第20話 冒険者試験 5
僕が一切口をつけていないコップの中身を確認したリウが「飲まないならボクがもらうよ」と言って、僕からコップを取り上げた。
僕は別に飲む気もなかったので、リウを責めることはしなかった。
「……ぷはっ。美味しいねこのジュース」
「……」
「あとは結果を待つだけだね、キール」
「帰ろうよリウ。もう、結果なんていいから帰ろうよ。……聞いても、変わんないよ」
リウは静かに僕の隣に腰を下ろした。
「キミはできることをやったんだろう? それを見て、試験官が判断を下すんだ。その結果を直に聞かないと、結果がどうであれキミは成長できないぜ?」
「それでも……」
結果が見えている。
「意外と分からないもんだぜ、キール。キミは剣を上から下に振り下ろす動きしかできないけれど、それだけを徹底してやってきたんだ、キミのあのひと振りだけはそれなりに綺麗なものだったぜ」
リウがそう言ってくれても、デルゲルさんには一切届かなかった。そして二振りしただけで見極められてしまった。
「リウ、……僕は先に帰るよ」
そう言って立ち上がった時だった。
窓口のお姉さんが「キールくん、リウちゃん。結果が出たわよ」と手招きをしていた。
「ほら、行こうキール」
リウに背中を押されて僕は無理やりお姉さんの前まで連れていかれてしまった。
結果が書かれた紙の内容を確認するお姉さん。
その表情からは試験結果が分からなかったが、一瞬お姉さんがちらりとリウに目を向けたのは分かった。
「キールくんにリウちゃん。二人とも合格よ! おめでとう!」
お姉さんはぱっと明るい表情で結果を伝えてくれたが、僕は一瞬理解することができなかった。
「えっ?」
「えっ? じゃないぜキール。合格だってさ、よかったじゃないか!」
隣のリウはうんうんと頷きながら僕の肩をポンと叩いてくる。
僕の動きは自分でも理解できる。冒険者として遠く及ばないものだった。なのにどうして僕は合格できたんだろう。
「ずっと一つの振りだけを特訓してきたキミにデルゲルさんが伸びしろを感じたんじゃないかい?」
リウがそう話すけど、あまりピンと来ていなかった。たしかに僕はリウに言われたまま、静止した状態から剣の振り下ろしだけを素振りしてきた。
基本ができていたから? それだけで、まったくデルゲルさんに届きもしなかった剣が認められたのか?
「……」
「素直に喜びなよ。キミが試験で何を感じてどう考えようが、合格したことに変わりはなくて意味がないことだぜ」
「そう、だね……」
リウの言う通り。僕がどれだけ自分の実力不足を感じたところで合格の結果が変わるわけではない。まして、自分から「実力が足りないと思うので不合格にしてください」なんて言うこともない。
それに、それを言ってしまえば僕の冒険者への道は途絶えてしまう。
ここは素直に合格したこの結果を喜ぶことにした。
「これで二人は晴れて冒険者になれたわよ。改めておめでとう。自己紹介が遅くなったけど、私はベリーニ。これからよろしくね?」
「よろしくお願いします、ベリーニさん」
「早速だけど、冒険者ギルドについて説明するわね。二人ともしっかり聞いておいてね」
それからベリーニさんは冒険者ギルドについて、冒険者について、依頼とその受注など詳しく説明してくれた。
完全には理解できなかったけれど、とりあえず僕とリウは『見習い』という冒険者階級で今回冒険者になれたようだ。
階級に合わせて受けられる依頼があり、その実績をもって上位の階級に上がることができるということ。
『見習い』程度では依頼を失敗したところで問題はないけれど、上位階級になれば魔獣の討伐など失敗がそのまま街への脅威や被害につながる依頼も出てくる。その時にはその被害への責任を持つことになるようだ。
またギルドと冒険者との関係上、大まかな規則があるようで、それを違反すると懲罰されるものもあるため品格が求められるとのこと。
「これらは二人が階級を上がっていくときに改めて私から説明するから今はなんとなく覚えてくれていたら十分よ」
「分かりました。それじゃあ、さっそく依頼を受けたいんですけど、何かありますかベリーニさん?」
掲示板には残りわずかな依頼書しか張り出されていない。
ベリーニさんが依頼書を取り出すことはなかった。代わりに別のものをテーブルの上に置いた。
「『見習い』ランクの依頼というか仕事は決まっていてね、みんなここからスタートするの」
「というと?」
「街の清掃。つまり、ゴミ拾いね」
ベリーニさんがテーブルに置いたものは拾ったゴミを入れるためのゴミ袋。
「それって……」
冒険者のやる仕事なんだろうか。
見習い、というくらいだから簡単な仕事から始まるとは思っていたけれど、それでももっと違う何かがあってもいいんじゃないかと思った・
「これは街を清潔に保つために必要なことでもあるんだけど、目的はそうじゃなくて、ゴミを拾いながら街を歩くことで地理を覚えてほしいの。コリンズ領の冒険者でありながら中心街の地理も分からないと、万が一魔獣がやってきたとき困るでしょ?」
「なるほど、そういうことなんですね」
「どうする? 早速やってみる?」
ベリーニさんが尋ねる。
「リウはどう?」
「キールにまかせるよ。どうせこの後ひまだろう?」
リウはどっちでもいいようだ。
でもたしかにまだ日が出たばかりで、時間は十分にある。
「それじゃ、やろうかリウ! 初めての仕事だよ」
「ゴミ拾いだけどね」
「それを言うなよ、気分が下がるじゃないか……」
僕たちはベリーニさんからゴミ袋を受け取って外に向かう。
「いってらっしゃい二人とも」
「行ってきます!」
ゴミ袋を片手に僕とリウはゴミを求めて街に繰り出した。
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