第47話
てくてくてくてく。
他愛無い話をしながら歩いて時折乗合馬車に乗って港のある街まで目指していく。
目指すは大図書館のあるフロランタン。歴史的にも価値のある街だとノイシュくんは言っていた。
そんな旅の途中、各地の町や村での食との出会いも楽しみの一つだ。
「ノイシュくん、おでん食べたくない?」
おでん屋の前で捨てられた犬のようだったというのはノイシュくん談だ。
「大根に味が染みててめっちゃうまい」
「玉子も美味しいですよ」
ここにも日本人がやって来ておでんを広めたんだろうなぁ。
なんて思いながら牛すじを食べる。
そして改めて思う。
「この世界が求めているのはなんなんだろうな?」
「なんですか、突然。この世界が求めているもの?」
食べ盛りのノイシュくんがお好み焼きも注文して聞き返す。
「平和な世の中はリリィのおかげで叶ったのに、今更俺が勇者として召喚されたりリリィの管理下にあるはずのドラゴンが出てきて襲ってきたり、かと思えば平和に暮らすドラゴンや魔物も多い」
「それは…そうですね。リリィ様のご威光が薄れたとは感じませんが、あの時は異常でした。かといってすべての魔物が凶暴化しているわけではない。……どういうことでしょう?」
「だろ?不思議だろう?この世界は大昔から異世界人を喚んでいたらしいし、その叡智でこっちの世界の人々は発展したっていうけど、この世界の人達だけの進化じゃだめだったのか?」
「そうですね…。今まで当たり前に異世界人を受け入れてきましたが、そう言われると古くから異世界から人が来るのは不思議ですね」
「ノイシュくん達が違和感に思わない程この世界は異世界からのものを当たり前としている。この世界だけじゃダメな理由ってなんだろう?異世界人が必要とされる理由ってなんだろうな?」
牛すじの串をお皿の端に置きながらノイシュくんに尋ねると、ものすごく考え込んでしまった。
「そんな難しく考えないでくれよ。ただ、本当に疑問に思ってさ。この世界は異世界人に何をさせたいのかな?」
「そう言われるとそうですね。異世界人がこの世界にもたらしたものは多いです。ですが、異世界人がこの世界に必要な理由…。なんでしょうか?」
ノイシュくんが首を傾げる。
「まあ、それもフロランタンで昔の事を調べれば少しは分かるだろうよ。ところでもう一杯注文してもいいですかお願いします」
頭を下げると溜め息を吐かれた。
「真面目な話をすると思ったらすぐこれだ」
「いや、おでんにはお酒がつきものなんだって」
言いながらさり気なくもう一杯注文した。
ノイシュくんには怒られた。
届いたお酒を飲みながら最後のお好み焼きを口に含んだノイシュくんにまだ疑問に思っている事を投げ掛ける。
「勇者シリーズも訳がわかんないんだよな。発光したかと思ったら突然光らなくなるし今も光らない。なんで発光したのか、光らなくなったのか。それも分からない」
「謎だらけですね」
「フロランタンへ行ってもこんな特殊な事、分かるかどうか、ちょっと疑問だけどなぁ」
「そうですね。勇者シリーズは勇者にしか扱えませんし書物に残っているかどうか」
お猪口のお酒をくいっと飲んで締め括る。
「三百年遅れてきた理由とこの世界にとっての異世界人と勇者シリーズと世界のシステム、これが今の俺の分からないことかな?」
「……難しいですね」
ノイシュくんの眉間に皺が寄っていたのでえいやっと潰してやった。
「なにするんですか!」
「ノイシュくんまで深刻にならなくていいよ。それに、これはそれを知るための旅なんだろ?ゆっくり理由を探ししていこう」
俺がへらりと笑うとノイシュくんもようやく笑ってくれた。
「そうですね。少なくとも足りなすぎる情報で得られるものはありません。早くフロランタンへ行って大図書館で色々と調べてみましょう」
「うん、そうだね……あ!あともう一つ、大切なことがあった!」
「なんですか?」
「素敵な女性と知り合いたい!あわよくば親しくなりたい!」
「……置いていきますねー」
ノイシュくんは宣言通り俺を置いてさっさと会計を済ませて店を出て歩いて行ったので慌てて追いかけた。
俺にとっては重要なことなんだけどなぁ。
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