第4話 出会い4
リウヴェールは大きな身体を屈めて、大きな翼で僕を背中に乗せると大きく羽ばたいた。
強風が吹き荒れ、辺りの木々は一斉に葉を揺らす。
『しっかりと掴まっていろ』
直後、リウヴェールは真っすぐ星が瞬く空に昇っていく。
あっという間に空高くまで飛んだ僕はその高さに恐怖を覚えたが、リウヴェールのその広い背中にどこか安心感が生まれ、初めての空に笑みが絶えなかった。
「すごい、きれいだ……」
いつもよりも近い数多の星に僕はただただ心が奪われる。
『これからはいつでもこの景色を見せてやる』
「うん? うん、ありがとう」
下を見れば、街が小さな模型のように見えた。家々の明りも小さくまばらで、僕が巨人になって見下ろしている気分になった。
そして、そんな街から明りを持った数人が列になって森へと進んでいくのが見えた。
「あっ! 忘れてた」
『キール、どうした?』
「妹のリズを置いてきたままだった……」
この暗さだ、さすがにリズベットはひとりで家に帰っただろうと考えたけど、森の中へ進んでいく人たちを見つけて嫌な予感がした。
「えっと、きみ……」
『リウヴェールでいい』
「リウヴェール、空を飛べてうれしいところなんだけど、さっきのところに戻ってほしいんだ。妹が待っているかもしれない」
『キールの妹か。それは大事だ』
リウヴェールは急降下して、もとの場所に着陸したのだった。
かなり空高く飛んでいたはずだったが、あっという間に地上に戻ってきてしまったことに陳腐な感想になってしまうけどドラゴンってすごいなと思った。
森の入り口の方から複数人が持った明りが小さく見え、急いで妹が座る場所まで走って戻ろうと思ったところで僕は一つ問題を思い出した。
リウヴェールの巨体を見上げて、この大きな身体はどうやって隠そうかと頭を悩ませた。
『何を悩んでいる、キール』
大きな巨体を屈めて僕の目の高さまで大きな瞳を下げてくるリウヴェール。
「あのね、リウヴェール。その大きなからだ、どうにかならないかな?」
『身体?』
「うん、リウヴェールの身体大きすぎて目立ってしまうんだ」
僕もドラゴンを初めて見たんだ。今こちらにやってくる大人たちもきっとドラゴンを初めて見るだろう。
初めて見たドラゴンがリウヴェールのような巨体だったらどうなるか。
『そういうことならお安い御用だキール。待っていろ』
リウヴェールはそう言うと身体が本を取り込んだ時のような淡い光に包まれると、その影はみるみるうちに小さくなり、光が消えた後には僕より少し背の高い人型の少女になっていた。
「これでどうだい? キール」
少し釣り上がった大きな瞳は奥まで透き通った綺麗なものだった。僕やリズベットに似た銀髪ではあるものの、わずかに青みがかった長髪はさらりと腰の高さまで真っすぐ垂れる。
「きれい……。リウヴェール、女の子だったの? というか人の形になれるんだね、すごいね!」
「キール、見とれたかい?」
「うん、すごくきれいだ!」
その透き通った瞳に引き込まれそうなほど、僕は見惚れてしまう。
リウヴェールの肌はドラゴン形態の時のような鱗に似た白い肌だが、打って変わって瑞々しく柔らかそうな肌をしていた。
「そ、そんな真っすぐな目をして言われたら、照れるじゃないか」
恥ずかしそうにしていたリウヴェールは「えー、コホン」と咳払いを一つして話を変えてきた。
「それにしてもリウヴェールって呼び方、長いよキール。これからはリウって呼んでくれよ。愛称ってやつさ」
「愛称? リウ?」
「そうそう、ボクとキールの仲だ。これからずっとキミのそばにいるんだからさ、リウヴェールなんて堅い呼び方はやめてくれよ」
なんでこれからずっと僕のそばにリウヴェールがいることになるのかよく分からなかったけれど、リウと呼んだほうがなんだか仲良くなれそうな気がして僕は頷いて返すことにした。
「うん、わかった。よろしくね、リウ」
「幾久しくよろしく頼むよ、ボクの主で朋友のキール」
僕より背が高いリウは、その小さくなった白い手で僕の頭を優しく撫でてきた。
僕はくすぐったく感じたけれど、なんだかお姉ちゃんが出来たようでどこか心地よかった。
「ところでリウ? どうして裸なの?」
「……あー、まったく。朋友として、早速の頼みだキール。人間たちへのボクの説明、手伝ってくれよ?」
「がんばるよ」
僕より少し背の高いリウは裸のまま腰に手をやり、胸を張って僕の目を見つめてきた。そんなリウを見ているとこれから先のどんなこともうまくいくような気がしてならなかった。
その後やってきた大人たちの中に父さんが加わっていた。僕がいつまでも帰ってこないと泣きながら家に戻ってきたリズベットから事情を聴いた父さんたちが捜索隊を結成して探しに来たようだった。
当然、僕の頭にはげんこつが落とされこっぴどく怒られたがそれでも力強く抱きしめられた瞬間に緊張の糸が切れたのか涙があふれしばらくの間父さんの胸の中で泣きじゃくった。
僕が落ち着くまでしばらく待った後、僕の横で裸で立っていたリウの説明をした。
といっても僕ではうまく説明もできず、リウが自分で何かつらつらと話していた。時には涙を流す仕草をしたり、大きく身振り手振りをしたりなど、気づけば捜索隊で来ていた大人たちはみんな目元に涙を浮かべてリウの話を聞き入っていた。
「ボクには弟がいたんだ……。ちょうどキールみたいに、一人のボクを助けてくれる優しくて立派な可愛い弟が。でも……」
と、リウが俯きながら言ったあたりで父さんの涙腺が崩壊したようで「分かった! リウは俺たちの家族だ!」と力強くリウも抱きしめたあたりで、僕はなんだかわからないけどこれからリウとは一緒にいられると確信した。
父さんと一緒に家に帰ると、今なお母さんの膝の上で泣き続け目元を真っ赤に腫らせたリズベットがいたが、機嫌を取るのにかなり苦労した。
それでも最後には僕を許してくれたみたいで、すぐにリウとも打ち解けたようでよかった。
これが僕とリウヴェールの出会い。
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