第91話 討伐報酬
それから30分後――
いったん外に出た俺たちは、明るい空の下でメモを確認中だった。
店内はもちろん、バックヤードや裏手の駐車場など、いろいろ調べた結果は以下のようになっている。
<スーパー内の状況>
・店内は思いのほか綺麗な状態で、空の包装などはほとんど落ちていなかった。鬼は興味がなかったのか、店の商品には手を付けていないようだ。
・ここに住んでいた人たちは、バックヤードを寝床にしていたらしい。床にはダンボールが敷かれ、ゴミもキチンと整理されていた。
・寝床の数から察するに、ここの住人は32人だったと思われる。衣服や雑貨など、ほかの店から集めた品が大量に置かれていた。おそらく生存者が合流し、ここで共同生活をしていたのだろう。
・スーパーの裏手には大量の人骨が散らばり、破れた衣服とともに放置されていた。腐敗した形跡がないことから、おそらく鬼に食われたものと推測する。
<残っていた食品>
・生鮮食品は跡形もなく消え、水やお茶のペットボトルは9割方が空だった。とはいうものの、ジュースや酒類はかなり残っている。この状況から推測するに、生存期間は短かったのかもしれない。
・そんな一方、精米や小麦粉、塩や調味料はほとんど手つかずの状態。缶詰めや菓子などを含め、営業当時の品物が大量に残されていた。倉庫にもかなりの量が備蓄され、保存状態も極めて良い。
「死んだ人には悪いが……こりゃあ大収穫だぞ。早く学校のみんなにも伝えたいな」
「うんうん、明日から忙しくなりそうだね!」
真治は安堵の表情を浮かべ、明香里は嬉々としてメモを眺めている。
「この辺の魔物は狩り尽くしたし、学校のみんなで運べば大丈夫だろ」
俺は冷静を装いつつ、予想以上の成果に浮かれていた。
ここで死んだ連中のこと。鬼が人を喰うこと。そんなことは気にもかけず、物資の独占欲に溺れかけているところだ。なんとも浅ましい話だが、これで生活面は一気に向上するだろう。
そんな期待感を込め、ほかの店舗にも足を向けていく――。
◇◇◇
結局のところ、敷地内の調査は陽が暮れるまで続いた。鬼の死体も燃やし尽くし、すでに拠点へと戻っている。
いまはかまどを囲んで食事の真っ最中。夏歩と冬加が肉にかぶりつき、恍惚の表情を見せる。
「くぅぅ、塩コショウうますぎっ!」
「ハーブソルトも最高だよぉ」
強烈な旨味とスパイシーなハーブの香り。口いっぱいに広がる味覚を前に、頭がおかしくなるレベルだった。
「これはもう、好みの肉とか関係ないな。まるで別次元の旨さだ……」
同じ魔物肉だというのに、これほどの違いがでるものなのか。全員が箸を止めることなく、調味料の魔力に魅入られていた。もちろん肉だけではなく、生野菜にかけたドレッシングも抜群の味に仕上がっている。
「ほかのお店も無事でしたし、ほんと、最高の一日になりましたね!」
「おれもメモを見て驚いたぞ。まさかあんなにも残ってるとは――」
ぬるいビールを飲みながら、小春と健吾が笑顔で話す。
ふたりが言うとおり、ほかの店舗の状況は極めて良好。鬼に荒らされた形跡はなく、どの店も営業当時のままだった。
衣料品店には服のほか、下着や靴なんかも揃っていた。当然、俺たちはその場で着替え、すでに上から下まで新調済みだ。とくに女性陣は大はしゃぎして、大量の下着を持ち帰っている。
惜しむらくは、服の大半が冬仕様だったことか。日本が変貌する直前は真冬だったし、こればっかりは仕方がない。まあ、いずれ寒くなることを考えれば、むしろありがたい誤算とも言えるだろう。
「薬局の品も非常に助かります。アレがあるのとないとでは――」
小春の言葉に頷く女性陣。薬局では薬のほかに、生理用品や洗髪剤などを確保。お目当てだったトイレットペーパーも入手できたし、今後は快適な尻生活が送れそうだ。
ちなみにこの薬局、薬のほかに食品なんかも置かれており、スーパー顔負けの品ぞろえを確認している。
「調理道具なんかも揃ったし、これで当面の問題は解決されたな。あとは今後どうするかだが……まあ、じっくり考えればいいか」
現状、ここで生活するのが正解だと思っている。本来の日本、すなわち文明のある世界に戻れるかは不明。そもそもの話、そんな世界が残っているのかもわからない状態だ。
『東のほうに去っていった自衛隊』
『選ばれた者だけが所持する地図』
『出会えるかも不明な観測者や調停者』
事態が動くとすれば、この3つのどれかに期待するしかない。
そのときが来るまで生き延び、少しでも快適な暮らしを整えていこう。俺はみんなにそう伝え、当面の現状維持を提案した。
「まずは近場の探索からはじめようか。鬼の集落があるかもだし、巨大熊や大猿の位置も把握したい」
「ここで一生を終える覚悟も必要ですね。物資にも限界がありますし、わたしは先輩の意見に賛成です」
小春の言葉を皮切りに、ほかの面子も同意の意思を示す。
生活レベルはさておき、「生きていくだけなら問題ない」と、その後も前向きな意見が飛び交っていった――。
「ところでおじさん、回収したツノはどうする? とりあえず2号車に仕舞っとく?」
やがて夕飯も終わったころ、冬加がそんなことを聞いてくる。
回収したツノは全部で40本。雑貨屋で回収した大型のエコバッグには、大小さまざまなツノが詰め込まれていた。
「そうだな。どうせ使い道もないし、ひとまずそうしてくれ。それとみんな、間違っても食べないでくれよ?」
「いやいや、それはありえないでしょ。あんなの食うヤツいないって」
「お兄さん、フラグを立てるの大好きだよね。さすがにないと思うけど……全員、鬼化エンドとかやめてよねー」
「いや、べつにそんなつもりはないんだが……」
念には念をと言ってみたものの、どうやら余計なひと言だったらしい。
みんなのツッコミを受けつつ、その後も楽しいひと時が過ぎていく。
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