第三章 少女達は己が目的の為にそこを目指す。
1、
「この写真を完成したいの」
次の日のお昼休み。屋上に続く階段で二人は並んで座っている。今日は生憎の雨。人に聞かれたくない話だと舞香が言ったので、選んだのがここだった。
舞香から差し出された写真は以前に見ようとして、取り上げられた写真だった。
「この写真はとても大切なものだと、お見受けしましたが拝見しても?」
女子高生らしくない口調に逆に恐縮してしまう。
「う、うん。大丈夫」
「では、拝見さしてもらいます」
その写真には風車が写っていた。
どこかの高台だろうか。曇をバックにレンガで出来た円柱形の建物に赤い円錐の屋根が乗っかっていて、その屋根に大きな白い4枚の羽根がついているが、回ってはいない。
「大きな風車ですね。どこの写真なのですか?」
カーヤの問いに舞香はフルフル首を振る。
「わからないの。これ、おばあちゃんが持っていたんだけど、どこで撮ったのか忘れちゃったらしいの」
「失礼ですが、お婆様のご病気は悪いのですか?」
舞香の表情はどこか深刻そうだ。
「う、うん。来年一年持つかどうかって言われてる。もしかしたら次の桜は見れないかもしれないの」
大切なものを失ったことも、ましてや命というものを全くわからないカーヤには舞香の気持ちはさっぱりわからなかった。でも、目的を果たそうと必死になっていることは、なんとなくわかった。
「なるほど。つまり絹延さんはお婆様の願いを叶えたいのですね。ご立派だと思います」
「や、やめてよ。恥ずかしい」
「恥ずかしがることはありません。
誰かの為に無償で働くということはそう簡単に出来ることではありません。
絹延さんはとてもお優しい人です」
舞香は顔を真っ赤にする。わざと言っているのだろうかと思うぐらいに恥ずかしかった。
でも、舞香を見るカーヤの瞳からはとてもそんな風に感じられなかった。
「あ、ありがとう」
「まぁ、私はこの写真を完成させれば、絹延さんとお友達になれるのですから、無償ではないのですけど」
「だ、だから。そういう恥ずかしいことは」
「それで、どうしてこの写真はどうして未完成なのですか?」
どうやら自分とは違うベクトルで、目の前の女の子は率直にモノを言うのだろうと舞香は理解する。しかもそこに邪な感じも煽てている風にも感じない。本当に思っていることを口に出しているそんな感じだ。
舞香は何かを諦めたように息を吐く。
「後ろをみて」
言われるがまま写真を反転すると、白くなった裏側の右下に黒のマジックで、走り書きで『未完』と書かれていた。
「それ、おばあちゃんの字。でも、それを書いたのも覚えてないの。
おばあちゃん最近認知症が進んでいて、昔のことほとんど覚えてないの。私やおじいちゃんのことは忘れてないんだけど」
「つまり、この写真はお爺様とのいわゆる『思い出』というやつですか?」
「う、うん。多分」
ロボットだったカーヤには当然思い出というのはよくわからないし、こうやって過去の忘れた記憶を知りたいという気持ちもわからない。
でも、自分の中で沸々と、何かが湧き上がってくる感覚はあった。そしてその気持ちがなんなのか、知りたいと思った。
「わかりました。微力ながらお手伝いさせていただきます」
「ほ、本当にいいの?」
場所もわからなし、どうしたらこの写真が完成するのかもわからないという、かなり曖昧なこの状況。半分以上はカーヤに三行半をつけてもらう為だけに出した条件だ。なのに。
「まずはこの写真の場所がわからないといけませんね」
早速吟味を始めるカーヤの姿に一瞬涙をこぼしかけるが、堪えた。
「うん、おばあちゃん結婚してからずっとこの街に住んでいるから、この街だと思うんだけど、私には見覚えがなくて」
もちろん旅行先かもしれないし、祖母の生まれ育った場所の風景かもしれない。それにこの風車がいまだにあるのかもわからない。
「とりあえず探してみましょうか」
とはいえ、手がかりがこの写真だけとは。
「いや、もしかしたら簡単に探せるかもしれません。この写真少しお借りしてもよろしいですか?」
「う、うん。わかった」
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