第124話 1年の節目
年が明けた1月の某日――。
俺はヒンヤリとした空気を感じて目を覚ます。
ハッとして視線を移すと、布団に
今日は集団失踪事件からキッカリ1年後。なにか起きるんじゃないかと、昨晩から4人で過ごしたわけだが……。窓から覗く景色に変わりなく、ひとまずは普段どおりの朝を迎えた。
『目覚めたら異世界だった』
『外は魔物が蔓延る世界だった』
なんていう理不尽な事態は回避できたらしい。
「夏歩、そっちはどんな感じ?」
「今のところは全然。それっぽいニュースは流れてないよ」
「ネットにも情報がないし、問題なさそうだね」
朝から情報収集に
「昭子たちも全員無事みたいだ。ほかの3人はまだ寝てるってさ」
「昭子ちゃん、なにか言ってました?」
「いや、とくに何も。みんなが起きたらまた連絡するそうだ」
高校生組は明香里の実家に集まり、昨日から行動を共にしている。今日は学校を休み、極力、家の中で過ごす予定だ。仮に出かけるとしても、電車やバスには絶対乗らないよう言いつけた。
朝飯が出来たところで小休止、全員が席に着いてテーブルを囲う。
「なんにしても、異常がなくて良かったですね」
「ジエンのところも無事だったし、俺の考えすぎだったかもな」
1年という節目ではあるけれど、それはあくまで人類の感覚に過ぎない。超常の者にしてみれば「だからどうした」ってことなんだろう。昨日はどうなるかと不安だったが、何も変わらない日常に安堵する。
「ねえおじさん、
「ん、そろそろ掛かってくると思う」
こんがり焼けたパンを頬張り、冬加に言われてスマホを確認すると、現在の時刻は8時を少し回ったところ。駐屯地の状況を知らせに、間もなく連絡がくるはずだけど――。
テーブルにスマホを置くと同時、タイミングよく着信音が鳴る。
『縄城さん、おはようございます』
スピーカー越しの彼に慌てた様子は見られない。周囲からの雑音も聞こえず、駐屯地は平常営業だと思われる。小春たちが挨拶をすると、和島は嬉しそうに言葉を返していた。
『みなさんお変わりはないですか』
『ええ、こっちは普段どおりです。ほかの連中も問題ありません』
『そうですか。それはなによりです』
和島に状況を聞いたところ、駐屯地に異変らしきものはないそうだ。今朝がたゲートをくぐってみたが、車内やホームに変化なし。ほか2つのゲートもいつもどおりだと話している。
『間もなく関東ゲートの調査が開始されます。情報が届きましたら連絡しますね』
『わかりました。よろしくお願いします』
異常がないことに安心したのか、それとも単純に話したかっただけなのか、用件が済んだ後も話し続ける小春たち。仕事の邪魔をしても悪いだろうと、近々会う約束をしたところで通話を終える。
「ってことで先輩、週末の送迎は任せましたっ」
「どうせなら向こうで一泊しない?」
「あー、それ名案かも。昭子たちにも連絡しとくね」
どこが名案なのかは知らんけど、駐屯地に出向くことには賛成だ。
調査の近況を聞きたいし、異世界に異常がないかも直接確かめたい。俺も彼女たちの意見に乗っかり、朝飯を食い終わる頃には完全に気を緩めていた。
まさかこの時の約束が、すぐに果たされるとも知らずに――。
◇◇◇
その日の昼食後。4人がリビングで寛いでいると、ふいに江崎から着信が入る。
「もしや施設で異変が?」などと勘繰ってみたのだが、別段そういう訳ではないらしい。帰還者たちはいつもどおりに過ごしているそうだ。江崎の口調も相変わらずで、とくに慌てた
たぶんこっちの様子を気遣ってくれたんだろう。そう思って感謝の言葉を述べたところ――。
『えっとですね。実は上からの依頼、というか命令が下りまして……。今から関東の第1ゲートに向うところです』
前言撤回、どうやら面倒事に巻き込まれているようだ。部外者の俺たちに知らせるってことは、こっちにも関係する要件なんだろう。言い
事の発端は今日の朝、和島と通話した直後の午前8時半頃に
関東のゲート前に集合した隊員たちは、予定どおりに異世界の調査を開始。隊列を組んで通過しようと動き出した瞬間、突然、向こう側の景色が見えなくなってしまう。
ゲート解除前の真っ暗な状態へと戻り、誰が触れても侵入できなかったらしい。第2第3のゲートも同時刻に封鎖され、和島はその対応に追われていたんだと。結局、原因不明のまま上層部の指示を仰ぐことになった。
すったもんだの会議の末、政府は江崎と瀬戸を招集。ゲートを解放した張本人ならば、あるいは通過できるかもと考えたのだ。多少短絡的ではあるものの、現状、最も高い可能性とも言える。
『なるほど、それで現地へ派遣されたのか』
『そうなんですよ。最初は断ったんですけどね……』
ここまで事情を聞けば、続く内容は大方予想がつく。「俺たちもゲートを見てこい」と、上から説得するよう頼まれたんだろう。案の定、すぐに現地へ向かってほしいと説明を受ける。
『ゲートを通過できるのか。せめてそれだけでも頼めませんか』
『まあ、それくらいなら構わんけど……そのあとはどうするんだ? 異世界の調査も要請されたんだろ?』
『そこは皆さんの判断にお任せします。無理をする必要はありません』
仮にゲートを通過できても、江崎と瀬戸の2人は駅周辺の調査に留めるそうだ。魔物の対処は可能だとして、不測の事態に対応できないと言っている。
『わかった、とにかく現地に向かうわ。そっちも気をつけろよ』
異世界の調査はさておき、ゲートの状況だけは直接見ておきたい。小春たちにも確認を取り、4人で現地へ向かうことになった。
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