第96話 森の監視者
「んー、これはどうなの? やっぱ普通の森に見えるんだけど……」
「むしろ森しかないじゃん。さすがに判断つかないよ」
ゲートをくぐって早々、夏歩と冬加が口を開く。ここがどこなのかを話し合っているけれど、皆目見当がつかないみたいだ。
なるほどたしかに、一見するとただの森にしか見えない。周囲は木々で覆われ、地面には落ち葉や枯れ枝が散乱している。
見上げた空には雲がチラホラと。この場所も早朝なのか、太陽はまだ上りきっていないようだ。どうやら天気は良いようで、ゲートの周りはソコソコ明るい。
「あっ、こっちからも車内が見えますよ」
小春の声に振り返えると、ゲートの向こうに健吾たちが映っていた。心配そうな顔でこちらを覗いている。なにやら喋っているようだが……残念、声までは届かないようだ。
「小春、車内に戻れるか確認してくれ。俺は人の反応を探ってみる」
「わかりました。異常がなければみんなを連れて来ても?」
「ああ、それで構わないよ」
出入りを繰り返す小春を尻目に、俺は嗅覚強化を発動。探索範囲を最大にして、周囲の状況を確かめていくと――。
(うおっ、めちゃくちゃ人がいる……)
断言はできずとも、おそらくは現代人なのだろう。ヒトと思しき反応が、無数に飛び込んでくる。逆に鬼や魔物の気配は一切感じなかった。
「ねえお兄さん。なにか反応はあった?」
「ああ。少し離れた範囲に千人近い人がいるようだ」
「少し離れた……ってことは、この近くにはいないの?」
「たぶんな。一番近いヤツでも300メートル以上は離れてるぞ」
それから程なくして、健吾たちほかのメンバーも現地へ合流。みんなで検証をした結果、以下のことが判明した。
1.ゲートは薄い鏡のような形状。裏面は黒い壁になっている。いくら触れても反応せず、裏側からの出入りは不可能だった。
2.両方の世界は何度でも往来が可能。ただひとつの例外を除き、車内の物資は制限なく持ち出せる。スーパーで集めた物資をはじめ、鬼のツノやモドキ肉なんかも運べた。
3.前項であげた例外とは、明香里たちの持つ地図を指す。車内に戻れば復活するのだが……ゲートをくぐった瞬間、手元から消えてしまったのだ。これにより、地図による探索は不可能となった。
4.モドキ肉による身体強化は、ゲートをくぐっても維持されていた。大猿の覚醒時間やクールタイムにも変化はない。
「能力の維持はありがたいけど、地図が使えないのは痛いな」
近くに人の気配はないものの、そのうち移動してくる可能性もある。敵じゃないとわかるまでは、細心の注意を払いたいところだ。
「お互いの位置もわかりませんしね。探索は慎重に行きましょう」
「だな。昭子の言うとおり、みんなで固まって動こう」
ひとまず地図のことは棚上げにして、周辺の森を調べることに。互いの距離を保ちつつ、まずは南方面へと進んでいく。
「あ、なんだろこれ」
すると10メートルも歩かないうちに、隣を行く夏歩から声があがる。彼女は木の幹を見つめながら、頭に疑問符を浮かべた。
「こりゃたぶん人感センサーだな。うちのマンションにも似たようなのがあるわ」
赤く点滅を繰り返す小型の機器。それが腰の高さくらいの場所に設置してある。どうやら隠すつもりはないようで、なんのカモフラージュもされていない。
(俺が知ってるタイプなら、近場にも同じものがあるはずだが……)
と、案の定、数メートル離れた木にも同様のモノを発見。互いの射線を切らさぬよう、計算された位置に取り付けられていた。
「夏歩、これと同じものを探してくれ。たぶんほかの場所にもあるはずだ」
「それはいいけど……間違って反応させたらマズくない?」
「いや、むしろそれでいいんだ。誰の仕業なのか知りたいからな。ある程度調べたらゲートへ戻ろう」
ほかの連中にも同じことを伝え、それから30分ほどかけて森を探索していった。
◇◇◇
そして3時間が経過――。
拠点にも戻ってきた俺たちは、駅のホームで昼飯の真っ最中。交代でゲートを監視しつつ、何者かの登場を待ちわびていた。
今は俺と健吾が見張りを担当している。ふたりでステーキ丼を頬張りながら、ゲート先の森を見つめているところだ。
「なあ秋文、おまえは誰が仕掛けたと思う?」
「そりゃあ、普通に考えたら現代人だろ。それが政府なのか民間人なのか。そこまではわからん」
探索の結果、見つけたセンサーは全部で7か所。概ね20メートル間隔で、ほぼ無作為に設置されていた。やはり隠すつもりはないのか、いずれもわかり易い場所に取り付けてあった。
誰が取り付けたのか。なんの目的で設置したのか。そこまでは判らないが、何者かに監視されていることだけは確かだ。
少なくとも、ここが縄文時代ではないことは確定。鬼のいる世界の別地域、もしくは現代社会である可能性が高い。
「さっきみんなとも話したけど、相手と接触する気なんだろ? それが敵でも味方でも」
「ここに引き籠ってても仕方ないからな。せめてゲートの向こうがどこなのかは知っておきたい」
「ていうか、ホントに現れるのか? 相手もそれなりに警戒するよな」
「んー。直接来るかのかはさておき、何らかの動きはみせるだろ」
発見したセンサーはすべて反応させてある。音が鳴るわけでもなく、作動したのかは不明だが……おそらくは問題ないだろう。受信先の相手は、すでに検知しているはずだ。
「ま、このまま監視を続けるしかないわな」
「どうせやることもないんだ。気長に待てばいいさ」
――と、そんなやり取りをしてすぐのことだった。まるでフラグを回収するかように、森の奥から人の集団が現れる。
大きなリュックを背負った迷彩服が12名。それを囲うようにして、作業服姿の男女が歩いてきた。相手もゲートが見えているのか、こちらに向かって一直線に進んでくる。
「健吾、みんなを呼んできてくれ」
「わかった。一応、武器も用意しとくだろ?」
「……そうだな。向こうから見えない位置に固めといてほしい」
なおも詰め寄ってくる14人の集団。やがてゲートの前に陣取ると、ついには荷物を下ろして立ち止まる。
(俺は見えてないようだが……。この感じ、ゲートを見るのは初めてじゃないな)
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