4、
「どうしてこうなった?」
「す、すごい」
「わ、わぁ、なんですかここは。景色が変わりましたよ。すごいです」
肩を落とす宏太に対して、舞香とカーヤは先ほどからテンションマックスだ。
駅を降り立った瞬間、ニューヨークのマンハッタンを思わせる街並み。アーケード街のように同じぐらいの高さの建物が立ち並ぶ。派手な電飾看板。見慣れたチェーン店の看板もあるのだが、周りの風景と合わせているのか、知っている店の雰囲気とは違っていて、とてもおしゃれに見えた。
更に醜い演出なのか。駅から降り立ったところ二十メートルぐらいのところは大きくカーブしていて、先が見えない。おかげで、駅から降り立った時。そしてカーブを曲がった瞬間。二度の驚きが彼女たちを襲う。
「み、見えました。テレビ通りです」
「や、やばいよ、カーヤちゃん。私、来てはいけないところに来てしまったみたい」
テレビや雑誌でしょっちゅう見るテーマパークの入り口である真っ白な門が見えた。
テンションがおかしな方向に振り切っていて、途中で充電が切れるのではないかと前を歩く二人をじっと見ながら、なんで俺はここにいるのかと、自問自答を続ける宏太。
「し、知ってるカーヤちゃん。JK達は気に入ったところをスマホで撮って、SNSに投稿するみたいだよ」
「な、なるほど!」
そう言って二人はスマホを構えて、ところ構わず写真を撮り始めた。
帰りたい。
宏太は心底そう思った。
土曜日の朝八時。早朝に何故、こんなところにいるのかというと、もちろんカーヤたっての願いだ。
「友達と遊びに行きたい!」
舞香は全てを話した。
どうして最近避けることをしていたのか。彼女がもうすぐでいなくなってしまうことを知ったこと。それを話してくれなかったことに対して、怒りや悲しみを覚えたこと。
傍でその様子を見ていたのだが、多分カーヤは半分以上も理解していないのだと思った。それでも。
「そうですか。それはすいませんでした」
今にも泣きそうな舞香の姿を見て、カーヤはどこか寂しそうな表情を浮かべている。どうすればいいのかわからないのに、それでもそんな表情を浮かべているのをみて、本当に彼女の心はロボットなのかと思うぐらいに、その表情は自然に見えた。
「ほら、言いたいことがあるんだろ?」
黙っていた舞香にそう言ったら、彼女は涙を拭って、カーヤのやりたいことを一緒にやりたいことを伝えた。
「私もお願い叶えてもらったんだから、カーヤちゃんのお願いを叶えたい」
「で、でも。私はテスト勉強教えてもらいましたし」
「そ、それ以外で何かないの?」
「え〜っと」
今度は困惑するような表情を浮かべる。コロコロ変わる彼女の表情が面白くて、微笑んでいた時に視線を向けられたので、不意をつかれた形になって、目線を逸らす。
「何がしたいですか?」
「はぁ、なんで俺に?」
「いつも助けてもらっているので」
宏太は溜息を吐く。
「写真の件なら気にするな」
「それもありますが。色々相談に乗ってもらっていますし」
「雑談をしているだけだ。今は、お前のやりたいことを言えばいい」
「そ、そうですか。では」
そして口に出したのだが、友達と休日にお出かけをすることだった。
まぁ、彼女らしい妥当な願いだと思った。
そこまでは良かった。
休日にショッピング程度ならまぁ、付き合ってもいい。ところが彼女達が提案してきたのは、なんとテーマパークへいくことだった。
「な、なんでだよ」
どうしてこのクソ寒い時に屋外で遊ばないといけない。しかもウォータースライダーやジエットコースターなど。とにかく寒さや冷たさを感じるものばかりある場所に。宏太にとっては拷問でしかなかった。
テーマパーク行きを告げた舞香が、思っていた通りの宏太のリアクションに泣きそうになりながら、事情を説明する。
「ふ、二人で本屋にいったら、そのカーヤちゃん見惚れちゃって」
「何に?」
「クリスマスツリー」
そんなものこの時期ならどこにだってあるだろうと、思ったのだが。
「じゃあ、他にもツリーがあるから、そこにしようって言ってきて」
「そ、それは」
クリスマスの電飾並みにに目を輝かせている彼女に言えるわけがなかった。
