2、
絹延舞香は小学校低学年の頃ウサギを飼っていた。
本当は犬が欲しくてペットショップに行ったのだが、学校の飼育小屋にいる真っ白なウサギではなく、オーカー色の毛並みにピンと張った耳ではなく垂れ下がった耳。いわゆるロップイヤーという種類のウサギに一目惚れしてその場で購入を決意した。名前はその垂れた耳がカチューシャに見えたので、略してカーチャと名付けた。
カーチャは人懐っこく、そして賢い。最初は懐いていたのに、友達との遊びに夢中になり、お世話が疎かになっていたら、急に懐かなくなって、その間お世話をした母の方に懐いてしまった。舞香の初めての失恋はウサギでした。
『ちゃんと、お世話をしたら仲直りできるよ』
母の言い分に従い、舞香は熱心にお世話をした。その甲斐あって数ヶ月でまた懐くようになった。
とにかくその時の彼女にとって、カーチャは世界の全てだった。
だが、別れは唐突に訪れた。
ある日、目覚めたらカーチャが全く動かなかったのだ。すぐさま病院に連れて行ったが手遅れで、飼い始めて三年でカーチャはこの世を去った。
しばらく学校も休んだし、何も手がつかなかった。心にぽっかり穴が空いたような感覚で、その空いた穴を埋める手段も全くわからず、ただ、呆然としていた。
流石に一ヶ月もすれば日常生活に支障が出ないほどに回復をしたのだが、その時に決意した。
かけがえのないものは両親と祖母だけで十分だと。
それからというもの、友達付き合いはするが、適度に距離を置いて決して踏み込ませないようにした。そのせいか、小学校も中学校も学校が変わったり、クラスが変わったりしたらあっさりと疎遠になった。
舞香のなんでも率直にものを言う性格も相まって、高校でははぶられた。中学時代、彼女のクラスメイト本人や親や親戚等に不幸が相次いだこともあり、呪いの子といちゃもんをつけられて。
一体何人該当者がいたのか。
しかしそれでよかった。
これでまたあんな思いをすることもないし。
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