2、

その日の放課後。カーヤは写真を研究所に持ち込んだ。

「博士。写真検索ソフトってありましたよね?」

 カーヤの記憶が正しければ、その写真をスキャナに読み込めば、その写真の場所を正確に知ることができるソフトだ。

「な、なんだ。いきなり」

 玄関の扉を開けるなり、そう言ったカーヤに畦野は目を丸くする。

「いいからさっさと、この写真を読み込みやがれ」

「意味がわからん」

「わからなくて良いです。ただ、私の指示通りに動けばいいのです」

「お前はどこの女王様だよ」

 意味はわからないが、これも実験の一環だと思い、写真を受け取ろうとしたら、引っ込められた。

「‥‥‥なんの真似だよ」

「大切な写真です。触れないでください」

「お前、本当に良い性格してきたよね」

 しかしそう言った畦野は少し嬉しそうだった。

 確実に人間になってきている。

 数年前に比べれば目まぐるしい進歩だ。

「罵倒されて、喜ぶとは。博士はあれですか?マゾという奴ですか」

「どこで覚えてきたそんな言葉。

 良いから、さっさとその写真スキャナにセットしろ」

「了解致しました」

 そう言って、埃が被ったスキャナの埃を払う。あまりにも埃っぽくて、思わずむせる。

「ごほ、ごほ。博士は本当に人間ですか?よく、この環境で生きていますね」

 定期的に片付けているのに、無限に散らかり続けるこの研究所はもはや人が住める環境じゃない。

「そんなことを気にするのは集中力のないやつか、固定概念に凝り固められた凡人だ。俺みたいな天才にはどんな環境でも研究をやり遂げられる」

「要は呼吸器官がぶっ壊れていると」

「無駄口叩いてないで、さっさとセットしろ」

 カーヤは手で埃を払ったスキャナに、写真をセットした。

「フフフ、この天才が作ったソフトが遂に火を吹く時が来たな」

「いいからさっさとしやがれ」

「任せとけ」

 パソコンの起動音がして、スキャナが光を放って写真を読み込み、その画像がディスプレイに映し出される。

「よし、いけ、検索ソフト。あけびちゃん!」

「うわ〜」

 もちろん、この声は驚愕じゃなくて、ドン引きの声だ。

 畦野がエンターキーを押した瞬間にディスプレイに表示された。

『検索結果。場所‥‥‥‥日本』

 言葉を失う二人。

「‥‥‥‥使えね〜」

「お前、本音はもう少し、隠してだな」

 そう言った畦野のをみて、もう一回。


「申し訳ありません。うちのクズご主人様のせいで、期待通りの結果が得られませんでした」

 次の日の昼休み。風は少し冷たいが暖かな日差しが差し込む屋上のベンチで、カーヤは舞香に頭を下げた。

「う、うん」

 クズご主人様って、何?

 というか、初めてカーヤの口から人を罵倒する言葉を聞いて、結果とかそんなものが全く頭に入らなかった。

「し、仕方ない。地道に探すしかないよね」

「こういうのはどうやって調べればよろしいのでしょうか?」

「‥‥‥‥ネットかな」

 誰かと出かけることも、何かに興味を持つこともほとんどない舞香にもその方法はわからなかった。

 もちろん風車と検索したところで、日本だけでも、1400万件もの結果がでた。これを一つずつ当たっていくだけで、人生が終わりそうだ。

「う〜ん、この街の可能性が高いのですし、地道に探してみますか?」

「あ、でも。この街のことは結構調べたんだ。でも、見つからなくて」

「う〜ん、どうしたモノでしょうか?」

 柚月のお母さんに聞けば何かしらのご助力を得られるだろうか。

 でも、何も努力しないで人に頼るのはいかがなものかと。

 だけど、時間がないのも確か。

 どうしようかと思い悩むカーヤだったが、立ち上がり不意に叫んだ。

「一人います。風景に詳しい方!」

 

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