「でも、行けるのかよ。その、金銭面的に」
高校生にとって、テーマパークの入場券というのは決して安い値段ではない。更に食事代や交通費などを加えれば、かなりの額になる。バイトをしていない彼らにとっては工面するには不可能な金額だ。
「そ、そうだよね。一応両親に相談してみる」
そして結果は言うまでもなく、三人の両親とも心よく引き受けてくれた。なんと余分にお金を持たしてくれた。
「休日に友達とお出かけ!しかも舞香ちゃん達と!」
宏太の両親も瞬殺だった。
ぼっち達はこういう時にお金を工面するのが楽である。
そうして全ての外堀を埋められた宏太はこうやって、二人と共にテーマパークに来ている。
「というか、朝会った時からずっと、突っ込もうと思ってたんだが。
どうして二人とも制服なんだよ!」
今日は土曜日。学校はない。なのに、朝駅で合流した二人はまるで今から学校に行かんというばかりに制服の上にコートを着て、マフラーを着けているだけの姿だった。
もちろん宏太は私服だ。黒のデニムに黒のパーカーの上に真っ白なコートを着ている。
二人の姿を見て一瞬、日付を間違ったのかと思ったのだが、そういえば二人が山を登った時も、あの絶対、女子高生が電車に乗ってはならない服装だったことをすっかり失念していた。
「お前ら、私服持ってないのか?」
カーヤと舞香はお互いにお互いを見て、一緒に宏太に視線を向ける。
「柚月さんの服しかなくて」
「外に出かけるためのお洒落な服を準備するのを忘れてて」
「お前ら、親から何か言われなかったのか?」
特にカーヤの両親は今、柚月の母のはずだ。中学時代の柚月を思い出す限り、ファッションに無頓着なはずがない。そしてその母も然りだろ。
「そ、それがですね。確かに買いに行こうと提案されたのですが、その、もしかしたらこうなると思って」
そう言って、舞香を見た。その視線の意図が分からず、首を傾げる舞香。
「あ〜なるほどね」
要は舞香が制服で来ることを考慮したのだろう。
そこまで考えて、どうして二人で服を買いに行こうという結論に至らなかったのか、宏太は不思議で仕方なかった。
「今度、二人で服買いにいけよ」
頭を抱える宏太に、舞香とカーヤはお互いの顔を見た後に、キョトンとした。
「え、でも。私ファッションなんて」
「私も」
ロボットとボッチがファッションについて詳しくないのは当然のことだ。だが、二人が何故悩んでいるのか宏太にはわからなかった。
「別に他のクラスメイトと遊びに行く服を用意しろと言っているんじゃない。二人で出かけるための服だ。だから、お互いがお互いを見て良いという服を選べばいいだけだろ?」
最悪店員に尋ねればいい。それに二人とも素材は悪くないはずだと付け加えようとして恥ずかしくなって、やめた。
宏太にそう言われて、二人は納得したように頷いた。
「宏太さん流石です!」
「な、なんで、同じぼっちなのに」
答えはお前と違って、望んでボッチをやっているからだと言いかけたが、そんなことを言ったら、また恨み節が飛んできて、喧嘩になりそうなので、口を閉じた。
「なんで、オープン前なのに、こんなに混んでいるんだよ」
オープンは朝の九時。なのに、エントランスには長蛇の入場列ができていた。
「な、なんか、人気アトラクションに優先して乗れるチケットがアプリで取れるみたいですけど、その予約を取るためには一旦パークの中にはいるしかないみたいです。中には予約しないと入れないエリアもあるみたいです」
「なるほどな」
テーマパークなんて小学校以来行ってなかったので、そういう事情を全く知らなかった。
「お前ら、乗りたいものは決まっているのか?」
「もちろんです!」
そう言って、カーヤはガイドブックを取り出して、宏太の顔におしつけた。
「見えない」
「あ、すいません」
ガイドブックを手に取り、最初に乗りたいものを見て、宏太はげんなりした。
「あのさ、俺まって」
「楽しみですね宏太君!」
その笑顔を見て、一緒に乗らないという選択肢は叩き潰された。
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