5、
「最後に一つ聞いていいですか?」
店を出て、別れ際に宏太は問いかける。
「あの日。テーマパークに行った帰りに、俺たちにメールを打ったのはあなたですよね?
どうして、俺たちから距離を取ろうとしたあなたが、また会おうと思ったんですか?」
きっと、あのメールは畦野に頼まれて、打ったんだろう。宏太達に察しされる前に、この街からカーヤを遠ざけるために。
だから、今回の行動は宏太にとって、奇怪であった。
「こうやってあったら、俺たちから言われると思わなかったわけじゃないですよね?」
もう一度、カーヤに合わせるように頼んでと。
宏太の質問ににこりと笑い、突然舞香を抱きしめた。
突然のことに困惑する宏太と舞香だったが。
「あなた達がカーヤちゃんの親友であることに変わりないなら、私が彼女の母親だってことにも変わりはない。
娘の為に怒ってくれた子達になんのお礼も言わない母親にはなりたくないの」
スッと舞香から彼女は離れて、告げる。
「本当にありがとうね。ウチの娘と仲良くしてくれて」
そう言って去ろうとする彼女の背中に、宏太は叫ぶ。
「娘さんに何か言われているんでしたら、こう言ってください!『大丈夫、二度と近づないように忠告しといた』って」
一瞬止まった背中は、振り返ることなくゆっくり遠ざかっていく。
その背中を見ながら、舞香は寂しそうに呟く。
「もう二度と会うことないのかな」
「そうだろな。俺らはカーヤの友達であって、橘柚月とは友達じゃないんだから」
「だ、だよね」
「でも、あの人言っていただろ。カーヤの母親であることに変わりは無いって」
彼を見つめるエメラルドグリーンの瞳が輝く。舞香の頬は少し赤かった。
彼は罰が悪そうに頭を掻く。
「さぁ、帰ろうぜ」
「うん!」
そして寒空の中、二人はゆっくり歩き出した。
もう年の瀬も近い。クリスマスの装飾は雪と共に片付けられて、今は年末独特の慌ただしさを肌で感じる季節で、どこか世の中忙しなさを感じる。駅前のツリーも撤去されてはいないが、光を放つこともない。
少し前を歩く宏太に舞香は徐に投げかける。
「あ、あのね。私、この二日間、もちろんカーヤちゃんともう一度会えないかなと考えていたけど、それと同時に宏太君とのことも考えていた」
「‥‥‥俺とのこと?」
決して振り返りはしない。だって、少し頬が赤いのだから。
「う、うん。私たちって、そのカーヤちゃんがいたから、友達になって、こうやって一緒にいる。
でもじゃあ、カーヤちゃんがいなくなったら、まるで繋ぎ止めていたものが、プツリと途切れて私たちもバラバラになるかと思ったら、少しその怖くて」
「かけがえないものを作るのは嫌じゃなかったのかよ?」
「うっ、そうなんだけど」
少し意地の悪い質問をしたと思って、苦笑いを浮かべる。
「悪い。そうだな。この後、俺たちがどうなるのかなんてわからない。
友達はどこまでいっても友達だからな。
定義も曖昧だし、契約を結ぶようなこともしない。兄妹の次に、最も近い赤の他人とも言えるし」
そう言ってから、宏太は立ち止まり、面倒そうに頭を掻きながら呟く。
「だから、俺が約束できるのは一つだけだ。決して、カーヤみたいに勝手にどっかにいかない。
それだけは約束するし、約束しろ」
舞香は一瞬目を見開いてから、スッと微笑んで、少し歩を早めて、宏太と並ぶ。
「うん!ね、初日の出」
「はぁ?」
「い、一緒に見ない。あの山で」
「それは無理だ」
あまりの即答に明らかに落胆する舞香に、宏太は訂正する。
「ああ、そういう意味じゃない。あそこって、SNSで紹介されてから、結構有名な日の出スポットで、忍び込む人も少なくないらしい。特に元日は多く、警邏も厳しくなるんだ。だから、元日に忍び込むのは難しい」
「あ、ああ、そういうことか」
思わず安堵の息を吐く舞香。
「だから、今年最後の日の出を見ないか?」
宏太の提案に舞香は嬉しそうに頷いた。
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