5、
「最悪です」
帰り道。虚な瞳でカーヤは研究所に向かう。
疲れ。精神的疲労。人間の体というものは一体どれだけのものをこんなひ弱な体に抱え込みながら、生きているというのか。
「挫けそうです」
朝は眠いし、寒いし、すぐお腹は空くし、ちょっと走っただけで息切れをして、汗は掻くし、時々頭痛が物凄くして、体が鉛のように重くなるし、ちょっと勉強しただけで、眠気は襲ってくるし、単純な作業もすぐ散漫になってしまう。
何もかもがスペック不足だ。人間の体は。
「美味しいものを食べる以外、何もない」
一体、全体なぜこんな不便なのだろうか。
自分が憧れた人間の体は、なんて脆弱なのだろうか。
うわ言のようにそう呟きながら、一人、道を歩いていた時だった。
「うわぁ」
「きゃぁ」
前から歩く人とぶつかってしまった。
「いたたた、って、ご、ごめんなさい。私。って、え!」
前髪で隠れたエメラルドグリーンの瞳の下に泣きぼくろ。童顔の女の子は尻餅をついたお尻をさすりながら、相手の方を見ると、いまだに倒れ込んでいる。
「機能停止。機能停止」
体を操るのに苦労しているのに、突然倒れ込んでしまうと、いまだに一人で立ち上がれない。ロボットの時も強い衝撃を受けると、機能が停止していたので、その名残もある。
「本当に大丈夫ですか!」
そう言って彼女は、カーヤの手を引っ張って、立ち上がらせようとした。小学生かと思わせるような身長の彼女が平均的体格よりも大きな柚月の体を持ち上げるのは一苦労で、頑張って引っ張るが、中々持ち上がらない。そうこうしているうちにカーヤは我にかえり、頑張って自力で立ち上がる。
「申し訳ないです」
人の役に立つためのロボットである自分が人に迷惑をかけるなんて、言語道断だと思い、頭を下げる。
頭を上げ相手の方を見ると、彼女は目を逸らした。結構露骨に。
こういう感情をなんというのだろうか?
「‥‥‥あの」
「ご、ごめんなさい。人の目を見るのが苦手で」
「あ、はい」
どうしたって、見下ろす形になるので、それが圧をかけているのかと思い、しゃがみこむと彼女は赤面した。
「そ、そんな小さくないよ!」
そう叫びながら、脱兎の如く逃げ出した彼女の後ろ姿を見て、自分と同じ制服を着ていることに気がついた。同学年かはわからないが、小学校高学年か中学生だと思っていた。つまり、年下扱いされたことに彼女は腹を立てたと解釈した。
「怒らせてしまったようです」
本当に人間は難しい。
そう思いながら、カーヤは帰路を辿る。
「また傷つけてしまいました」
擦りむいた膝小僧を見ては、柚月の体を傷つけてしまい、また謝らないといけない。そう考えたら、自然と足取りは重くなった。
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