第48話

ガタゴトと乗合馬車に揺られて目的地に着くと潮風が頬を撫でる。

誘われるままに海の方へと近寄っていく。

海を見ると、異世界でも海は海なんだなぁと感慨に耽る。

そんなに海に思い入れがなくても海を見るとなんとなく爽快な気持ちになるのはなんでだろうな。

「フロランタンへ行く船への手続きをして来ますね」

そう言ってノイシュくんは先に窓口へ向かって行った。

ゆっくり後を追いかけると、同じ衣装の団体も同じ船への乗組手続きをしていた。

俺は手続きをしているノイシュくんに耳打ちして尋ねた。

「ノイシュくん、あの同じ服着た集団ってなに?」

俺がノイシュくんに尋ねると、ノイシュくんは窓口から俺が目線を寄越した先を見て答えてくれた。

「どうやら神聖教団の方々のようですね」

「神聖教団?」

聞き返すとノイシュくんがじと目だ。

聞いたことあるパターンたな、これ。

「この世界の…多分、八割程度の人間が信仰している神を崇めている教団です」

「へぇ…。ていうこともノイシュくんも?」

「僕の朝晩のお祈りをなんだと思ってたんですか?」

どうやらノイシュくんは熱心な信者らしい。

「神聖教団は神聖国家として独自の国も有しているほどですよ。巡礼の旅の最終地点として、神殿の神の像の前で祈るのが信者の習わしです」

どうやら異世界でも宗教は強いらしい。

「ノイシュくんもやったことあるの?」

「はい。数年前に父王に連れられて他の兄弟と共に巡礼の旅に出て礼拝させていただきました。とても立派な像で、作り物と分かっていながら神々しさを感じました」

その当時を思い出したのかノイシュくんがキラキラした瞳をしている。

「ふぅん。じゃあさ、フロランタンへ行ったらその神聖国家にも行ってみない?俺、興味ある」

「いいですね!神聖国家もフロランタンに負けないくらい古い歴史を持つ国です。神聖教団の教えに入団しろとは言いませんが、学ぶべきことは多いと思います。ぜひ行きましょう」

キラキラした瞳のままノイシュくんは快諾し、神聖国家と神聖教団について教えてくれた。

でも、聞けば聞くほど思ってしまう。

…ノイシュくんには言えないよなぁ。

俺の世界でのファンタジーあるある。

宗教主体の団体は怪しいってこと。

ちらりと神聖教団とやらの団体を見る。

どう見たって普通の宗教人のようだ。

おっさんから若いお姉さんまでいる。

……考えすぎかな?

いや、考え過ぎて越したことはない。

なんてったってここは異世界。

勇者や魔王がいる世界なんだ。

さて、神聖国家の神聖教団とやらがどんなもんか、フロランタンへ行った後に詳しく調べてみるか。

怪しい教団だったらどうしようか。

ノイシュくんも信奉しているみたいだし、一人で調べてみようかな。

フロランタンへ行ったら神聖国家とやらがどんなものか聞いて回ろうか?


「何をしているんですか。置いていきますよ」

どうやら俺が神聖教団を訝しんでいる間にノイシュくんが船の乗組手続きをしてくれたようだ。

「はーい」

軽く返事をしてもう一度神聖教団を見遣る。

彼等も手続きを終えて船に乗るところのようだ。

ゾロゾロと集まって船に乗り込む集団の後に続いて船に乗る。

目指すはフロランタンの大図書。

船が出航すると、ようやく今までいた大陸から離れて旅立つんだなと実感した。


さて、これからの旅はどうなるのか。

なにか美味しいものと巡り逢えるといいなぁ。

……やばい。俺、ここでの魚料理食べていない。

せっかくの港町だったのに…。

フロランタンに美味しいものがありますように!

神聖教団より熱心に食の神に願った。

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