第93話 ブチ切れちゃった
校門を挟んで12人対57人の構図。
どちらも武器を所持しており、まさに一触即発といったところか。地図を見る限り、挟み撃ちやら背後からの襲撃はなさそうだ。
先頭には桃子ら覚醒者が陣取り、その後ろに能力者たちが控える。
「お揃いでなんの用かしら。不介入の約束をしたはずよね?」
桃子は露骨に嫌そうな顔で、俺たちを値踏みするように見渡す。
新メンバーの明香里たちにも反応せず、すぐに視線を外すと、興味なさそうな態度をとる。どうでもいいことだが、立ち振る舞いに演技臭さを感じている。
「実は俺た――」
「ねえ、あんたさ。わたしの書置き奪ったでしょ」
俺が話そうとしたところ、小春が前に出て言葉をさえぎった。
低く唸った声色で、視線は桃子だけを捉えている。会談は俺主導でおこなうはずだったんだが……とりあえず相手の出方を見守ることに――。
「はぁ? わざわざそんなことを言いにきたの?」
馬鹿じゃないのと言い放ち、桃子があざ笑った瞬間だった。
「グオンッ」と凄まじい音がして、それと同時に、鉄のゲートが吹っ飛んでいく。念を押しておくが、これは比喩表現などではない。宙を舞うゲートが相手の集団に直撃する。
咄嗟に覚醒した数名が、なんとか押しとどめたものの――危うく死者が出るレベルの惨事だった。さすがの桃子も声が出せず、その場を後ずさって怯む。さっきまで門にいた高校生は、腰を抜かして青い顔をしていた。
まあ、犯人は言うまでもなく小春だ。目を金色に光らせ、なおも桃子のことを睨みつけている。俺の問いかけすら耳に入っていないようだ。
「あのさ。こっちは殺る気で来てるんだけど?」
さらに煽り立てる小春。そんな彼女は完全にブチギレている。夏歩がなんとか押さえているが、今にも突っ込んでいきそうだ。結局、数人がかりで抑え込み、小春の前進をとどめていた。
(あ、こりゃもうダメだな……)
相手はただただ呆気にとられ、夏歩や冬加ですらドン引きの状態。たしかに牽制にはなったんだろうが……。こんな過激な展開、むろん打ち合わせには含まれていない。
そんな
打って変わって1人対57人の現状。
ようやく向こうも立ち直ったのか、桃子と数名が俺のほうへと近づいてくる。ただし、誰ひとりとして俺を見ていない。全員が森に視線を送り、見えざる敵を警戒していた。
「さっきは悪かった。どの口がと思うだろうが……アレはこちらの本意ではない」
「…………」
とりあえず謝ってみたけれど、桃子は無言のまま頷くだけだった。すでに戦意は喪失しており、若干、震えているように見えた。
「今日は俺たちの居場所を話そうと思ったんだ」
駅に住んでいること。小学校と連携していること。それに加えて、不介入の念押しをしておく。
「詫びの品じゃないけど、すぐそこに魔物が置いてある。良かったらみんなで食べてくれ」
俺は森の奥を指さしたあと、静かにその場を去った――。
◇◇◇
みんなと小学校で合流したのち、俺たちは拠点へと戻る。道中の小春は反省を繰り返し、自らの暴走行為を謝罪していた。
アレには俺も驚いたが……仮に桃子と話せたとして、それが牽制になったかは怪しいところだ。それこそ結果だけを見るならば、目的自体は達成している、のかもしれない。
「皆さん、ホントにすみませんでした。今後は気をつけます」
駅のホームに戻ったところで、再び小春が頭を下げる。
「謝ることないって。むしろ、あれくらいやらないと効果ないし」
「そうだよおねえさん。私もムカついてたし、正直スカッとしたよ」
すぐに反応したのは冬加と夏歩のふたりだった。小春をフォローしている反面、本音が見え隠れしている。ほかのヤツらの反応だって似たようなもの。大して気にもしておらず、普段と変わらない様子だった。
「いずれにせよ、必要最低限のことは伝えてある。これでも襲ってくるようなら、返り討ちにするだけだ」
最後にそう締めくくり、みんなで夕食の準備に取り掛かっていった。
今日の当番だった俺は、食材を取りに1号車へと向かう。
座席にはたくさんの野菜が並び、天井部のラックには肉が積まれている。つり革にも肉がブラ下がり、車内は食材の宝庫と化していた。俺は適当な肉を見繕い、野菜を籠に詰めて外に出る。
(あとは……鍋と調味料だな)
その足で2号車に乗り込み、物で溢れた倉庫を物色していく。
こっちは足の踏み場もないほどの潤い。衣服や雑貨のほか、食器類などいろんな品が置かれている。正直持て余しているけれど……これも数年経てば目減りしていくだろう。
節約はもちろんのこと、新たな物資の調達も考えなければならない。
「よし、とりあえずこんなもんか」
ひととおりの材料を揃え、ドアに手をかけたときだった。「ガタッ」と物音が聞こえ、ハッとして音のしたほうに目を向ける。地図は事前に確認したし、侵入者がいるとは思えないが……。
「なんだよ、これの音か……」
そこにはエコバッグが置かれ、収納された鬼のツノが2~3本、床に転がっていた。
大した使い道もなく、ずっと放置したままだった鬼のツノ。おそらく、なにかの弾みでこぼれ落ちたんだろう。
ひとまず仕舞っておくかと、何気なく拾い上げた瞬間。
それまで静かだった車内に、モーターの駆動音が響き渡る。
一瞬、電車が揺れたかと思うと、それを合図に明かりが灯る。電灯は次々に点灯していき、ほかの車両にまで伝播していった。
ひさしぶりに見たからなのか、それとも視力向上のせいなのか。人工の灯りがやたらと眩しく感じる。それでも視線を逸らせず、俺はただ茫然と天井を眺めていた――。
「おい秋文、なにやってんだ! 早く外に出ろっ!」
呆気に取られていた俺は、健吾の声で呼び戻される。
すぐにホームへと飛び降り、みんなのところに駆け寄ると――ほかのヤツらも動揺しており、全員が電車に釘付けの状態。
俺も眺めているのが精一杯で、しばらくはなにも考えられなかった。
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