第11話 救出4
「ここにいる君たちで、みんな?」
「「……」」
僕が問いかけてもリズと同じくらいの年の女の子たちは口を閉ざしたまま涙を浮かべ僕の様子を窺うばかり。
僕も盗賊の一味だと思われているのかな?
ただの八歳の子どもなのに。と思ったけれど全身をローブで包み、顔も隠していれば怪しく思われても仕方ないか。
「安心してみんな。僕はみんなを助けに来たんだよ。外には領主様たちたくさんの兵士も来ているよ」
領主、という言葉に子どもたちは安堵したのか彼女たちに流れていた緊張した空気は一気に緩む。
「それに、ほら! 盗賊はみんな僕が縄で縛ったから安心して!」
豪勢な椅子に縄で縛られた大男を指さし、彼女らに盗賊の心配はないと伝える。
「……かえられる?」
「もちろん!」
僕は力強く頷いて返す。
リズを抱えて立ち上がる。
「一緒に帰ろう?」
最初は誰も僕についてこなかったけれど、一人が立ち上がると彼女につられるようにして全員が立ち上がって、僕の後ろを歩いた。
帰られるといっても、まだ盗賊らの住処である洞窟を抜け出していないからか彼女たちは口を横にきゅっと閉じたまま静かなままだった。
やっぱりまだ緊張がぬけていないのかな。
その後も僕を先頭に彼女らはその後ろを静かに歩いた。途中で僕が縛った盗賊が地面に転がっていたが、彼女らはそれをまじまじと見ながらその横を通り過ぎる。
「ほら、もうすぐだよ!」
僕の指さす先には洞窟の出口。
兵士たちが持つ灯りが丸い点となっていくつも見えた。
「外だー!」
薄暗い洞窟と違って、温かな光を放つ灯に子どもたちは安堵のため息をついた。
僕は後ろの子どもたちに急かされるように早歩きになり、出口付近になるとすでに駆け足になっていた。それだけ子供たちにとって、不安で恐怖だった洞窟や盗賊から逃げ出せることが嬉しかったのだろう。
勢いよく洞窟から飛び出した子どもたちは、目線が低いのもそうだが恐怖からの解放に視野が狭くなっており、頭上に巨大なドラゴンの顔があることに気づいていなかった。
先ほどまでリウヴェールに足が竦んでいた兵士たちも、駆け寄ってくる子どもたちに気がつき屈んで抱きしめた。
「ようし、もうこれで無事だぞ」
「しっかりお父さんお母さんのところまで帰してあげるからな」
口々に兵士が子どもたちに声をかけると、子どもたちの緊張の糸も完全に切れてしまった。大きな涙粒を溜めて、大声で泣き始めてしまった。
一人が泣けばつられて周りの子どもも泣き始める。それが連鎖していき、挙句の果てに全員が暗い森の中兵士とドラゴンに囲まれながら泣いてしまったのであった。
『無事に全員助けられたようだね』
「うん、怖かったけどなんとかできたよ」
『さすがはボクの英雄さ』
兵士と子どもたちの様子を離れたところから見ながら、僕はリウヴェールと言葉を交わす。
「違うよ。リウヴェールがいなかったら、僕一人じゃ何もできなかったよ」
『それでも今のキミはできたじゃないか、それでいいじゃないか』
それに、リウヴェールが続ける。
『キールはボクの主だ。だからボクとキミとで一つなのさ。キミ一人じゃできない、じゃなくてボクたち二人でリズとあの子らを救ったんだ。自信を持ちなよキール』
リウヴェールの言葉はどこかむずがゆかったけれど、それでも自分でも何か大事な一歩目が踏み出せたような気がした。
本当にリウヴェール——、リウがいないと僕はだめだな。
「これからもよろしく頼むよ、相棒」
『もちろんさ、主さま』
僕は眠るリズを木の幹にもたれさせるように座らせ、ティファナ様や兵士たちに任せることにした。
このままリウヴェールにリズも乗せて家まで帰ってもよかったのだけど、それだと僕とリウが外出したことが父さんと母さんにばれてしまう。
怒られ、げんこつを落とされることだけは勘弁したい。
僕はすみやかにリウヴェールの翼を伝って、再び大きな背中に乗る。
「帰ろうか、リウヴェール」
『わかったよ』
リウヴェールが大きく羽ばたく。
木々が激しく葉擦れを起こしガサガサと騒がしくなる。
ティファナ様がこちらに向かって何か呼びかけているように見えたけれど、強風や周りの音のせいで何も聞こえない。また、ここでのんびり話をしている時間もなかったため気づかなかったことにして飛び立つことにした。
星空に急上昇し、街を見下ろす。
贅沢な空の旅も、リウヴェールの飛行速度ではあっという間に家に着いてしまった。
家の近くの比較的木々があり人目につかないところにリウヴェールが着陸した。
リウヴェールが僕を下ろしたあと、全身を淡い光に包まれながらリウヴェールは人型の姿に戻ったのだった。
今でもあれだけ巨大な姿を僕と変わらないほどの大きさへ自由に変えられることに驚くけれど、ドラゴンだからそんなものなのかなと僕は難しいことを考えるのはやめた。
「まだ父さんたちは帰ってきていないようだね」
「よかった。飛ばした甲斐があったというものだよ」
僕たちは何事もなかったように家に戻り、そしてただ普段通りに皆の帰りを待つことにした。
時間が経って、眠るリズを抱きかかえた父さんと静かに「よかった、本当によかったわ……」と泣き続ける母さんが戻ってきたけれど、慣れないことをして疲れた僕はその三人の様子を見ることなく夢の中にいたのだった。
「……本当にお疲れ様だよ、キール」
頬を優しくつつかれたような気がした。
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