第101話 黄金の猿

 現在の時刻は17時を少し回ったところ。


 俺たちは拠点へと戻って、かまどを囲んでいた。


「みんな、今日はおつかれ。江崎さんも、遠慮なく寛いでください」

「はい。せっかくのお誘いだし、そうさせてもらいますね」


 それというのもつい先ほど、「ここのゲートに入れるか試してみませんか?」と、俺のほうから誘ってみたんだ。


『ゲートの場所ごとに鬼のツノが必要なのか』

『どこかで一度でも消費すれば、別の場所でも通ることができるのか』


 そんな提案をしたところ、彼はアッサリと快諾してくれた。


 結果は後者に軍配が上がり、新たにツノを消費しなくても通過することが可能だった。黒い壁に触れた瞬間、車内の景色が見えるようになったらしい。



「みなさん、今日は協力してくれてありがとう。正直な話、すんなり受け入れてくれるとは思わなかったよ」


 旨そうに肉を頬張る江崎は、猪モドキが好物だった。感謝の言葉を述べつつも、箸を伸ばす手を止めようとはしない。午前中の雰囲気とは別人のように、砕けた態度を露わにしている。


 徐々に素の口調が見え隠れしたり、自ら話を脱線させたりと。俺が受けた印象は「真面目の皮を被った親しみやすいヤツ」ってところか。とてもじゃないけど、演技をしているようには見えなかった。


「江崎さんて、意外と話しやすいよね」

「あー、たしかに。お堅いのは最初だけだったもんねー」


 夏歩や冬加が言うように、若い連中からの印象も悪くない。それほど歳が離れてないし、「気のいいお兄さん」って感じなんだろう。てっきり20代後半だと思ったけれど、実は23歳だったらしい。


(政府はさておき、彼自身は良いヤツっぽいかな)


 そう判断した俺は、日中に聞きそびれたことを確認していく。


「そういえば江崎さん。関東の帰還者って、覚醒者は何人いるんですか?」

「あーっと、最初に帰還した30人ですね。まあ、そのうち12人は絶賛拘束中ですけど……」

「ってことは、いま現在は18人ですか」

「ええ。ちなみに言っておくと、私と瀬戸がレベル7で、ほかは全員レベル5ですよ」


 単純な比較はできないが、能力の数で言えば真治や朱音たちと同じか。ほかの16人は、健吾や洋介たちと同等レベルだと思う。

 当時は30人で鬼に挑み、全部で20本のツノを回収したらしい。江崎の弁によると、鬼の集団は16体で3本ヅノの鬼はいなかった。


(全然関係ないけど、関東でもレベルって呼んでるんだな……)


 ひとまず関東の戦力を確認したところで、今度はもうひとつ気になっていた疑問をぶつける。


「それと日中に聞いた中学校のことなんですけど、あれは事実ですか?」

「はい、そのことなら間違いないですよ。なにせ襲われた当事者ですし」


 そう言ったあと、江崎は当時のことを語りはじめた――。



 江崎と瀬戸のふたりは、鬼のいる世界に変貌してすぐ、駅近くの中学校へと移動している。電車内の賛同者72名を引き連れて、その日のうちに到着を果たす。


 学校にいた生徒や職員のほか、周囲から集まった人数は延べ225人。そのあと1か月ほどの間は、みんなでそれなりの共同生活を送っていた。


 能力レベルの高い者は魔物狩りを担当。そうでない者たちは、日々の水汲みや木材の調達を――。と、こっちの小学校と同じように、魔物が侵入してくることはなかったそうだ。


 そんな共同生活の最中、事態が急変したのは35日目の朝のことだ。安全地帯だと思っていた中学校に、突如として1匹の大猿が飛び込んでくる。なお、その当時は朝食の真っ最中で、ほとんど全員が校庭にいたらしい。


 大猿は好き放題に暴れだし、目に付いた人間を次々と亡き者に。当然、江崎たちは立ち向かったが……相手は並の強さではなく、手が付けられなかったようだ。


「これは後からわかったんですけどね。この世界の大猿は、覚醒状態を維持してるみたいです。動きも素早かったし、腕力も相当なものでしたよ」

「なるほど、狩るのは不可能って感じですか」

「ハッキリとは言えませんけど、レベル7が2人じゃ無理ですね。なんせ、魔物まで襲ってきましたから」


 江崎が言うように、事態はそれだけに留まらなかった。大猿が登場してから2分も経たないうちに、今度は周囲にいた魔物までなだれ込んで来たらしい。校庭は地獄絵図と化し、みんなは散り散りに逃げだした。


 結局、この件で半数の者が死亡。駅に逃げ込んだ者だけが生き残った。


「どういうわけか、駅の敷地内は安全だったんですよ。大猿や魔物も入ってきませんでした」


 それ以降、何度か様子を見に行った結果。暮らしていた中学校はおろか、周囲の施設にも魔物が蔓延っていたんだと。なお、いずれの場所にも、黄金化した大猿の姿を確認している。


「話を聞く限り、原因は大猿の侵入で間違いなさそうだ」

「ですね。ここ一帯が無事なのは、きっと大猿を殲滅したからでしょう」


 縄文時代において、俺たちは大猿を狩り尽くしている。実際、この世界に来てからは一度も姿を見ていない。


(でもたしか、巨大熊は1匹残ってたよな……)


 まあいい。そこはひとまず置いておこう。それよりも小学校のヤツらを受け入れてもらうのが先だ。いまは大丈夫なのかもしれないが、いつ魔物が入ってくるとも限らない。


 とりあえず事実確認ができたところで、早期の受け入れについてを話し込んでいった――。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


<現時点での能力値>

※ハイエナの分はレベルのカウントから除外


『秋文』

 レベル9 残りの能力枠:1

 鹿3兎3マジロ3ハイエナ3猪3馬3狼2亀1大猿1巨大熊1


『小春、夏歩、冬加』

 レベル8 残りの能力枠:1

 鹿3兎3マジロ3ハイエナ3猪3馬3狼2亀1大猿1


『健吾、洋介、美鈴、麗奈』

 レベル6 残りの能力枠:1

 鹿3兎3マジロ2ハイエナ2猪3狼2亀1


『真治、朱音、理央』

 レベル7 残りの能力枠:0

 鹿3兎3マジロ2ハイエナ2猪3馬2狼1亀1


『明香里、昭子、大輝、龍平』

 レベル8 残りの能力枠:1

 鹿3兎3マジロ3ハイエナ3猪3馬3狼2亀1大猿1


『江崎、瀬戸』

 レベル7 残りの能力枠:0

 鹿3兎3マジロ2ハイエナ2猪3馬2狼1大猿1


『桃子と愉快な仲間たち』

 レベル5 残りの能力枠:0

 鹿3兎3マジロ2ハイエナ1猪3大猿1



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