短編小説「嫌いなところ」

門掛 夕希-kadokake yu ki

四季のうつろいの様に

 


 「うん、おいしい。君の作るグラタンも最高だ。僕の好きなブロッコリーも入れてくれてるし、ありがとう。仕事終わりにこんな贅沢をしていいのかな」旦那はリビングで夕食を食べながら、いつもの様に私の手料理を褒めてくれた。私はそんな旦那の背中を、キッチンで洗い物をしながら見守る。そして、私は旦那に気づかれない様にスマホを取り出し、メモ機能を開いた。  





 〝わかりやすいお世辞ばかりを言ってご機嫌を取ろうとしている〟そう書き記すと、私は満足して「あなた、いつも残さず食べてくれてありがとうね」と旦那に声かけをした。出来る限り優しい声色で。




 旦那とは結婚して5年が経った。大学生の頃からの付き合いであり、知り合ってからの期間を足すと10年以上になる。旦那のいいところはいっぱいある。歩道を歩くと、必ず車道側を歩いてくれる。買い物が終わると荷物を必ず持ってくれる。小さなことかもしれないが、私を気遣ってくれてる気持ちが伝わる。それらの行動は、いつと私をお姫様の様な気持ちにさせてくれる。旦那の優しさがとても心地よく好きだ。でも、旦那が好きという気持ちだけで、毎日を過ごせるわけではない。




 日本の四季ははっきりしている。よくテレビで日本を誉める時の言葉として耳にする。日本人だからだろうか。日本の四季と同じように、夫婦にもはっきりとした春夏秋冬があると最近考えてしまう。多くのものが芽吹く春を経験し、見つめるだけで体温が上がるような夏を経て、落ち着きのある緩やかな実り秋を堪能し、そして——




 「ごちそうさまでした。洗い物まだある?残りは僕が今食べ終わった食器と合わせてやっちゃうよ」旦那はいつの間にか私の隣まで来ていた。私の意識がこの家を飛び出て、遥か彼方で気ままに浮遊していた所を急に呼び戻されてしまった。私はシンク脇に置きっぱなしにしていた携帯を手に取り、〝考え事をしているときに急に話しかけてくる。察しが悪い。〟と先ほどの文章の後に付け加えた。その様子を旦那は横で眺めていたが、私は気にしない。




 「——それでは、続きまして『二人四脚さん』からのお便りです。『旦那の仕事帰りに買ってくるお菓子が許せません。自分が食べたいから買ってくるのに、申し訳程度に私の分も買ってきます。君が食べたいと思って買ってきたんだよ。と、私の為に買ってきたというスタンスを繕ってるところに腹が立ちます』あー、これはでも、旦那さんの気持ちわかるなー。これ——」そこで、私はラジオを聴くのをやめた。そして、イヤホンを取り背にしていたソファの溝に顔を埋めた。




 「どうしたのそんな顔して?」私の不貞腐れた態度に気づき隣で読書していた旦那が声をかけてきた。「……今日は珍しく読み上げてもらえなかった」私は力無く旦那の質問に答えた。「今回のお題は難しすぎた。『旦那や彼氏の嫌いな所』だもん。頑張って想像してみたけど、リアリティがないもん」嫌いなところのない旦那に対し私は正直に告白した。ラジオ投稿は私の旦那以外の生きがいと言える、唯一の趣味である。




 窓が夜のとばりはしる冬風を受け、少しばかり叫んでいる。冬はまた巡る春に向けて準備の期間である。そして来春はもっと旦那を好きになる。


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短編小説「嫌いなところ」 門掛 夕希-kadokake yu ki @Matricaria0822

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