2、

「それじゃ、また明日」

 そう言って、カーヤは教室を出て行ったのを見送ったら、舞香は立ち上がった。

「よ、よし、行こう」

「おぅ、行って来い」

 いつものように自席で絵を描く宏太はヒラヒラと手を振る。当然、見送るという選択肢は許されず。

「む、室井君も行きますよ」

「‥‥‥‥」

 目の前で立ち尽くす舞香を無視していたら、彼女は膨れっ面を浮かべる。そして。

「あ、おい、俺のタブレット」

 タブレットを引ったくられて、宏太は慌てて、舞香の後を追いかけるしかなかった。

「お前、本当に友達できないぞ」

 カーヤの数メートル後ろを尾行する舞香。そしてどこか尾行することを楽しんでいるようにみえる彼女に本気でバラしてやろうと思いながら、その背中を睨みつける宏太。

 学校から三十分ほど歩いたところ、住宅街の一角の家に入って行った。玄関が閉じたのを確認して、その家の真正面に立ち、舞香は絶句する。

 研究所と言っていたので、てっきりフェンスに囲まれた大きな敷地にある真っ白な近代的な建物のイメージだったのに、そこには周りの家と比べてもボロくみえる木造二階建て。テレビで紹介されるゴミ屋敷や猫屋敷のような小汚い家に言葉を失う舞香だったが、やがてとある考えにいきつく。

「あ、あれだ。この家はフェイクで、実は地下シェルターがあって」

「テレビの見過ぎだ」

 舞香の逞しい妄想はマフラーに顔を埋めた宏太の一言であっさり棄却を喰らう。

「それで、どうするんだ?」

「ど、どうするって?」

「何も考えてないのかよ。

 今、突撃したところであいつと鉢合わせするし、もし、あいつがいない時に来たところで、自分たちのことをどうやって説明するつもりなんだよ」

「そ、それは。正直に言えば」

「カーヤの友達っていうのかよ。もし、あいつが自分のことを話したことをその博士とかに説明してなかったらどうするんだよ?」

「そ、それは」

「さっきから、お前ら何やってんだ」

 突然声をかけられ、慌てて前を向くと、門扉のところに手をかけて二人を睨みつける畦野がいた。

 小汚い姿で、片手にはワンカップを持っている彼の姿はどう見ても不審人物で二人は逃げようとしたが。

「その制服。お前らカーヤの友達か?」

 ジト目で見られて、警戒する宏太と。

「あ、はい。カーヤちゃんの友達です。おじさんはカーヤちゃんが言っていたはか、クズご主人様ですか?」

「お、おじさん、くず」

 タブルパンチに、いたくショックを受けた畦野は一瞬ぐらついたが、すぐに体勢を立て直した。

「まぁ、いい。ちょっと話がある。入ってこい」

「え、でも」

「心配すんな。カーヤにはバレないようにするから」

 こちらの意図を察したようにそう言って、玄関に向けて歩いていく畦野の姿を見つめる二人。

「ど、どうする?」

「まぁ、あいつの知り合いであることは間違いないし。酔っ払っているのなら、最悪なんとかなるんじゃないか」

「ず、随分楽観的だね」

「お前に言われたくない。それとも帰るか?」

 しばらく俯いていた舞香だったが。

「行こう」

 そう言って一歩を踏み出した舞香の後を宏太もついて行こうとしたが、すぐにその歩みが止まる。

「先頭どうぞ」

 人を盾にするつもりかこの女はと。心の中で悪態をつきながらも、流石に女子を盾にするのはいかがなものかと考え直して、宏太は先頭に立つ。

 

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