第133話 転移の理由と目的
<選ばれし千人の日本人>
まず大前提として、調停者に召喚された千人はランダムに抽出されていた。潜在的な能力やサバイバル適性などで選ばれていない。
巻き込まれた俺たちもそうだが、地球人なら誰を転送させてもよかったらしい。そもそもの話、人類の体は転送に耐えうるべく創られていた。
超越者は「座標がうんたら」と言っていたが、ようは一定以上の速度で移動していることが転移の条件となるそうだ。なるべく多くの人類を送るべく、電車やバスが対象に選ばれた。
結果、日本のような島国は別として、大まかな大陸ごとにコピーされた同じ世界へと飛ばされる。
<最初に訪れたお試しの世界>
これはまさしく、チュートリアル的な意味を持つ世界。
ツノ族の原型となるツノが生えた原始人、そして動物とモドキをごちゃ混ぜにした空間。そこに人類を送り込み、モドキ肉を食わせることが目的だった。
自らを強化しつつ、次の世界でニホ族を守るため。さらに言えば、彼らにモドキ肉を食わせるのが狙いだ。
この話を聞いとき、俺は超越者に問いかけた。
「地図に注釈を入れるなり、調停者に説明させておけば」「事前に知らせなかったのはなぜなのか」と。
だが返ってきたのは予想外の言葉だった。仮に知らせた場合、ほとんどの人間はモドキを狩ろうともしなかったのだ。それこそ山中に引き籠り、木の実ばかりを食べていたらしい。
単純に説明の仕方が悪かったのか、それとも妙な強制力……ゲームでいうところのチート対策でも発動したのか。何度試しても上手くいかなかったそうだ。
<ニホ族とツノ族が共存する世界>
お試しの7日間を過ごした後、生き残った人類は、地球そっくりの縄文時代に飛ばされた。
気候や地形はもとより、生息する生き物もほとんど変わらない世界。人類の代わりにニホ族とツノ族が栄え、動物に混じってモドキが共生する。
ここでの目的は2つ。
『ニホ族にモドキ肉を食わせて強くすること』
『そしてツノ族に人類を捉えさせ、彼らに知性を与えること』
てっきりツノ族の殲滅が目的だと思っていたが、超越者はそれを望んでいなかった。あくまで均衡をとるためであり、両者が共存する未来を想定していた。
「なあ。ニホ族のことはいいとして、ツノ族を賢くする意図は何なんだ? 2種族の交流とか、争いのない世界を創るためか?」
この際、人類が生贄だったことは隅に置いておこう。捕まった奴らは気の毒だけど、今さら掘り返したところで意味はない。
それより知りたいのはツノ族のことだ。知性を持たせて何をさせたかったのか。どんな未来を想定していたのか。そこが気になり問いかけると――。
「彼らは異能力者、いや、魔法使いのほうが近いかな。本来、そういった方向に進化させたかったんだ。いわゆるファンタジーってやつだね」
返ってきたのは斜め上の回答だった。
人類の生み出した空想の産物。その知識を利用するつもりだったらしい。現代人を取り込むことで、魔法の概念を得られるのだと力説する。
「いやいや、流石に無理があるぞ。想像で魔法が使えるなら苦労はない」
「そうかな。彼らの共有思念だって、立派な魔法だと思わないかい?」
「たしかにそうかもしれんが……」
超越者が言うように、ツノ族には元々の素養があるのだろう。念話みたいな能力自体を否定するつもりはない。
だが彼の理屈で言えば、俺たち現代人にも魔法が使えたはずだ。異世界転移に思い至り、魔法を試したヤツが何人もいただろうに――。
それにそもそもの話、あの世界には魔法的な要素がなかった。魔力とか魔石はもちろんのこと、ファンタジーを匂わせる文明も見かけていない。
強いて挙げるとしたらモドキ肉くらいなものだが……。
「なあ秋文。ツノ族が内臓を食べるのはなぜだと思う?」
「なぜって。そりゃ体を維持するためだろ」
「肉を食べれば能力が得られるのに? 内臓は栄養を摂るだけ? そんなわけないよね」
「……っ」
いきなり何の問いかけかと思えば、なるほどそういうことか。モドキ肉で身体能力が上がるように、内臓には魔力的な効果があるらしい。
「あ、詳しい内容は教えてあげないよ。今さら知ったところで意味はないし、ツノが生えても困るだろう?」
茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる超越者。
ただの意地悪なのか、それとも言えない理由でもあるのか。結局、何度聞いても話してもらえず、この話題は流されてしまった。
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