬ポカンとした表情を浮かべたデルゲルだったが、すぐに大きく笑い声を上げた。


「おいおい嬢ちゃん、それは流石に馬鹿にしすぎだ。俺たちの依頼には護衛だってあるんだ。子どもを護衛しながら魔獣を討伐することだって当たり前だ」


「そうか。それを聞いて安心した」

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