第27話
「リツ!先日はカルデラが迷惑を掛けたみたいなのだわ!お詫びの品を持って来たから食べるのだわ!」
そう言ってマイペースな魔王様は菓子折りを持つカシワギさんを連れてやって来た。
「うんうん、ありがとなー。今はまだ仕事中だからどこかのカフェでケーキでも食べて待っていてくれなー」
菓子折りを受け取りながらそう言ってカシワギさんにリリィを託し、急いで仕事を片付けてリリィが待っているカフェに急いで走った。
テラス席で待っていてくれたおかげですぐに見付かったものの、俺がカフェに辿り着くとリリィとカシワギさんのテーブルには山程のパフェやお皿の器が並んでいた。
店員さんが片付けていっても新しいパフェやケーキが次から次へと運ばれていった。
カシワギさんはリリィの向かいでコーヒーを悠々と飲んでいる。
「リリィ、お待たせ」
リリィに声を掛けるとリリィがパフェから顔を上げた。
「リツ!遅いのだわ!」
「うんうん、ごめんごめん。口の端にクリームが付いているから拭こうなー」
そう言ってテーブル上にあったナプキンでリリィの口元を拭ってやり、カシワギさんの隣に座って真正面のリリィを見る。
「ありがとうなのだわ!」
そう言ってパフェを食べたらまた口元にクリームが付いた。
これは食べ終わるまで放置の方がいいな…。
隣のカシワギさんをそっと見ると頷かれた。
「私様も暇じゃないのだわ!待たせるなんていい度胸ね!リツ!仕事と私様とどちらが大切なのかしら!?」
「えぇ…。そんなこと言われても」
なんか厄介な彼女みたいな事を言われたけれど、友人と仕事のどちらかなんて選べない。
「リリィ、暇じゃないってなにか忙しかったのか?」
適当に話題を変えることにした。
リリィはすぐに食い付いて大きく頷いた。
「白い魔女と戦ったりしているのだわ!」
「白い魔女?」
またファンタジーっぽい知らない人物が出て来たぞ。
「私様と敵対している存在なのだわ」
「魔王と敵対するのは勇者だけじゃないのか」
まぁ、俺はリリィと敵対する気はないけれど。
リリィは甘いパフェを食べながら苦々しく呟いた。
「白い魔女は人間も滅ぼそうとして自分だけの世界を作ろうとしているのだわ」
とんでもない情報が飛び出して来たぞ。
異世界人、とんでもないこと平気で言い出す。
隣のカシワギさんを見ると頷かれた。
まじか……そんなやばい存在もいるのか。
「白い魔女は普段は黒い魔女が監視と牽制をしているのだわ。それでもそれが破られる時がある。だから私様は黒い魔女と手を組んで白い魔女をいつも封じ込めるのだわ」
「へえ…。リリィのおかげで俺達は平和に暮らせているよ、ありがとう」
俺がリリィに感謝の意を表すと照れてまたパフェを食べ始めた。
リリィは、人間が争うのを魔王というその圧倒的武力で制圧し纏め上げ平和を築いた。
そのうえ人間を滅ぼして世界を狙う白い魔女なんて存在とも戦って俺達人間を守っている。
リリィはリリィで大変なんだな……。
しかし、白い魔女と黒い魔女なんてのもいるのか。この世はまだまだ知らないことばかりだな。
リリィ本人に聞くのも申し訳ない気もするし、ノイシュくんかバルロットさんに聞いたら何か知っているかな?
でも、とりあえず友人としてこれだけは言っておきたい。
「リリィ」
「なんなのだわ」
パフェから顔を上げたリリィの口の両端にはクリームが付いていた。悪化してるじゃん。
思わずまたクリームが付くと分かっていながらナプキンで拭いた。
「リリィ、俺に手伝える事があれば手伝うよ」
俺の言葉にリリィはきょとんとした後とても嬉しそうに笑った。
「大丈夫なのだわ!私様は無敵の魔王なのだわ!白い魔女になんて負けないし、今までだって負けた事なんてないのだわ!」
ドヤ顔で椅子の上に立ち腰に手をやり威張るリリィ。
「危ないから椅子の上には立つなよー」
「分かったのだわ!」
素直に降りてまた座る。
リリィはいい子だ。守られるより人々を守ってきた側の存在だ。
それでも。
「リリィ、リリィが魔王で何百年も世界を統治しているのはすごいし強いことも分かっている。でもさ、友人として心配させて欲しいし、困ったことがあったら力になりたいって俺は思うよ」
俺の言葉にリリィはぐにゃりと不思議そうな顔をした。
「リリィ?」
「そ、そんなに言うならリツに心配させてあげてもいいし困った事になったら相談してあげてもいいのだわ!」
耳まで真っ赤な変な顔で言われる。
いや、これは嬉しさと気恥ずかしさと初めての感情でどうしたらいいか分からないって感じだな。
「おう。一応俺も勇者だから、いつでも頼ってくれよ」
自分の胸を胸を叩いてからVサインをする。
リリィが笑う。
「頼りにしているわ!勇者さん!」
テラス席だったせいか周囲には丸聞こえだったようであちこちから「リリィ様がしんどい」「魔王様が天使だった」などとリリィファンになった人達の声が聞こえてきた。
……俺もわりといいこと言ったからファンとか出来ないかなぁ……。出来ないか。
おっさんより可愛い美少女が健気に頑張る姿の方がいいもんな。わかる。
「でも、リツの心配は嬉しかったのだわ!白い魔女をコテンパンに叩きのめして人間に被害が出ないようにするから、安心して居酒屋で飲み潰れててもいいのだわ!」
俺、リリィにそんなこと言った覚えはない。
カシワギさんを見るとそっと目を逸らされた。
犯人はすぐに特定出来た。
事実だけどリリィの教育上やめてほしい。
でも、人間を滅ぼして自分の世界を作ろうとする白い魔女とそれをリリィと共に食い止める黒い魔女か……。
リリィが世話になっているなら黒い魔女に挨拶くらいしてみたいもんだ。
友達の友達は友達なんて言うつもりはないけれど、その黒い魔女も人知れず世界を守っているならその苦労を労いたい。ありがとうと伝えたい。
そしてリリィとカシワギさんはパフェの種類が豊富過ぎると有名な店のパフェを全種類食べ尽くして帰って行った。
その翌日の夜に事の顛末をバルロットさんとノイシュくんに話した。
「魔王側も複雑なのですね」
バルロットさんはくいっと一飲みして呟いた。
「普段はあんな調子なので忘れがちですが、この世を治めてくださっている存在ですし、我々はもっと彼女達に敬意を払うべきなんですよね」
バルロットさんは難しい顔をして言う。
「でも、力で制圧されたと反発する人達もいます」
落ち着いた声で真実を言うのはノイシュくんだ。
やっぱり魔王が世界を治めるのはおかしいのだろうか?
でも、リリィはリリィで余程のことがない限り人間が平穏に暮らせるように尽力しているとも聞く。
「それでも、俺はリリィの友達ですし何かあったら助けたいと思っています」
俺がキリッと言うとノイシュくんが呆れたように答えた。
「僕も知り合ったからにはリリィさんがどんな人物か分かってますし、別に悪く思っていませんよ」
「そうですね。我々より長い時を生きていても少なくともまだ魔族的には幼い年齢の子供のようなものですし、見守っていきましょう」
バルロットさんが俺のカップに酒を注いで纏めてくれた。
俺にはどうしたらいいかまだ分からないけれど、リリィ達魔族や黒い魔女とやらと人間達と世界にとっていい方向にいけばいいなと思った。
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