第100話 2度目の会合
作業開始から6日目の朝――。
ゲート周りの伐採は進み、整地作業やテントの設営もある程度カタチになってきた。ほかにも白い天幕が4つほど建てられ、水道や下水の工事も着々と進んでいる。
まず間違いなく、こちらに配慮した結果なのだろう。ゲート自体に手を加えたり、電車内からの景色を妨げるものはない。工事車両やその日の人員、運んでくる資材などなど。わざわざリスト化したものを、作業前に提示するという徹底ぶりだった。
俺も何度かゲートをくぐり、現地を見て回ったのだが……。武器や兵器の持ち込みは皆無。日中の見張りは就いたものの、夕方には全員が撤収してる。
「じゃあみんな、そろそろ行こうか」
そんな状況のなか、俺たちは2度目の面会日を迎えていた。
相手はすでに天幕の前で待機中。数名の自衛隊員と一緒に、以前に会った政府の人間もいるようだ。今日は男性だけで、女性の姿は見当たらない。
対するこちらは全員で乗り込む手筈だ。いつものフルメンバーに加え、真治も同席している。
俺がゲートを通過すると、すぐに2名の自衛隊員が駆け寄ってくる。 ひとりは30代くらいの男性。そしてもうひとりは20代前半に見える女性隊員だ。
「おはようございます。本日の参加者は何名でしょうか」
「今日はここにいる13人です。よろしくお願いします」
語りかけてきたのは女性隊員のほうだった。こちらの女性比率が高かったからなのか、男女ともにホッとした表情を浮かべている。俺の返答を聞くや否や、男性隊員は天幕のほうへと戻っていった。
どうやらこちらの人数に合わせ、座席を並べ替えているらしい。天幕には側面の敷居がないので、相手の動きは丸見えの状態だ。
「これから対策本部にご案内します。どうぞこちらへ」
ゲートと本部との間隔は約50歩ってところか。案内されるまでもない距離だが、ここは素直に従っておくべきだろう。これからも世話になりそうだし、なるべく良い印象を与えておきたい。
そのまま天幕まで誘導されると、政府の男性と向かい合った。
「縄城さん、お久しぶりですね」
「はい、今日はよろしくお願いします」
「ほかのみなさんもはじめまして。私は江崎と言います」
彼の言葉を皮切りにして、挨拶を交わしていく仲間たち。俺はその様子を見守りながら、天幕内の設備を確認していく。
中央に幅広の長テーブルが置かれ、その周りに14台のパイプ椅子が用意されている。ほかに気になるものといえば、記録保持用の撮影機材か。天幕の四隅には三脚つきのカメラが設置してある。
面会時の映像を記録すること。映像記録を政府が管理すること。そして外部に漏洩しないことは、前回の時点で申し合わせ済みだ。すでにカメラが回っていることは、さきほどの女性隊員からも聞いている。
「では縄城さん。挨拶も終わりましたし、さっそく始めましょうか」
と、どうやら自己紹介が終わったらしい。みんなが席に着くなか、俺も江崎の正面に陣取る。俺の両隣りには小春と昭子が着席。両側面には夏歩と冬加と明香里、大輝と龍平と健吾がそれぞれ座った。
「みなさん改めまして。私は江崎、この第2ゲートを管轄する責任者となりました。正式に辞令が出たので、今後はここへ常駐する予定です」
「……なるほど。ってことは、関東のほうが第1ゲートですか」
「私たちはそう呼んでいます。向こうは引き続き、瀬戸が担当していますよ」
瀬戸というのは、前回一緒に現れた女性の名だ。元々はふたり揃って、関東のゲートを受け持っていたらしい。淡々と話す江崎からは、どことなく寂し気な雰囲気を感じた。
「えっと、まず初めに伝えておきますが……」
そう前置きをした江崎は、目を金色に光らせながら話を続ける。
「私と瀬戸は異世界経験者です。あなたたちと同じく、鬼を殲滅して戻ってきました」
前回会ったときの冷静な態度しかり。目の前で披露した覚醒能力しかり。そんなことじゃないかと、ある程度のことは予測済みだ。ほかのメンバーとも話し合っていたので、正直、それほどの驚きはない。
「……やっぱり驚かないんですね」
「まあ、そうですね。なんとなくですけど、そんな感じだとは思ってました」
江崎は少しだけ残念そうな顔をしたあと、自分の素性を語りだした。
前の世界で大猿を狩ったことや、駅近くの施設で鬼の集団と戦ったこと。さらには明香里たちと会っていたことを明かす。
「調停者に呼ばれたとき、4人とも近くにいましたよね? たしか明香里さんとは目が合ったんだけどな」
「えっ……私ですか?」
「学生服は君たちだけだったからさ。正直、かなり目立ってたよ」
江崎と瀬戸は、最初の世界からずっと一緒だったらしい。職業上の立場もあってか、率先して人を助け、次々と仲間を増やしていった。途中でニホ族にも会ったが、共に暮らすという選択はしなかったようだ。
もちろん輪を乱す輩もいたそうだが……。それをなんとか宥めつつ、巨大熊が倒されるまで凌いでいた。
そして鬼のいる世界に来てからは、駅を拠点に魔物を狩る日々――。ついには鬼を討伐して、日本人初のゲート解放者となった。
「それで帰還したとき、ひと悶着ありましてね」
「あー、この前言ってたアレですか」
ゲートをくぐったあと、数時間後に自衛隊と遭遇。保護と監視が気に入らなかったのか、抜け出そうとした12名が拘束された。
政府の公式発表では、最初の帰還者は18名となっている。しかし実際には30名の帰還者がいたんだと。ちなみに拘束された人たちは、然るべき機関に『協力中』とのこと。
「と、まあそんなことがありましてね。申し訳ないですが、しばらくは外に出られません。どうかご協力願います」
現在のところ、外出を許されているのは江崎と瀬戸のふたりだけみたいだ。ほかの帰還者は駐屯地で生活しており、そこそこ快適な暮らしを保証されている。
「あの、ちょっといいですか」
「……小春さん、でしたよね。どうぞなんでも聞いてください」
帰還までの流れを聞き終えたところで、隣にいる小春が手を上げた。
「外出はともかく、家族への連絡はどうなりますか? せめて安否の確認だけでもお願いしたいんですけど」
「あ、それはもちろん可能ですよ。帰還者の存在については、政府が正式に公表していますからね。もう少し先になりますが、この場での面会も予定しています」
すでに帰還した人たちは、実際、家族との面会を果たしている。もちろん政府が立ち会うし、異世界のことは口外しないという前提だが……ついつい漏らしてしまう人もいるらしい。
「わたしが言うのもアレなんですけど。それって、情報統制とか大丈夫なんですか? たぶん、駄々洩れ状態ですよね」
「……まあ、遅いか早いかの問題ですよ。世間に公表している以上、いつまでも隠し通すことはできません」
意図的に情報を流させ、国民への不信感を和らげる方針か。無理に隠し通すよりも賢い選択なのかもしれない。みんなもこの件に納得したようで、とくに不満が出ることもなく話が途切れた。
「それでは、みなさんの話を聞かせてください。ここからの会話はすべて提出記録となりますのでご了承を」
と、ここでようやく本題に移り、夕方に差し掛かるまで事情聴取が続いていった。
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