第28話
リリィから重大な話を聞いてから数日間、仕事がドタバタしていてすっかり忘れていた。
「そういやこの間聞きそびれたんだけど白い魔女と黒い魔女って詳細知ってる?」
そうノイシュくんに尋ねると、童話にもなる程の有名な話だと言われたので仕事帰りに図書館に訪れた。
幼児向けのコーナーに大人が一人で本を探す姿はあまり見られたくはない。
速やかに探し出さないと………あった!
『白い魔女と黒い魔女のお話』
そのまんまのタイトルで助かった!
閉館時間も迫っており、数冊あったので纏めて借りて家で読むことにした。
家でソファに座りながら借りてきた童話を読む。
童話なんてどれくらい振りだ?なんて感慨に耽りながらパラパラと読んでいく。
数冊読んだ概要はこうだった。
昔々、美しい少女がいました。
少女のあまりの美しさから時の王が妃にと所望しましたが、少女には恋人がいたため断りました。
すると王は少女の恋人を殺してしまい、少女は怒りと悲しみのあまり闇に堕ちて魔女になってしまいました。
白い婚礼衣装に見立てた服を纏い恋人の亡骸と共に王と国に復讐しました。
こうして白い魔女は誕生しました。
反して恋人の姉は弟と闇に堕ちた白い魔女を想って喪に服し黒い衣装に身を包み白い魔女を嗜めました。
しかし白い魔女は止まりません。
やがてこの世のすべてを呪うようになった白い魔女を止めるために恋人の姉は黒い魔女となり義理の妹になるはずだった少女を止めるために尽力しました。
こうして白い魔女と黒い魔女は生まれ、白い魔女は恋人を殺された復讐のために世界を滅ぼそうとし、それを止めるために黒い魔女は白い魔女と戦う決意をしました。
いや、どっちも可哀想じゃないか?
一番悪いの王じゃね?
白い魔女が世界を滅ぼしたくなるのちょっと分かるわ。
黒い魔女も白い魔女を心配してのことだし、横恋慕した王が一番悪い。
しかも一説には王は勇者だったと書かれている本もある。
これが事実ならこの間リリィに詳しく聞かなくて良かった。
世界滅亡の原因を作ったのが世界を一時は救った勇者だなんて。
「……王様が勇者なら困ったもんだな」
俺ならそんな傲慢なことしない。
普通にフラれたショックで三日くらい寝込むだけだ。
溜め息とともに最後の本を閉じると背後から声が聞こえた。
「本当に困ったものだよね」
「誰だ!?」
「僕だよ!」
いや、誰だよ。
見知らぬ美少年が悠々と自宅のティーカップでお茶している。
まじでなんなんだ。
声が聞こえるまでまったく存在が分からなかった。
警戒心を露わにしてソファから距離を置く俺に美少年が軽く挨拶をした。
「失礼。僕は今代の黒い魔女。リリィちゃんと共に白い魔女と戦う者さ」
そして俺が退いたソファに悠々と座るとまたうちのティーカップで茶を一飲みする。
「君が黒い魔女…男の子だよね?」
「勇者、魔王みたいな名称だからね。男でも黒い魔女に選ばれて生まれることもある」
敵意はないみたいなので俺も反対側の椅子に座った。
「へー。そんなもんなのか。白い魔女は女性?男性?」
「クソ生意気なババァだよ」
にっこりと天使の笑顔で口の悪いことをいわれる。
仲は悪いんだな。
黒い魔女はにっこり微笑んだ。
「リリィちゃんが気に掛けているようだから僕も今代の勇者に挨拶しておこうと思ってね。お邪魔させていただいた次第さ。茶菓子ならクッキーを所望するよ」
「クッキーとかないんでチーズでいいですか?」
サンダルソンから親父さんがまた送ってきてくれたチーズを冷蔵庫から出して差し出した。
そう。この世界には冷蔵庫がある!
何故洗濯機がなくて冷蔵庫があるんだ!
もっと知識ある元の世界の人こっちに来た時に頑張ってくれよ!
いやでも冷蔵庫めっちゃちゃう方してます!ありがとう!!過去の人!!
「これが噂のチーズ…!」
「めちゃくちゃ美味いぞ」
美少年は指先まで綺麗なんだな。
その指先がそっとチーズを掴むと、いつも見慣れたチーズも最高級品のように思えてくる。
「うん。美味しい」
「それは良かった」
機嫌は損ねなかったようだ。
そして黒い魔女は俺の家のティーカップでまた茶を飲み「おかわり」とカップを差し出した。
異世界人、自由過ぎねーか?
俺の周りの人達が自由過ぎるだけか?
仕方がなく新しい茶を淹れるために台所に立つと「砂糖はカップ半分程で頼むよ」と言われた。
それほぼ砂糖じゃね?
とはいえ、ご要望には応えてやるか。
半分砂糖を入れて紅茶を淹れるとくるくるかき混ぜて黒い魔女の前に差し出した。
「ほらよ、黒い魔女さん」
「ありがとう」
礼を言うとほぼ砂糖の紅茶を飲んで満足気だった。
そして黒い魔女は俺の方を向くと悪戯気に告げた。
「黒い魔女と呼ばれるのも少し恥ずかしいからね。本名を教えてあげよう。僕は黒い魔女のノア。これから顔を合わせる機会があるかもしれないから茶菓子にクッキーくらい常備しておいてくれよ、リツくん」
そうは言いながらもまたチーズを摘む黒い魔女もといノアくん。
「さて、君が大昔の愚かな王みたいな人物じゃないこともリリィちゃんが構いたがるのも分かったし、僕はそろそろ帰るよ」
そう言って、黒い魔女もといノアは一瞬で消え去った。
一体なんだったんだ…?
とりあえず、クッキー買っておくか。
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