第132話 創造主との対話
「おー、冷たいのも結構イケるね」
「そうか。お気に召したんならなによりだよ……」
それから約10分後――。
俺は食卓を挟んで『超越者』と名乗る男と向かい合っている。
2人の手元にはアイスコーヒーの入ったマグカップ。客人はグイグイ飲んでいるが、俺は手を付ける気にならなかった。
全身の気だるさは緩和してきたものの、まだまだ万全の状態とは程遠い。いったいどんな魔法を使ったのか、一時的にモドキの能力がなくなったらしい。
「なんだよ。ずいぶん素っ気ないじゃないか。小春ちゃんも無事だったし問題ないだろ?」
「いや、単純に調子が悪いだけだ。もうちょっとだけ休ませてくれ」
先ほど超越者と遭遇してすぐ、俺は小春の元へと必死に駆け出した。彼は俺の行動を止めることなく、余裕の態度で手を振って見送っている。
当の小春は朝風呂の真っ最中だった。生まれたままの姿でピクリとも動かず、シャワーや湯気すらも完全停止状態。よくよく周囲を確認すると、全ての時間が止まっていた。
いや、厳密に言うと少し違うか。俺と超越者がいる部屋だけは正常に時が流れているそうだ。
まあなんにせよ、彼女の無事を確認したのち、俺は自らの意志で自室へと戻っている。
◇◇◇
それからさらに数十分、リビングには秒針を刻む音だけが鳴り響く。
ようやく体が馴染んできたのか、まともに座れる程度には体調が戻ってくる。さすがに動き回るのは無理そうだが、会話をする分には支障ないだろう。
「すまん待たせた。もう平気だ」
「おっ、そうかい? じゃあ――」
「……っ」
待たせたことを謝罪して目を合わせると、超越者がサッと手のひらを差し伸べてきた。
「時間はたっぷりあるからね。まずは秋文の疑問を
一瞬、なんの仕草かと警戒したが……なるほどそういうことか。てっきり、どこか違う場所へ連れていかれるのかと身構えてしまった。
俺が観測者と話した時は荒野だったし、調停者に選ばれたヤツらは白い空間に召喚されている。今回はどうなることかと思ったけれど、別空間へ飛ばす予定はないようだ。
こいつが友好的な理由はさておき、質問タイムを設けてくれるとはありがたい。聞きたいことは山ほどあるし、この際、遠慮なく聞いてしまおう。
目の前でニコニコと振舞う男を見つめ、俺は最初の問いを口にする。
「ならとりあえず。あんたは神様って認識でいいのか?」
「ん-、どうなんだろう。世界を創ったという意味なら間違いじゃないけど、どちらかといえば君たち人類に近いかな」
「ってことは、概念的な存在ではないと?」
「少なくとも生命体であることは確かだね。老化だってするし、時が経てば寿命も尽きるよ」
ならば宇宙人なのかと問うてみるも、超越者は首を横に振る。
遥か遠い世界に実在するものの、別の銀河系とか外宇宙とか、そんな3次元的な話ではないそうだ。
「じゃあ、超越者って名乗ったのは?」
「それは君たちが呼んでたからさ。べつに創造主でもいいし、なんなら神様ってことでも構わない」
兎にも角にも、地球は彼が生み出した世界であり、人類を育てるための箱庭とのこと。俺たちが経験した異世界を含め、全てがこの人物の管理下に置かれていた。
「惑星シミュレーションって言えばわかり易いだろ? 僕がゲームのプレイヤーで、君たちがそこに住むNPCって感じ」
「NPCって……。なら調停者と観測者はどうなんだ。ヤツらも同じプレイヤーなのか?」
「いや、彼らもNPCの1人だよ。役割こそ違えど、その価値は人類と大差ないかな」
少年の姿をした調停者はナビゲーター役。文字通り、地図の配布や電車のアナウンスなどを担う。ほかにも選ばれし千人を選出したり、俺たちを異界に送ったのもコイツだった。
一方、観測者の役目は世界を監視すること。今後に影響を及ぼす人物を抽出、
「世界の記録ってのは、ゲームでいうところのセーブ機能だよな」
「ああ。その認識で間違いないよ」
「それって何度でもやり直せるのか?」
「まあそうだね。上書きしちゃうと後戻りできないけど」
最後に世界を記録したのは、俺と江崎がゲートを再解放した直後とのこと。俺たちが認識できないだけで、世界は何度も巻き戻っているらしい。
「選んだ千人は全員ハズレ――いや、結果的に江崎くんはアタリか。秋文と彼のおかげで今日に至ったんだよ」
全てを鵜呑みにするつもりはないけれど、今のところ否定できる要素も見当たらない。紆余曲折あってここまでたどり着いた。ひとまずはそう捉えて話題を変えてみることに――。
『なぜ特定の人類を異世界に送ったのか』
『異世界で何をさせたかったのか』
俺が最も知りたかった2つの問いを投げかける。
「なるべくわかり易く頼む。じゃないと理解できないと思うんだ」
「もちろんだよ。この体を用意したのもそのためだからね」
「体を……いや、なんでもない。続けてくれ」
言語を含め、知能を人類レベルに合わせたってことなんだろう。さっきもシミュレーションがどうのと言ってたし、この分なら期待以上の説明が聞けそうだ。
「じゃあ、まずは君たちを選んだ理由なんだけど――」
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