7、
あの時と違い、駐車場も含め、公園は一面フェンスに覆い囲まれていて、風車も綺麗に無くなっていた。空が随分広く見える。
しばらくその空っぽの空を見つめていたが、薄らと明るくなってきたので、舞香は宏太に両手を伸ばす。
「か、肩車して。フェンスを越えられない」
「堂々とフェンス越えようとするんだな」
「こ、ここまできて、ここから見るの?」
「確かめただけだ。ほら、乗れ」
「うん‥‥‥スカートの方が良かった?」
「確かにそっちの方が良いかもな。打ち上げた時に、パラシュートの役割をしそうだ」
「え、私打ち上げられるの!」
当然そんなことはなく、しゃがみ込んだ宏太の肩に舞香は乗って、そしてフェンスの上に飛び、乗り越えていく。
舞香が向こうに飛び降りたのを音で確認して、宏太も越えていく。
「よっと」
丁度、舞香の横に降り立つ形で飛び降りた宏太は真っ直ぐ前を見て固
まっている舞香に首を傾げる。
「どうしたんだよ?」
そう言って、不意に前を向いた。
彼も目を見開いた。
あの時と同じ場所。朝日を見て、彼女が静かに涙を流した場所に女の子が立ち尽くしていた。
この時期には寒すぎる真っ白なワンピースと肩口ぐらいまで髪。そして頭の上には。
彼女は真っ直ぐ朝日が昇る空をじっと見つめている。全く動かない。
言葉を失い。頭が真っ白になっていた宏太と舞香だったが、先に動き出したのは宏太で、頭の上に帽子をつけて歩き出した。その後数歩遅れて舞香も同じように頭に帽子を被った。
宏太は歩きながら着ていたコートを脱ぎ、彼女の肩にかけた。しかし彼女は気づかない。
宏太が彼女の左側に並ぶと、舞香は彼女の右に並んで、その手をすっと握った。とても冷たかったので、自分の温度を必死で分けるように、力強く握った。それでも彼女は気づかない。
やがて辺りがゆっくりと明るくなっていき、東の地平線からゆっくりと太陽が昇る。それでも彼女は、カーヤは全く身じろぎをせず、真っ直ぐ太陽の方を見る。
やがて、太陽の光が周りを暖かな空気で包むと同時に、ようやく自分の肩にコートが乗せられていることに気がつき、自分の両脇に立っている二人に交互に視線を送り、オレンジ色の瞳を
「あの、ありがとうございます。でも、大丈夫です。私、寒くありませんから」
初めて聞くカーヤの声は、凛としたとても綺麗な声だった。とてもロボットの、人工的に作られたと思えないぐらいに滑らかで、実に彼女っぽい声だと、想像通りの声だと、思わず二人ははにかんだ。
「見ていて寒々しいんだよ。知っているか?人って、見ているだけで寒くなることがよくあるんだ。だから、勝手に隠させてもらった。感謝の言葉なんていらない」
カーヤはよくわからず小首を傾げて、舞香の方に視線を送る。
「あの、すいません。そんなに強く握られると、跡が残ってしまいます」
「ご、ごめんなさい。でも、その友達と」
舞香はゆっくり首をふった。
「親友ととても似ていて。だから、そのもう少しだけ」
カーヤに舞香の感情はわからない。わからないが、必死なのは伝わってきた。
「そうですか。それはお役に立てて、何よりです。それより、お二人とも随分コミカルなものを頭の上に」
「君も一緒じゃないか。どうしたんだそれ?」
「わ、私とお揃い」
宏太の質問にカーヤは首を傾げる。
「それが、頭の上にあったんです。外すのもどうかと思い、そのままつけてきました」
それを聞いた二人は肩を震わせる。実にカーヤらしいなと。
「それにしても、その格好で寒くないとか、跡が残るとか、頭の上にあったとか、まるでお前、ロボットみたいだな」
率直な問いに舞香はギョッと、宏太を見たが、返答はあっさりとしたものだった。
「あ、はい。私ロボットなんです。よく気がつきましたね!」
宏太は苦笑いを浮かべる。
「冗談きつい。そんなに表情豊かなのにか?」
「表情が豊か?」
「ああ、朝日が登った時は笑っていたし、コートに気づいた時は戸惑っていたし、ロボットと指摘された時は凄く驚いていた。今のロボットは皆、お前みたいなのか?」
「あ、いえ。これは、訳がわからないと思いますが、一時期人間だったことがあって。多分、その時に身に付けたものだと」
「ず、随分曖昧なんだね」
舞香の表情は一筋の光を見出そうとしている、そんなものだった。
「はい、その時の記憶がなくて。
でも、そんな私にも友達ができて、楽しそうだったと聞いたので、それでだと思います。
私が人間みたいに感情豊かなのは」
「そ、そうなんだ」
やっぱり覚えてないのかという落胆の気持ちはあったが、楽しんでくれていたことを聞いて、どこか嬉しかった。
しばらくの沈黙。そしてゆっくりとした口調で宏太は尋ねた。
「そういや名前を聞いてなかったな」
「あ、私、カーヤと申します」
「そうか。俺は室井宏太だ」
「わ、私。絹延舞香」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、カーヤ。よかったら俺たちに聞かせてくれないか?君が人間になった時の感想を」
「わ、私も聞きたい」
二人を交互に見た後に、カーヤはコクリと頷き、そして真っ直ぐ朝日を見て、口を開いた。
「私にとって、人間とは」
そう語り出すカーヤの言葉に、宏太と舞香は耳を傾けた。
美少女ロボット。人間になり、人間を知る。 @esora-0304
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