第92話 ひさしぶりの高校訪問
<現代57日目>
鬼の討伐から1か月が過ぎ、拠点での生活にもすっかり慣れてきた。
毎朝、夜明けとともに目を覚まし、みんなで顔を合わせての朝食。午前中は探索をおこない、昼前には拠点に戻る。午後は湖に移動、訓練がてらに水浴びをしてから切り上げる。
週に一度は休日を設け、一日中ゴロゴロ過ごしたりして――。忙しくもあり、楽しい日々を送りつつ、徐々に行動範囲を広げていた。
食生活の改善に加え、衣服や道具の充実は目覚ましく、ここでの生活に不満を漏らす者はいない。縄文時代に比べたら、それこそ天国のような環境と言えるだろう。
そんな俺はお留守番の真っ最中。小春と俺以外は午前の探索に出かけている。もうすぐ昼だし、みんなもボチボチ帰ってくるはずだ。
「秋文、お邪魔するぞ」
「おー、真治か。いつも悪いな」
「なに言ってんだよ。礼を言うのはおれたちのほうだ」
籠いっぱいに積まれた野菜。どれもみずみずしく、獲れたてであることはすぐにわかった。鬼を討伐して以来、こうして3日に一度のペースでお世話になっている。
「それで、運搬作業はどうなんだ? もうそろそろ終わるんだろ」
「ああ、おかげさまでな。順調にいけばあと3日で終わりそうだ」
「そりゃよかった。最後まで気を抜くなよ」
紆余曲折あったものの、残った物資の運搬は小学校のヤツらに委ねている。
鬼討伐の翌日には搬送を開始。ひと月かけて運び出し、ようやく終わりが見えてきたところ。さすがに子どもには頼めず、大人だけで運んでいるようだ。
ちなみに俺たちの取り分は2割弱となっている。先に好きなものを選ばせてもらい、残りはすべて小学校に渡した。
「なあ秋文。ほんとによかったのか? ほとんど……じゃないな。全部お前たちの手柄だろうに」
「なにも問題ない。こっちにも思惑があるし、実際、物資は必要だろ」
「まあそうなんだが……」
真治はここに来るたびに、毎回、同じことを聞いてくる。当初は揉めに揉めて、多すぎる分配品に戸惑っていたんだ。校長の朱音も遠慮がちで、なかなか受け取ろうとはしなかった。
『荷物が車両に入りきらないこと』
『多すぎる物資は略奪の対象になること』
これに加え、野菜の無条件納付を条件にして、ようやく納得してくれた。
「来年には米が手に入るんだ。その先行投資だと思ってくれ」
現在、小学校の北側にて田作りをはじめている。水路の整備も順調のようで、すでに学校まで引き込むことに成功。スーパーで手に入れた玄米を元に、来年の春から米作りがスタートする予定だった。
こればかりは人手が必要だし、俺たちではどうにもならない問題だ。そこで働く者の健康状態、そして心の安寧は自分たちのためでもある。
集団生活における
「そんなことより、桃子たちの様子はどうだ? あれから進展はあったのか?」
そのうち納得するだろう。俺は適当に結論づけ、話題を高校のことに切り替える。実は1週間前、桃子たちが小学校に訪れてきたんだ。その日は真治が応対して、早々にお帰り願ったのだが……。
どうやら俺たちの存在を危ぶみ、『一緒に住んでいるのではないか』『秋文たちはどこにいるのか』と、そんな感じのことを探ってきたらしい。
「あれ以降、なんの音沙汰もない。もちろん夜の番は徹底してるし、内通者っぽいヤツも見ていないぞ」
「……そうか。なら予定どおり、午後から顔を出してくるよ。帰りにそっちにも寄って報告するわ」
「わかった。いつでも動けるよう、こちらも準備だけはしておく」
桃子たちの来訪は、かなり前の段階から予測していた。俺たちのほうから乗り込むことも、すでに話し合っている。『所在不明の敵対勢力ほど怖いものはない』、ってのが向こうの考えだと思う。
俺たちがここにいることは、遅かれ早かれバレるだろう。あえてこちらから出向き、相手を牽制するのが目的だ。ついでに学校の様子を確認。妙な動きがないかも確認しておきたい。
◇◇◇
「それじゃあみんな、準備は良いな」
「うん、地図に動きはないよ」
「いつでも戦えます。先輩、早く行きましょう?」
時刻は15時を回ったところ。俺を含めた12人は、高校の近くまで来ていた。
少し離れた場所には魔物の山が積んである。こちらのチカラを誇示するため、事前に狩っておいた代物だ。ざっと見繕っても、70匹は超えている。
「小春、あくまで釘をさすだけだ。向こうが仕掛けてくるまでは――」
「それはわかってます。あくまで牽制、状況次第で殲滅、ですよね?」
会社のメモを奪われたせいか、小春だけは妙に好戦的だ。まだ桃子が犯人と決まったわけじゃないんだが……。それを言ったところで聞く耳は持たないだろう。
(夏歩と冬加も寄り添ってるし、よほどのブチギレ発言でもない限りは……まあ、大丈夫だと思いたい)
校門の前まで移動すると、2名の門番役が身構える。ひとりは速攻で校舎へと駆け込み、もうひとりは俺たちを見て――。
「あれ、あんときのおっさんじゃん! ひさしぶりっ!」
俺が最初に出会った人物。門番役だった高校生が笑顔で手を振った。
「おー、久しぶりだな。元気してたか?」
「まあボチボチ? なんとか生きてるよ」
この様子から察するに警戒心は薄いようだ。もしくは演技と言う可能性もあるが……たぶん、俺たちの詳細を知らされてないようだ。そう思える程度には自然な態度をとっている。
「それで、今日はどうしたの? ほかの人はお仲間さん?」
「ああ、やっと見つかってな。今日は挨拶に来たんだ」
とりあえず門に近づき、会談の申出と、校内の見学を頼んでみるが……。
「いや、それはどうだろ……。ちょっと無理かも的な?」
もちろん無駄なことは百も承知。これは相手の反応を見るためだ。「部外者を通すな」と、当たり前のことだが指示されているようだ。まあ黙っていようとも、向こうから出向いてくるだろう。
すると案の定、こっそり地図を見ていた昭子から耳打ちが――。
「秋文さん。全員、ここに向かってきます」
どうやら緊急招集をかけたらしい。相手の数は57人。以前より5人減っているが、それでもかなりの戦力だ。統制は取れているようで、思いのほか動き出しが早い。
結局、それから数分もしないうちに、ゾロゾロと人が集まってきた。
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